001 ダリア・ミーツ・ガール①
「……だからな、ダリア。お前は――」
――口煩いフリージアは嫌いである。
私ことダリア・グローリアスは、年甲斐もなく叱られていた。
私の目の前で延々と説教を垂れる脳筋女はフリージア・セイクリッド。
基本、頭が固い。
私に関してだけ非常に煩い。
でも、見た目はすっごく綺麗。
黙っていれば美人っていう奴であろう。
でも煩いし、けっこう天然入ってておバカだからモテない。
脳筋だしね。(2回目)
さて、どうしてこのような悲惨な目に私があっているのかを説明しよう。
とある事情があって私はフリージアを尾行していた。
フリージア小隊。
シルファード王国騎士であるフリージア率いる小隊である。
現在、我が国は隣国であるレヴィア帝国の侵略を受けている。
全く、情けないことである。
今回、詳細は省くが、フリージア小隊は戦いの最前線から外れた北方の山奥で大して意味を為さない哨戒任務を与えられていた。
当然、何かしらの名目は与えられているのであろうが、何と言ってもここは山奥である。
戦略的に重要性が低いとされているこの場所。
野生の獣が生息していても、野生の敵兵は存在しないであろう。
ともかく、フリージア小隊は哨戒任務、私はそれを尾行していたということだけを理解してもらいたい。
尾行。それは、相手に気づかれず、後をつけること。
――見事にバレてしまっていたのだった。
まあ、ここに来るまでバレなかった時点でギリギリセーフ。
ナイス、私である。
ともあれ、私は早速大きな受難に邂逅しているのは間違いない。
このままでは、フリージアによって王都へ突き返される可能性が高い。
王都までかなりの距離があるから、簡単には突き返されることはないだろうが、相手はフリージアである。
口より先に手が、手より先に剣先が飛び出るフリージアには細心の注意を払わないといけない。
そもそも、これはフリージアのための計画であるのだ。
フリージアが原因で全てが台無しになってしまっては元も子もない。
私は、フリージアを守らないといけないである。
――そして、今に至る。
「で、わかっているのか、ダリア?」
「うん、そうね」
「……今日は妙に物判りがいいな。」
「うん、そうね」
「うむうむ、では早速私と王都へ戻ろうか!」
「うん、……って、よくないわよっ!?」
突然大声で否定の意を表明する私に、キョトンとするフリージア。
ほぼ脳死状態で受け答えをしていたため、全く話を聞いていなかったのが仇になった。
「私、帰らないわ!」
「お、おい、さっきまでの聞き分けの良かったダリアは……」
「あの子はもういないの。今の私は誰にも止められない……」
「な、に……?」
「さしずめ今の私は、怒り狂った雄牛、闘争するカンガルー、何かと口だけは達者な中年糞ババアよ! ……最後のは撤回するわね」
「む。そうか」
「何かと口だけは達者な糞ババア……、それはあんたよ! フリージア!」
「なぜ、矛先が私に!?」
狼狽するフリージア。
このまま適当にフリージアを罵ってこの場を切り抜けようと思い立った私であったが、そんなことをするまでもなく転機は突然訪れたのだった。
「大変です! 騎士様! 不審者が!」
「私は、ババアでも、不審者でもない!」
部屋に突然押し入ってきたブ男の胸元をフリージアが掴みあげた。
中空に浮かび上がる男。
わお、相変わらずの馬鹿力。
吊り上げられた男はただの村人のようだ。
足をばたつかせて非常に無様な姿である。
……なにか、面白そうな予感。
とりあえず、私は事の流れを見守ることにした。
「ひいいいっ! お許しください! お許しください!」
「……あ、すまん」
言葉ばかりの謝罪をし、フリージアは男を離した。
「……で、なんだったか。私、じゃなくて誰が不審者だ?」
「へ、あ、あ、はい! 畑へ向かう山道で、黒尽くめの格好の男が徘徊しておりました! あれは悪魔です! 血走った眼をしてました!」
「不審者、か。……そうだな、それは放っては置けないな」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ペコペコと何の価値も無い頭を下げる男。
話の内容も過剰に演出し過ぎだし、そもそも言葉の使い回しにセンスが感じられない。
当事者としてみると、そんなものなのだろうか。
……だけど、そんなことよりも、ね?
「……ねぇ、あなた。不審者が見つかったのっていつ頃?」
「つ、ついさきほどです! まだ、化け物のやつは近くをうろついているはずです!」
「ふーん。山道って……あっちよね」
「おい、ダリア、まさか……」
「じゃっ! フリージア、行ってくるわね!」
「ちょ、待て、待つんだ! ダリア!」
悪魔の次は化け物かよ。
そんなことをふと思ったが、そんなことはどうでもいいのである。
私の名前を叫ぶダリアを後目に私は駆け出した。
「村の人々が安心して過ごせる日々を取り戻さんがため、私は不審者討伐に赴くのであった!」