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6話 異世界人   (アデレード視点)

 異世界人は、世界にとって貴重な財産だった。新たな考えを、政策を、技術の方向性を我々に教えてくれる。発想だけなら同じようなことができる者もいるかもしれない。こういうものがあれば、世の中はもっとよくなる。そう語るものも多くいる。そんな彼らと異世界人の発想の違いは、成功率だ。なぜなら、異世界人は完成品を目にしてから、こういうものがあったと言っているのだから。

 正確な機構がたとえ分からなくても構わない。成功するのだと知っているなら、安心して時間とお金をかけられる。事実、彼らが言ったことはほとんどの確率でモノになった。それが、この国の今につながっている。


 それに、召喚した者たちは必要なことさえ教えれば驚くほどに強くなったとされている。どうやら、その理由はあちらの世界とこちらの世界の≪魔素≫の量に関係しているらしいと最近の研究により証明された。とにかく、確実に一定以上の戦力になるのだ。あたらしく武器を開発するより、魔法を生み出すよりも私たちにとってずっと効率的だった。



 実のところは、他の国は私たちが異世界人を呼び寄せているなどとは知らないのだ。一定の周期で「天才」が現れるとのを不審に思っている者もいるかもしれない。

 でも、そこから異世界人にまで発想を飛躍させ、召喚魔法にまで辿りついたものは今のところいない。当然ともいえる。この国が魔法のすべてを管理しているのだから。


 なんにせよ、マースの今後の発展は今回の召喚にかかっているといっても過言ではなかった。






 そして目の前にいるのは、2人の少年。



 事故かお導きかはしらないが、運がいい。





 この少年たちは、我が国にどれほどの恩恵をもたらしてくれるのだろう。













 私が見たところ、少年たちは記録の通りだった。黒い髪、黒い目。12の国のひとつ、極東の国、シープ風の顔立ち。言葉も問題なく通じている。私は、今後の関係を良好に保つため、投げかけられた質問に対し一通りの説明をした。今まで、異世界人は例外なく友好的だった。そう条件づけたのだから当たり前ともいえる。事実、幾分小柄な方の年は、魔法、ひいてはこの世界に対しかなり好意的だ。頭の回転も悪くなさそうである。きっと我が国に利益をもたらしてくれるだろう。

 しかし、問題はもう一人の少年。やはりというべきかもう一人は条件に合うものとして呼ばれたわけではないのかもしれない。魔法は彼らにとって未知なるものであるはずなのに、まったくと言っていいほど表情が変わらなかった。この世界に召喚されたという説明に対しても同様。



 異世界人が友好的でないのなら、それはある意味問題だ。

 他の国に組みされるとこの上なく厄介な存在になる。




 脅威となるなら排除するか?

 しかし、異世界人が益をもたらしてくれるのは事実。多いに越したことはない。






 彼は帰りたいと主張した。

 やはり条件外の存在。実を言うなら帰せるなら帰ってもらってもよかったのだ。他国に組されるよりもずっといい。

 しかし帰せないのだ。とりあえずは彼に不信感を抱かれないように帰れない理由を説明すべき。そう判断した。


 説明を聞いた彼は、淡々とした口調で仮説を並べていく。


「もしかしたら俺がすごい長生きするかもじゃないですか。そうだ、この世界の俺らがいたところとは時間の流れが違うかもしれないし」


「過去の異世界人の記録では最高齢で92歳となっています。この世界の者よりも長く生きる傾向が見られますが、最低でも140年というのはさすがに無理かと。時間の流れはこちらの時間と異世界から来たものの話を統合すると、ズレはないようですね。こちらでの100年はあちらでも100年ですし、どちらも24時間365日が基準です」



 反射的に答えた後で驚いた。このような聞き方で我々の異世界人に対する記録の詳細さを聞き出すとは。これから警戒されるかもしれない。あまり、こちらの情報を出しすぎてはまずいかもしれない。



「なら、その力ってやつを無理に集めたら?」



 反論すべきか逡巡する。説明して信頼を得るべきか、それとも情報を開示しないよう努めるべきか。




 わずかな沈黙の後、彼がわずかに笑みをこぼした。私の反応が、彼の中で合格を貰ったのだろうか。もしくは、情報を引き出されていたのにやっと気付いたのか、という嘲笑かもしれない。なんにせよ、この会話はここで終わるようでほっと息をつく。私よりずっと年下のはずなのに。異世界人というものはみんなこうなのだろうか。



「思ったより、賢そうですね」


 私はずっと試されていたのだろう。彼の様子を観察する。抵抗する様子は今のところなさそうだ。



「安心しました」


 心の内を呟いた。どうせ、私の心の機微などお見通しなのだろう。彼は相変わらずの様子だった。今しばらく彼と駆け引きを続けなければならないということを考えると、気が滅入る。出来るだけ早く会話を切り上げるよう心がけようと心に決めた。






お互いにお互いを警戒している状態です。


補足として2話のケン殿の「殿」は異世界人の人がつく役職の対する固有の敬称になっています。王様に対する「陛下」みたいな感じです。

これは一応、国のお偉いさんに対してこの人は異世界人ですよ、という暗号のような意味も果たしています。

ちなみに綾人がアヤトさんなのは、役職が一個しかないのでどうすべきか迷っているのと、捨てきれない離反の可能性と、自分のほうが立場上は偉くなるのと、年長者のプライドがせめぎあった結果です。


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