2:つかの間
「おい、亮介!」
ん?斉藤の声で目が覚める。どうやら一時間目の途中から眠っていたようだ
「おはよう」目をこすりながら答えた。
「おはようじゃねぇだろ!お前山爺ィの授業じゃなきゃアウトだぞ」
山爺ィとは数学担当で今年定年の教師である。自分の授業に熱中するタイプで生徒が寝てても気にしないよ うだ。
「あー、授業どこまで進んだ?」僕は開きっぱなしの教科書を見て言う。
「いや、俺も寝てた」斉藤が頭をかきながら言った。「おい!」
「まあまあ、お互い様だろ。それより…」斉藤が神妙な面持ちで話した
「お前彼女と何話した?」彼女?はて?なんのことだ?
「早馬だよ!早馬凛!お前何話しかけたんだ?」斉藤の鼻息が近い。
「ああ…えっと…どこかで会わなかったか?ってさ」それを聞き斉藤は細い目をさらに細くして
「かぁ!この野郎っ早くもナンパか?全く手が早いねぇ」と嘆きに近い声を出した。
「いや、僕も意識して言った訳じゃないから良く覚えてないんだけど…何ていうか…言わされたって感じでさ 」と慌てると「変な言い訳するなって。わかってるよ。なかなかの女だ。お前じゃなくても口説くって」
とヒソヒソと耳打ちして向こうに目を向けた。
見るとその方向に誰であろう早馬凛がいた。斉藤…言い方がオヤジ臭いぞ…
ざわざわ
「ねぇ、早馬さんは前の学校はどこに行ってたの?」
早くも女子達が周りを取り囲んでいる。彼女達の質問に「東高校」ポツリと返す
しばらく質問攻めにあうと「ごめん。この本読みたいから」と彼女は本を取り出した。
途端に女子達は「なっ」といって去って行った。
ひゅ〜と斉藤は口笛を吹き「オオカミは群れない…か。カッコいいね」といった。
本の題名は『さらば愛しき人よ』と見えた。早馬さんなかなか渋い趣味だな。
だから表現がオヤジ臭いよ。斉藤…
ふっ、と彼女がこちらを見たような気がした。いや気のせいか、こちらは窓際だし。外を見ただけだろう
とその時は気にも留めなかった。
キーンコーンカーンコーン
ようやく今日の授業が終わり僕は部活に向かうために荷物をまとめた。
向こうでは斉藤とクラスの女子のやり取りが聞こえる。
「ちょっとー!掃除しなさいよー!男子ー!」「うるさい!俺はこれから人面魚を探すと言う重大な使命があ る。亮介と」
全く小学生かこいつらは…ん?おいおい!僕は行かねって!
斉藤に見つからないように急いで教室を出て剣道部の部室へと向かった。斉藤に進められたとはいえ正直に 言うと結構はまっている。もともと剣道部は学園創設以来の伝統を誇っているものの、現在は人数的に同好 会格下げも検討されているくらい弱小になってしまい、体育会系のクラブの中でも練習がそれほどキツくな いので、お世辞にも運動神経がいいとはいえない僕にはちょうどいいのだ。しかし今朝轢かれた足がまだ
痛むなぁ。今日は雑用だな…ん?
っと部室近くで早馬を見かけた。あれ?体育会系の部室の近くで何してるんだ?
その時また僕はあの感覚。そう、初めて彼女に会ったときの感覚に襲われた。
何だろう今度は不安や恐怖に近い…彼女に話しかけようとしたが思い直し剣道部へと向かった。
物語が進むとか言って嘘つきました。さーせん!