6:斉藤の場合2
キーンコーンカーンコーン
「おーい、みんな席に着けー」チャイムと同時に担任が入ってきた。俺も亮介も席に着く。
「えー、ホームルームはじめる前に転校生を紹介するぞ。さあ、入って」どよめく教室。
と入ってきたのは黒のショートヘアーをピンでとめ、すっとした鼻だちが印象的な、なかなかの美少女だった。
「紹介しよう。早馬 凛だ」と担任が紹介すると「早馬です。よろしく」
と彼女は控えめに頭を下げた。
「彼女はご両親の急な転勤で編入となった。慣れない土地で大変だろうからみんな仲良くしてやってくれ」
と担任は続けた。
「そうだな席は…ん」俺の隣!俺の隣!
「おう、緑川の隣が空いてるな。早馬、とりあえずあそこに座ってくれ」
「はい」彼女はまた控えめに返事をし、亮介の方へ向かって歩いていった。
なんだよー。あいつ今日はついてないんじゃなかったのかよ。
彼女が亮介の隣にきた時亮介が何かしゃべりかけているように見えた。なんだ?
「じゃあ、早速ホームルームはじめるぞ」担任がホームルームをはじめた。
「おい、亮介!」
一時間目が終わり早速亮介に話しかけた。
「おはよう」目をこすりながら亮介は答えた。
「おはようじゃねぇだろ!お前山爺ィの授業じゃなきゃアウトだぞ」
山爺ィとは数学担当で今年定年の教師である。なんかカクカクしてるし魂が今にも抜けそうなじいさんだ。
「あー、授業どこまで進んだ?」亮介は開きっぱなしの教科書を見て言う。
「いや、俺も寝てた」俺は頭をかきながら言った。「おい!」
「まあまあ、お互い様だろ。それより…」俺は周りに気づかれないように聞いた
「お前彼女と何話した?」亮介はポカンとしている。
「早馬だよ!早馬凛!お前何話しかけたんだ?」
「ああ…えっと…どこかで会わなかったか?ってさ」な、なにー!
「かぁ!この野郎っ早くもナンパか?全く手が早いねぇ」俺は呆れたね。うん。
「いや、僕も意識して言った訳じゃないから良く覚えてないんだけど…何ていうか…言わされたって感じでさ」何言ってんだこいつ?
「変な言い訳するなって。わかってるよ。なかなかの女だ。お前じゃなくても口説くって」
とヒソヒソと耳打ちしてクイッと早馬の方を見た。
ざわざわ
「ねぇ、早馬さんは前の学校はどこに行ってたの?」
早くも女子達が周りを取り囲んでいる。やれやれ女はすぐこれだ。彼女達の質問に「東高校」ポツリと返す
しばらく質問攻めにあうと「ごめん。この本読みたいから」と彼女は本を取り出した。
途端に女子達は「なっ」といって去って行った。
ひゅ〜と俺は口笛を吹き「オオカミは群れない…か。カッコいいね」といった。
本の題名は『さらば愛しき人よ』と見えた。恋愛小説かなにかだろうか?
キーンコーンカーンコーン
ようやく今日の授業が終わり俺は身支度をはじめた。
すると向こうから大魔神ことデブの後藤がやってきた。
「ちょっとー!掃除しなさいよー!男子ー!」
「うるさい!俺はこれから人面魚を探すと言う重大な使命がある。亮介と」
そうさ今日の俺はラッキーマン。こんな所で油を売ってる暇はないのさ。
そうだ!亮介のやつは?!俺が亮介を探すとヤツの姿はもう見えなかった。あ、あいつー。
俺は鞄を持って一目散にその場を去った。
「あ、まて斉藤!」大魔神が後ろで叫んでたが知ったことじゃない。
なんとしてもあいつが剣道部につく前に捕まえなくては!
俺が廊下から外に出る角を曲がろうとしたその時…ドン!
「きゃぁ」「あべしっ」
一瞬目の前が眩しくなり次の瞬間俺の体は横に数メートル飛ばされた。
ドサっ。なす術も無く地面に叩き付けられる。何が起きたんだ?
体を起こしてみると自転車に乗って頭を痛そうにさすっている少女が見えた。草加の制服だ。なかなかの美少女。
「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ!」それはこっちの台詞だ。言いたかったが頭がまだ状況を把握できていない
俺が何も言えないでいると「やばいっ遅刻しちゃう!」と颯爽と自転車で去って行った。
「はっ」ようやくどうやら彼女にひかれたという事に気づいた。いてっ!くそー、何だってんだ
「てか何に遅刻するってんだよ!」すると後ろから
「ちょっと大丈夫?斉藤君?」こ…この声は!
「よ…陽子先生!」そこにはピシッとオフィススーツを着こなし、長く美しい黒髪を後ろでまとめた
足と顔とうなじが美しい女性がいた。彼女の名前は久本陽子先生。新任で現国の先生だ。
「どこか痛む?」はっ、先生に見とれていた。
「だ…大丈夫です。ほら、もうぴんぴん!」俺は轢かれた足で屈伸してみせた。
「そう、よかった」先生はニッコリと笑った。はー、近くで見るとやっぱり美人だよな〜
「そういえば丁度よかったわ。この前の実力テストのことで探してたの。ちょっと職員室まできてくれない?」
「えっ」じつりょくてすと?はっ!
「いてててっ!あ…足が!保健室行ってきますね」俺はとっさに足をかばった。
「あらっ大変。じゃあ保健室でお話しましょうか?」先生の声は笑っていたが表情は笑っていなかった。
「あうっ」俺は火サスで連行される犯人のように保健室に向かったのだった…
変わらない日常。そして今日も変わらない一日だと思っていた。しかしこれから何かが始まる予感がした。
が、そうでもなかった…
よっしゃ!学園ものっぽくなってきた!