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赤いのと悪いの

1年から同じクラスで、友人である阿久沢とは高校入学時に知り合った。

『赤木』と『阿久沢』で前後の席となるのは必然で。

きょろきょろと教室中を見渡しては、何か納得する様に頷いている彼に思い切って話しかけたのがきっかけ。


日系の顔をしているが、どこか欧米系の血が含まれていそうなパーツ。

ハーフか何かか?と疑問に思ってつい口に出してしまったが、阿久沢は頷いた。

どこの中学?と訊くと学校には通った事が無いと言われ、出身をついでに訊いてみると外だ、と返って来た。

外、と聞いて勇治は「ああ、海外ね!」と阿久沢の日本語は少し拙いのだと分かった。

中学に通った事が無いって言うのは、向こうとこちらとじゃ物の言い方とか教育の仕組みが違うんだな、と言語と文化の壁を感じた。

阿久沢は不思議そうな表情を浮かべ、うんうん、そうかそうか、と言っている勇治を見ていた。


それから2人は友人として1年を過ごした。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「昨日はどうだった?」


校舎も校門付近と同様、賑やかだ。

勇治は頭の後ろで手を組み、横を歩く阿久沢に尋ねると硬い表情に少しだけ暗みが降りた。


ああ、駄目だったのか……

 

昨日の朝に起きた髭もじゃの騒動で交通機関は遅延し、新学期の始業式は時間を遅めた。

通学してくる生徒が少なかったのもあるし、教師もそろいが悪かったのもあるけど。

勇治も『役目』を果たしてからの登校だったが、無事、式は終わった。


式後にクラス分けで阿久沢の名前と翠の名前を同じ表に見つけた。

ちょっと嬉しくなり、掲示板に向かって来た阿久沢に声をかけた時にはいつものローテンションがさらに降下していた。

容姿は悪くない—―むしろ自分より良い……のだが、無気力なだるさを持つ阿久沢。

お前がモテないのは多分そのせいだぞ、と勇治は助言しようと思ったが、友人がモテモテになるのはなんかむかつくから言わないでいる。

そんな彼が輝く瞬間は1つだけ。


「買えなかった……」


今も昨日と同じ位低いテンション。

加えての無表情に勇治は「元気出せ」と肩をポンッと叩いた。


阿久沢の不機嫌の理由は昨日発売の新作ゲームにある。


『あーそう』


『へー』


『ほー』


会話の至る場面で気の抜けた返事をする阿久沢。

この友人の瞳が輝き、本気モードになるのはゲームの事だけ。


つまり、阿久沢は極度のゲーム大好きなゲーマーだ。


彼と楽しく会話をしたい時はとりあえずゲームの話をちょっとでも含めれば良い。

というのがこの1年で悪との戦い以外に学んだ事。

別に、


『二次元萌え』


とか


『リア充乙』


とか、そういう『オタク』というわけではない。

最初はそれ系が好きなのか?とそっち系のクラスメイトが話しかけたが、


『萌え?リア充?なんだそれは』


と逆に突っ込まれていた。

あ、知らないのか……と勇治は同類を見つけたと喜んでいたクラスメイトが撃沈する姿を見送った事もある。


純粋にゲームを攻略していくのが楽しい。

ストーリーやキャラクターに個性があって芸術的。

設定が面白く、色々と勉強になる。


など、まるで研究家の様な評価をしている阿久沢。

いうなれば彼はゲームを極めたキングオブゲーマーを目指しているのだろう。

そんなゲーマーの阿久沢が、予約した3ヶ月前から楽しみにしていた新作ゲーム。

予約した店は正木市にあり、阿久沢は始業式が終わった後で購入しにいく予定だった。

待ちわびて購入したゲームを帰って徹夜でやる……とうきうきと話していたのを思い出す。


現在の阿久沢を見ればそれが叶わなかった事が十分分かった。


始業式の後、阿久沢が恐れていたのは『店が正木市にある』『事件の現場がすぐ目の前』『交通機関=道路も混雑』というキーワード。

それが的中してしまったのだ。


「今日は店開いてるかもだし、な!元気出せ!」


「俺は常に元気だ」


強がっているけど、本当は落ち込んでいるんだ。

ここは友人として励ましてやらなければ!


「昨日の黒い髭もじゃ、アースレンジャーがやっつけてくれたんだしさ!」


髭をちりちりもじゃもじゃにしてやったし!

