おはなしのプロローグ
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2人は、緑一色の丘の上にいました。
東を見れば、その丘を囲んでいる森の木々を一望できました。
振り返れば、大きな木が3本分はありそうな、とても高いガケがそそりたっていました。
そんな緑一色の丘に、2人は寝転がっていました。
1人は、長く、透き通った透明の髪をもつ、8歳ぐらいの少女でした。
頭に、ピンク色の綺麗な花を一本、刺していました。
もう1人は、少女と同じく透明の、肩まである髪をもつ少年でした。年齢も、少女と同じくらいに見えました。
頭に、純白の綺麗な鳥の羽を一本、刺していました。
「ねぇ、クリス……ぼくたちは、生きていたらいけない存在なのかな……」
少年が、蒼い空を見つめながら、少女に尋ねました。
その声はまるで、森の木々をそよがす、風の音のようでした。
クリスと呼ばれた少女は、目をつぶったまま、こたえました。
「……いいえ、タル、そんなことはありませんよ……。」
その声は、まるで鈴の音のような、小さく澄んだ声でした。
「だって私たちふたりは、お互いにとって、なくてはならない存在なのですから。
私が生きているから、タルが生きている。
そしてタルが生きているからこそ、私が生きているんですよ。」
しばらくの間をおいて、タルと呼ばれた少年がこたえました。
「……だけれどね、ぼくは思うんだよ。」
「なんですか?」
クリスは、横に寝転がっているタルを、ちらっと見ながら尋ねました。
タルは、相変わらず空を見つめたままで、言いました。
「やっぱりぼくたちは、生きていたらいけない存在なんじゃないかなって……。
だから、いつか生まれ変わったら、ぼくは誰にも迷惑をかけないような、小さな生き物にうまれたい……。」
クリスは、すこし寂しげにため息をついて言いました。
「ですが……
タル、死んだ後に生まれ変わるなんてコトは、できるのでしょうか……」
タルは正直にこたえました。
「……わからない。だけど、それでもぼくは、そう信じたい。生まれ変われると、信じていたい」
クリスは、哀しそうに目をふせました。そして言いました。
「……人間の夢を食らって生きている私たちが、夢などみていいのでしょうかね……」
遠くの木々が、ざわざわと揺れはじめました。
そして、緑一色の丘に、一陣の風が吹きました。