一
「僕、実家暮らしだよ。」
20歳で、実家暮らしと言ったら、誰も可笑しいと思わない。
ただ、30歳のサラリーマンが実家暮らしだと言ったら、どんなことを言われるのかよくわかる。実際言われたことがあるからだ。
一応アパートを買う計画を立てている。だから、部屋を借りず、タバコもお酒もやめて、できるだけの節約をして、こつこつとお金を貯めている。しかし、目標の金額に達成するまで、あと2、3年いるんだ。
「一人暮らしまであとわずかだ」「あと少しの辛抱だ」と、よく自分に言って聞かせる。だけど、そんなの気休めにもならない。悟ったような表情で、物事は見方次第だよと、テレビでいう人をしょっちゅう見るが、つらいことはつらいことだ。見方を変えるだけで、つらいことが楽しいことに変わるわけがない。
不思議なことだね。10代の頃は、親と一緒に暮らすことに対し、何も疑問を感じなかった。それがごく当たり前のことで、窮屈など一切感じなかった。社会に出て、心境がすこしずつ変化してきた。一人で居たい、自由がほしいと思うようになった。ああ、こんなことで満足するような、ちっぽけな人間だとはわかる。しかし、そんな小さな願いでもいまだに叶っていない。
休日の午後。部屋に引きこもり、パソコンをいじっているときのことだった。一通のメールが届いた。タイトルがないメールだった。
「迷惑メールかぁ。」
削除したが、次のメールがすぐ届いた。
「またかよ」とボタンを押そうとした時、指が止まってしまった。
前のメールと違い、今回はちゃんとタイトルが書いてあった。
「自由になりたいですか?」
自由なんて存在しないと思っている。生まれるかどうかも決められない世で自由を語るのは、愚かなことだ。そう言いつつも、ボタンを押せずにいる自分が居た。否定したいが、自由という言葉は、どこか心を引き付けるところがあった。
数十秒の逡巡の後、好奇心の方が勝ち、メールを開いた。
「どうもこんにちは。
“自由機関”の波多野と言います。
今の生活に、窮屈と感じていませんか?自由になりたいと、思ったことがありませんか?
10年の研究を経て、我々“自由機関”は、“自由を作る”機械の開発に成功した。」
中二病丸出しの内容に、思わず笑ってしまった。
「現在、我々の開発計画を次の段階に移ろうとしている。機械の性能と実用を試すための実験をしています。そして、あなたは実験者に選ばれました。
ご安心ください。実験といいますが、別にあなたに何かするわけではございません。あなたには、機械を使って、感想を教えていただければ十分です。
自由。
素敵な言葉だと思いませんか?
ぜひ此度の実験計画にご参加いただきたいです。
信じがたい話と承知していますが、真実かどうかはすぐにご確認いただけるます。
メールで“10分”と返信すれば、あなたは理解することになります。我々の言葉の真偽を。」
迷惑メールにしては、独創性がありすぎる。
「押すものかよ。」
適当にケータイをベッドに投げ、パソコンに視線を戻した。