と心の中で付け加え、敵は取ったぜ!と親指を立てた勇治。

阿久沢はその言葉にフッと笑みを浮かべる。


「そうだな。ヒーローには頑張ってもらわないとな」


友人が正体を隠している自分を応援してくれている。

勇治は気恥ずかしくなり、つい、「頑張るぜ!」と叫んでしまい、慌てて口を手で覆った。

阿久沢は笑ったまま机に鞄を置き、今学期も前後となった勇治の後ろの席に座る。



「ところで」



気付かれてないようでほっとし、席に着くと後ろからぽつりと呟きが聴こえて来た。

振り向くと、どこかの司令官の様に肘をついて顎を乗せている阿久沢がいて、



「ヒーローの就寝時間は何時なのだろうか」



と言った。



アースレッドは9時です。

なんて言える訳も無く、勇治はさ、さぁ?と首を傾げるだけだった。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





隣を歩いている赤……赤……名前は忘れたが、とりあえず赤いのは地球で初めての友人だ。


真央の外見は母親譲り。

どちらかといえば、地球人よりの外見の真央はこの星に混ざるのには適した姿だった。

弟達も地球人の外見をしているが部分部分に父親が入っており、地球人にまぎれるには多少の擬態が必要。


真央の故郷は皆が個性溢れる(母曰く、なんか中に別人が入ってそう!ぶはは!)姿で一目で見分けがつくが、地球人は皆同じ様な外見で若干分かりづらい。

名前も母が名付けたのだが地球人に近いネーミングセンスをしていたのだろう。

偽名や擬態を使う事無く本当の姿のまま、真央は地球人の教育機関である学校に通っている。


地球文化や歴史を学ぶには丁度良い。

もしかしたらゲーム仲間も居るかもしれない。

っていうかぶっちゃけ家に居たら父親や弟、部下達がうるさいので避難するという意味もあった。



そして出会ったのがこの赤いの。



彼は父親と敵対している地球の防衛戦隊の人間。

もっと言えば、5人の中の赤いセンターの奴だ。

正体を隠している設定らしいが、体格や声、身のこなしを見れば簡単に分かる。

真央が気付いたのは初登校で教室に入り、席についた後。

赤いのが振り返って自己紹介を始めた時。



あ、こいつあの赤いのだ。

えーっと、あー、アースなんとかっていう。

糞親父の部下をボコってくれてる奴。

それの赤いのだ。



成る程、中身はこれだったのか、と真央は初対面で謎のヒーローの正体を知ったのだった。



本人は隠したい様で、「お前、あの赤いのだろ」と言ったら焦るだろう。

真央も別に正体が知りたかった訳でも、殺してやろうと思っていた訳でもないし、わざわざあの馬鹿共にせっかく知り合いになった人間を差し出す程、『意地悪』でもない。

それに、自分も


『悪の組織を仕切ってるボスの息子でーす』


なんてぶっちゃけるつもりは無い。

真央はただ『平和に地球での生活と文化ゲームを楽しむ』ことができれば、赤いのとその仲間達が父親をぶっ飛ばそうが、あの黒いもじゃもじゃの髭をバリカンで剃ろうが、どうでもいい。

