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7話 食事事情

 どうやら食事の準備ができたらしい。

 正直お腹がもうペコペコだ。



 メイドさんが食堂のようなところに案内してくれるようだ。

 彼女は、滑るように優雅な所作で俺たちの3歩前を歩いている。




 それにしても呼びに来てくれたメイドさんが美人だった。具体的に言うとすらっとしてて、ちょっと釣り目気味。年の頃は俺よりも少し上な印象。お姉さまな雰囲気だ。燃えるような赤毛を、お団子にまとめている。俺のような奴にもとても丁寧。まさにメイドさんの鏡。メイド服じゃないけど。非常にシンプルな藍染のワンピースのような服にエプロンなのだが、おしい。あともう少しでメイド服になりそうなんだ。とりあえずヘッドドレスだけでも付けてくれないかな。それだけで物凄く理想のメイドに近づくのに。あれ?メイド服じゃないとメイドじゃないんだろうか?女中さん?いや、でもここは浪漫のためにメイドさんとしよう。


 いつものようにくだらないことを考えながら後を追っていく。





 通されたのは食堂ではなく小さな部屋だった。さっき見たの部屋より調度品は質素だが、温かみが感じられる。日常的に使われているのかもしれないと感じた。

 気が付くとメイドさんが一礼して退室していくところだった。掃き溜めから鶴が逃げていく。なので訂正だ。この部屋は暖かくなどない。

 どうやらケンと二人で食べるらしい。アデレードさんに嫌味でも言われながら食べるのかと思っていたので少し安心した。


 すぐに使用人さんらしき人が料理を持ってきてくれる。今度はおっさんだった。いや、おっさんというのは失礼だな。オジサマだった。




 ちょっとゲテモノを想像していたところもあったのだが、やはりかなり文化は似ているらしい。しかし、なぜか和食だった。ごはんに漬物、暖かいお茶にタレのかかった焼いた鶏肉、輪切りにされたきゅうり、なぜかつみれの入った味噌汁。きっと前にきた異世界人が好んだのだろう、と一人納得する。しかも箸だ。ナイフとフォークがうまく使えない人間なので素直に嬉しい。

 待てよ、これが一般的な食事だとすると、あのメイドさんも、さっきのオジサマも、兵士の人も、果てはアデレードさんまでお箸で和食なのか?凄い違和感だ。特にあの腹黒アデレードさんが漬物をポリポリかじるなんて。……とても見たい。1週間ぐらいなら思いだし笑いができそうだ。



「策でもめぐらしているのか?」



 ケンが声をかけてきた。いや、君に言ったら引かれるぐらいにくだらないことを考えていました。ぼーっとしているときの俺はだいたい取り留めのないことを意味のない方向に修正してつらつら考えている。つまりは変なこと考えてるだけだ。というかなんでそういう発想になるのだろう。



「なんか、俺のこと過大評価してないか?俺はそういうこと向いてない人間だよ」


「ふーん。まぁそういうことにしとく」



 といいながら、ケンはちらっとオジサマを見た。何? オジサマがいるから言わないんだろ? ってことだろうか。まったく違う。本当に何も考えてなかった。あまり期待されても答えることはできないので早めに訂正しておかないと。違うんですごめんなさい、って謝ったら誤解は解けるんだろうか。それよりもまずケンが訳知り顔で勘違いしていることが解せない。なぜだ?



 あ!分かった!

 こいつは頭いいけど対人関係の経験値が少ないんだ!自分みたいなやつばっかりだと思って深読みしてる!だから俺みたいに何も考えてないやつに対して、俺は分かってるぜ、みたいな顔したんですね!いやー、すっきり!

 うん。これからはケンに経験値を積ませるべく精一杯からかってあげるとしよう。俺は人生の先輩だからね。


 あれ?何考えてたんだっけ?まぁいいや。





 とりあえずは目の前の食事に集中しよう。






 あんなに腹が減っていたのに、すぐに食べなかったのは多分お腹が空いた感覚が若干ピークを過ぎていたこともある。


 とりあえず箸を手に取り、お椀を片手に持って味噌汁をすする。

 味のほどは、普通、だった。



 うお!美味い!とかうぇ…まずっ……というリアクションはできそうにない味だ。いや、それはそれでよかったのかもしれない。少なくとも日本食が恋しい、うどん食べたい、だしの味を誰か俺に……、ということにはならなそうだ。



 向かいに座っているケンは、非常にきれいな所作で飯を口に運んでいる。家庭科の教科書で見たような正しい箸の持ち方だ。まさか鶏肉食うのにも手順とかあったりするんだろうか?

 はっ!もしかしたらすごいお金持ちのお坊ちゃんで礼儀作法を仕込まれている……とか?いやなんでもかんでもお金持ち設定にして遊ぶのはやめよう。これでいろいろ考えて一般庶民だったらと思うといたたまれない。



 そんなことを考えていてもやっぱりお腹は空いていたようで、すぐに食べ終わる。

 最後にお茶をあおると一心地ついた。




 あ、そうだ。

 これから何するんだろうか。午後の予定を聞いておかないと気が気じゃない。



「今日はこれから何か予定などはあるんですか?」


 と、オジサマに向かって聞いてみる。

 オジサマは少し照れて



「ええ、実は午後から休みを取っていまして。妻と二人で出かけることになっているんです。今日は二人の記念」

「すみません。言葉が足りませんでした。俺たち、には午後から予定はありますか?」



 オジサマにそれならそうと言ってください、と怒られた。

 理不尽だ。



「午後からは特に予定はありません。どうぞごゆっくり、おくつろぎください。アヤト様のお部屋の準備が整いました。先ほどお休みいただいたお部屋はケン様のお部屋になります。部屋は隣になっています。お二方のどちらかの部屋にいてください。外出はご遠慮ください。夕食は19時です。明日からの予定に関しましても、夕食時にお話しさせていただきたいと思います。何か用があればお部屋に備え付けられているベルを鳴らしてお呼びください」


 オジサマは流れるように言い切った。

 絶対準備してた。絶対準備してた。


 なのになんでふたりの記念日の話したよ。絶対わざとだ。記念日言いふらしたいだけだ。


 とにかく今のはなしで大事なのは、今日の予定はなく、外出はできないこと。


 つまるところの、自由時間だった。









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