二
先輩に飲みに誘われ、終電ぎりぎりの時間まで飲み、今急いで駅に向かっている。ようやく駅について、時計を見ると、11:30という数字があり、あと数分遅れれば、帰りはタクシーになる。ホームの椅子に座り、安心したら、急に吐き気になった。無理もない。あれだけお酒を飲んで走ったから。自販機でお茶を買い、喉にまで上がった何かをなんとか押さえ込んだ。
「はは、昔は駅で吐くおじさんをあんなにバカにしたのに、今はすっかりおじさんに仲間入りか。」
情けない。何ひとつ逆らわなかった自分が情けない。勉強して、就職して、結婚して、子供を生む。ごくあたりまえの常識だ。別に、常識の道を踏み外す気はない。だが、蛻の殻ように、ただ流されるのも癪だ。一人暮らしできないことといい、これといい、すべて自分が情けないからこうなったのはわかっている。だから、誰も恨んでいないし、社会のせいにするつもりもない。
ケータイをズボンのポケットから取り出し、メールボックスいじっていたら、例の迷惑メールがあった。
「非常識だな。自由を買うなんて。でも…」
酒で頭が混乱している今こそ、メール迷惑に返信するくらい非常識なことをやってもいいじゃないか。
ああ、知っている。返信したら、さらに迷惑メールが来るでしょう。だからどうしたっていうんだ。
「10分だよっと」
返信をした。してしまったのだ。
数十秒待って、返信がなかった。最初からわかっている結果だ。だって、迷惑メールなんだもの。
「そろそろ電車が…」
視線をケータイから前に戻したら、ホームには誰も居なかった。横でイチャついているカップル、眠そうにしているバイト帰りの学生、退屈そうにしている老人夫婦。みんな消えてしまった。
ひょっとして、ケータイいじっている間に、電車が去った?いや、そしたら終電のアナウンスがあるはずだ。なんだこの違和感。目の前の状況が理解できず、呆然と立ち尽くした。そして、テレビの画面が切り替わるように、誰も居ないホームが一瞬「元」に戻った。
「飲みすぎか?」不思議な現象を酒のせいにする。
振動がケータイから伝わる。
いかがでしたか?というタイトルのメールが来た。
「まさか」
おそるおそるメールを開いた。
「ご利用ありがとうございました。
10分間の“自由”、いかがでしたか?
あなたが今経験した不可解な10分間こそ、自由装置の効果です。
平行世界の狭間にあなたの情報を書き込み、10分間だけあなたを別の世界に“移動”させた。
仮に、それを自由空間と呼びましょう。
自由空間は、あなた以外の人間の情報をすべて省略し、完全なる無人世界です。
普段の喧騒から一時的でもいいから、離れたいという方にうってつけの空間だと思いませんか?
また、今度ご理由の際は、下記のメールアドレスに自由になりたい時間を入力し、送信していただければと思います。
再度のご理由、お待ちしています。」