むしろ、侵略行為によって自分の楽しみが阻害されることこそが真央にとって許さざる行い。


父親達よりも赤いのを応援してしまうのは本能である。


昨日の黒いもじゃもじゃが暴れてくれたせいで新作ゲームが買えなかった。

今朝はそれについて苛ついていたが、髭チョッキンの刑で済ませてやった。

アレでも父親の部下だし、殺すなら『こいつぶっ殺しても良い?』と一言告げてからやらなければならない。

それは当然、糞親父に会わなければならないといけない事になる。


それの方が面倒で嫌だ。


かといって、父親ごと部下達を始末すれば、ちょっとは愛情を残している母に怒られる。

そして真央が逆切れし、第3次阿久沢親子による惑星大戦が勃発する。

星の3分の1が破壊され、末っ子のご飯の時間にならなければ終わらないというあの戦いが。


それもそれで面倒だ。


残るは傍観する事。

その上で注意事項を守らせ、邪魔にならない様に侵略行為を行なわせる事だ。

いや、侵略を許してはいけないか……ゲーム技術や開発者が居なくては文化が衰退する。


後々注意事項を増やしつつ、地球を応援しよう。

そうしよう。

地球の漫画で、真央が悪役ならこの赤いのはヒーロー……主人公なのだから。

敵が勝ってしまうのはつまらないし、楽しみが減ってしまう。

ゲームも同じ。

クリアしてしまえば終わってしまうのだ。

ならばやる事は1つ。



「俺は阿久沢だ」


「よろしくな、阿久沢」



俺はこの正義のヒーローである赤いのと友人関係になった。








思えば、この赤いのとの付き合いも1年経つ。

未だに真央が悪の総帥の息子とも、アースレッドである事がばれてることも、気付かれていない。

それどころか、地球人の仲の良い友人カテゴリーに部類されている。


まぁ、こいつはこいつで面白いから良いけど。


1年経ってやっとこの赤いのの顔と他の奴の顔の見分けの付け方が分かってきた。

よくこの赤いのに絡んでいる『幼なじみ』とかいう雌……じゃなくて、女。

名前は……みどり。

そう、みどりだった。


こいつも初対面でアースグリーン?と分かり、ふーん、となった。



このみどりは赤いのと交尾したいのか、と。



雌が雄を見る様な瞳で赤いのを見ていたみどり。

赤いのは気付いていないのか、みどりとはそういう気は起きないらしい。


俺の星の雄共なら発情期になって飛びつくのだがな。

もちろん、俺はまだ発情期に入っていないし、がっついたりもしないが。


地球人は発情すれば誰とでも交尾をすると資料に書いてあったのだが、やはりそれは間違いだったようで。

いつしか母が言っていた、『愛』とやらが無ければ交尾はしない、という説の方が正しいのか。

人間の交尾を一度は見てみたかったのだが。

ん?待てよ……


色々考察した後、真央はみどりに『頑張れよ』と励ましの言葉を赤いのを見ながら送った。



これと赤いのがくっつけば交尾をするかもしれないしな。



などという思惑を知らずに、みどりは真央を『自分の恋のサポーター』と認識する様になった。

ことあるごとに真央のもとに来ては『どうしよう!どうすればいい?!』と相談を持ちかけてくる。

そんなもの知ったこっちゃないが、とりあえず適当に相手をしてやるのも日常化して来ている。


未だに交尾はしないが。






今日も遠目から赤いのとみどりが同伴登校してくるのが見えた。

あれほど傍に居るのに何故交尾しないのか謎だが、今の真央にはどうでも良い事だった。

頭にあるのは新作ゲームの事だけ。


(授業が終わったら速攻買いにいく……)


「昨日はどうだった?」


合流した赤いのの言葉で昨日の絶望感を思い出し、自然と怒りが込み上げてくる。

少し顔を俯かせて「買えなかった」と再びあの髭もじゃ野郎を思い出し、ゲームのついでにバリカンも買おうと決めた。

赤いのはそんな真央に励ましの言葉をかけて来た。


「元気出せ」


いや、俺はすこぶる健康だ。


地球人は病気にかかるとコロッと死ぬと聞いたし、そんな奴らに心配される程柔じゃない。


「今日は店開いてるかもだし、な!元気出せ!」


「俺は常に元気だ」


馬鹿にするな。

いや、本人は馬鹿にしていないのだろうな。

こいつは馬鹿だが。

フッと呆れまじりに笑うと同時に赤いのは更に続けて言う。


「昨日の黒い髭もじゃ、アースレンジャーがやっつけてくれたんだしさ!」


そういえばあのもじゃをもじゃもじゃちりちりにしたのはこいつだったな。

ごっそり切ってもらっても良かった……いっそのこと殺ってしまって欲しかった。

もしかすると近い将来、アースなんとか、もといアースレンジャー達が奴らを一掃してくれるかもしれない。




「そうだな。ヒーローには頑張ってもらわないとな」




真央はそう、隣の正義のヒーローに告げた。

それを嬉しそうに「頑張るぜ!」と返して来た赤いのは「やべっ」と言って口元を手で隠していた。



(馬鹿……)



これでも気付かれていないと思っているのだから相当だ。

しかし、赤いのには頑張って父親の部下達を倒してもらわねばならない。

真央の邪魔にならない程度に。

そのためには注意事項を部下達に与えなければいけない。

むやみやたらと暴れられてはこちらの生活に支障を来すのだから。


むろん、授業中も侵略行為は禁止だ。

してきたら真央が直々に塵も残さず消し去る予定である。

あとは…………


(夜に騒がれるのは迷惑だな……)


真央はふと思いついた疑問を口にした。




「ところでヒーローの就寝時間は何時なのだろうか?」




目の前にいるヒーロー君に尋ねるときょとんとした表情をされる。

そして苦笑いを浮かべた後、「さぁ?」とぎこちなく首を傾げた。


(まぁ、答えないよな)


とこいつの馬鹿レベルを測った所で「では、赤いのはどうだ?」と聞けば「9時」と返って来たのだった。






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