1 ネルファへ
『パンドラ』 それは突如、地球に現れ地球を脅かす敵となった。
そこで現れたのがパンドラの変異細胞を人間に埋め込みパンドラの能力を持った人間『フェンリル』と呼ばれる少年少女たちが命をかけてソレと戦った。
僕の兄さんカミシロ=ソウスケもその1人だった……
兄さんは激しい戦いの中、パンドラに殺されそうになっている僕をかばって戦死した……
僕は、兄さんの意思を継ぎ『フェンリル』となるためにパンドラ対応作戦学校
通称『ネルファ』への入学を決めた。
そしてカミシロ=シュリ、15歳の春 俺はフェンリルとなるのだ。
学内から離れたとある研究施設 俺はこの日、フェンリルとして迎え入れられるのだ。
「今日から、フェンリル育成組に編入することになった カミシロ=シュリです」
今僕は、このシスターの服を着た年老いたネルファの学園長に入学のあいさつをしている。
「カミシロ君お待ちしていましたよ。私はのこ学園長のイザベラです。あなたは、カミシロ=ソウスケの弟さんでしたよね?心から歓迎いたします」
「ありがとうございます」
「あなたも分かっていることだとは思いますが、このネルファはパンドラに対抗すべき戦士を育成する機関です。対パンドラ武器『エルピス』を扱うことのできる人間、フェンリルにあなたはなる覚悟ができていますか?」
「はい。そのために僕はこのネルファに来たんですから」
「分かりました。それでは貴方にエルピスを渡しましょう。言っておきますがこれを生身の人間が手にしたら最後、貴方は体細胞がパンドラの変異細胞に侵食されフェンリル化します。本当によろしいんですね?」
小さくだが確かに頭を縦に振った。覚悟はできている兄さんが死んだ時からずっとこの日を夢に見てきた。
それが今日、現実となるんだ。
「では、装置の上に腕を」
目の前にはちょうど腕を形とった型番がある。
腕を型にはめると腕をプレスするように上から蓋が下りてきた。
「では開始します」
機械的な音が響いた瞬間
強烈な痛みが腕を襲う。腕を抜こうにもがっちりと固定されており抜けずさらなる痛みが全身を……
考える暇もなく意識は完全に現実世界から遮断された
―――気がつけば焼け野原にいた。
大きな火事が起きたのだろう
先ほどまで見慣れた町は、戦争映画のように一面が廃墟に変わっていた。
火の高さは自分の背丈より何倍も大きくて火に巻き込まれた建物は音もたてずに崩れていった
こんな中でいまだ原形をとどめている自分がいることが不思議でならなかった。
この周辺で生きているのは自分だけ
よほど運が良かったのか家が運よくいい場所にあったのか
そんなことは分からない。だけど言えることは生きていることだけ
とにかく生きなきゃと思った
いつまでもここにいたら危ないと本能的に思い当てもなく歩きだす。
だからと言って生きたかったわけじゃない。ただ単に歩いただけ
この町を見ればわかる。この赤い世界からは抜け出せない。自分でもそう思う絶対的な地獄だったのだ。
そうして歩くうちに倒れた。
酸素がなかったのか、ただ躓いただけなのか
とにかく倒れた。見上げる空は煙で真っ黒に染まっている。いや、自分の目が駄目になっただけかもしれない。
もうろくに酸素も吸えない喉で呼吸のまねごとを繰り返す。
すると遠くから人ではない何かがそばにやってきた。
そいつは僕にとって死そのものであると直感で教えてくれた。
……それならいい。やっとこの地獄から抜け出せるのだから
それが5年前の話だった。この後、俺は奇跡的に助かった
だけど助かったのは体だけで他の部分はあの赤い世界ですべて燃えてしまったんだろう。
家族を僕はあの日失った。そして最後の肉親だった兄さんも僕を襲ったパンドラとの戦闘で亡くなった。
兄さんが亡くなった僕には親も家もない実質的にすべてを失った。
つまり要約すれば簡単な話である。
俺はあの日、体を生き延びさせた代償に
『心』が死んだのだ。
「―――つ」
気がつけば見慣れない部屋だった。
窓から入っている日が昨日とは違い晴れであることを告げている。
昨日は確か研究室で試験を受けている途中に……僕は?
それにしばらく見てなかった昔の夢だなんて
「僕は、どうなったんだ」
「倒れた後ここに運び込まれたのです」
声にふと振り向くとドア側のパイプ椅子には学園長が座っており、読んでいた本を閉めると近づいてきた
「そうですか。それは失礼しました」
「でも、いくら痛みが辛いからって今まで気絶した人はいないのだけれどね」
「う、そんなこと言わないで下さいよ」
笑っている学園長も僕がふてくされているのを見て笑いながらではあるがごめんなさいと謝ってきたのである。
そんな学園長を見て軽く笑っていると今度は学園長が気を悪くしたのか軽く咳をすると真面目に
こう言った。
「貴方もこれで正式なネルファの一員です。貴方を歓迎いたしましょうカミシロ=シュリ」
やっと実感がわいてきた。これで僕はやっと兄さんとの約束を果たすことができる。
「ありがとうございます学園ちょ……」
爆発音が響き、声をかき消す。続く爆発音に次は病室が揺れる。
揺れが収まるときには病室にアラームが響き渡っていた。
な、何なんだ。いったい何が?それにこのさっきから感じているこの感じは5年前の……
「ア、アラーム!!まさかこんな所に!!」
今まで晴れだった外の景色も今は攻撃による煙で見る影もない。
学園長はここに待機しなさいと言って病室から駈け出して行った。
体は麻痺が軽く残っているが歩けないことはない
これなら学園長の後を追いかけることができる。それにこの感じ間違いない
パンドラの襲撃だろう。この体で何ができるかは分からないがいくしかない
兄さんとの約束を守ること
僕を突き動かして生きてきた存在理由だったじゃないか
力が入らずなんどもはいつくばる。だけど決してあきらめはしない。
「兄さんを失くした5年前のようにはならない!!」
また力を入れる。今度は立つことができた
壁に頼りながらしっかりと自分の足で意思で心を失くした少年は歩き始めた。