003 ダリア・ミーツ・ガール③
私、ダリア・グローリアスは謎の美少女に文字通り手も足も出せずに敗北した末、気絶してしまった!
しかも、気絶する一瞬フリージアの声がしたし、絶対勘違いしてるフラグだよね!
でも、気絶している私にそんなことは関係ないのであった……。
「――だ!」
「――にちがいない!」
「ん……」
どこからか聞こえてくる喧噪。
余りの煩さに私の意識が覚醒する。
「……うっさいなぁ」
こちとら夢の世界で謎の可愛い美少女とのガールミーツガールを果たし、いけない百合の園へと誘われていたというのに。
「はっ! 美少女!」
脳裏に焼き付いた謎の少女の姿が決して夢ではなかったことを思い出す。
だったら、この喧噪の正体はきっと――
「聖女様だ!」
「女神様が降臨なすった!」
「いや、幻の美少女戦隊にちがいない!」
「罵ってくださーい!」
――喧噪の正体は、謎の不審者どもであった!
「……あ、起きられたんですね。良かった、です」
「あ……」
不審者、もとい村人達の中心には――件の少女。
……どういう状態だ、これ?
改めて少女の顔を覗いてみると、やはり凄まじいまでの美少女であることを認識する。
容貌。きわめて良し。あのお目目で見つめらたらきっとヤバい。
体型。スレンダー。適度な肉付きがなお良し。
胸。私よりは、ない。(やや気分良し)
尻。すっごく触りたい。
――そしてその黒髪。
始めて見た。
東方の人間は髪が黒いと聞いていたが、艶があって本当に綺麗。
さらさらしてそうで、こっちも触ってみたい。
「あ……の……」
不躾にも私は気づかないうちに少女をジロジロと眺めていたようだ。
視線を察せられ、少女はどこか不安げな視線を私に向けていた。
あ、私ヤバい人だと思われてるかも。
「あ、あの、……先ほどは申し訳、ないです!」
いきなり頭を思い切り下げられた。
「え!?」
先ほど……、先ほど……。
「あああっ! そういえば貴女、不審者だったわね!」
「……ちっ、違いますっ! ……あ、でも、そうなのかも……です?」
「美少女なのに、不審者……。女スパイね! お色気忍法ね!」
よりによって女である私が女の色香に惑わされるなんて笑止千万、あめあられである。
なるほど、あの圧倒的なまでの技量も納得である。
「……聖女様は女スパイ!?」
「……女神様は女スパイ!?」
「美少女忍法戦隊!?」
「罵ってくださーい!」
「お前らは黙ってろ!」
湧き立つ村人達、もとい不審者ども。
いや、まさか……。
こいつらはこのお色気忍法にすでに籠絡されているのか?
――全ての辻褄が合致した気がした。
……でも、だったらこの子の目的は、何?
フリージアに当てられた哨戒任務。
おかしいとは思っていたけれど、もしかしてこの子が関係しているの?
「――だから、あのっ……!」
「……貴女の望みは何?」
「……望み、ですか?」
「そう。要望を言うのよ」
「…………」
「……そんな愛くるしい目で私を見つめても無駄よ! 早く白状しなさい!」
「――だち」
「え?」
「……お友達、が欲しい、です」
「…………ふぇ?」
「……ふぇ?」
「ふぇ?」
……そう。
女スパイはお友達を所望するか。
なるほどなるほど。
お友達、それは何であったか。
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
……いや、めっさあるやん。
「お友達って、お友達?」
「……ううっ、やっぱり、無理でしょうか?」
「う、うう? うぬ……?」
……この子、不審者よね?
いや、お友達が欲しいとか、確かに本物の不審者っぽいけど。
何か。
何かが違う気がする。
そもそも、何かを私は勘違いしている……?
「……ねぇ、貴女はそもそも女スパイ?」
「違い、ます?」
「お色気忍法?」
「……?」
「不審者?」
「さっきまでそう言われてました……」
「美少女?」
「?(愛らしく小首を傾げて)」
「…………ねぇ。もしかして、山にいた理由は――」
「あ、はい、お恥ずかしながら、……道に迷ってました」
本当に恥ずかしそうに彼女が衝撃の事実を告げる。
全てが全て、私の勘違いから始まったようだった……。
ん、いや。
そもそもの不審者とか言い出した村人の方が悪い。
「……あっはははは、ごっめーん☆」
我ながら最悪の謝罪だなーと感じながらも、もはや笑うしかないのも事実であった。
こんなにも可愛くて綺麗な子。
できればもっと別の出会いをしたかった。
違う形でなら本当に友達になれていたのかも知れない。
……もう、仲良くなりたいとか夢のまた先。
勝手に不審者扱いして。
勝手に襲い掛かって。
なんか死ねゴラーみたいなことも言った気がしないこともない。
……思い返すと完全に彼女に悪印象を与えるようなことしかしていない。
せめて、……嫌わないで欲しいな。
今、彼女はどんな顔をしているのだろうか、とちろりと少女の方を見やる。
そして驚く。
私の心情とは裏腹、彼女は笑っていた。
「……ふふっ。誤解が解けたみたいでよかった、です」
そう言って、安堵したように笑みを溢す黒髪美少女。
私は彼女のその表情に目を思わず目を奪われる。
「っ!?」
「?」
……すっごく可愛い。
こんなにも可愛くて素敵な子が本当に世界に存在していていいのかしら……!?
しかも愚かな私に微笑みかけてくれるなんて、なんて慈悲深いの……!?
「……はっ! 貴女、天使ね!」
「女スパイじゃなくて……天使様!」
「天使……大天使!」
「天使! 天使! 天使!」
「罵ってくださーい!」
……本当に愚かな私。
今ならば、私も彼女を認識することができる。
彼女は紛うことなき天使。
そして、この荒んだ世界に咲いた一輪の可憐な花。
それが彼女。
マジ・天使!
「あっあの!」
突然、大きな声を上げるマイエンジェル。
「ひゃ、ひゃい! なんですか天使さまっ!」
緊張のせいか、どっかから変な声が出た。
しかし、こんな私にどんなご用事が……。
「……すっ、すみません! ……さきほどの、お返事は――――いえ、何でもないです」
「いえ、何でも良くなんてないです! お返事! お返事ですね! ……お返事?」
天使様。
お返事。
あれ、何かあったか?
……神託的な何か?
………………あ。
「…………と、友達、欲しいの?」
「はい」
返事をする彼女の目は真剣であった。
……そっかー。
友達が、欲しい、か。
「……あの、その。私なんかでよければ……友達、なる?」
「っ!? …………はいっ!」
本当に嬉しそうに彼女は笑った。
思わずつられて私も笑ってしまう。
いったいなんだろうかこの展開は。
全く意味がわからない。
理解が状況に追い付いていないのだが、何故か何か無性に嬉しい。
彼女が、私の、友達。
友達かー。
友達…………うふふふふ。
――どうしてこんなことになったのかは当事者である私にも良くわかっていないけれども。
こうして私と謎の美少女は友達になったのだった。