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9 ティアナは僕のモノ

「その通り。お前が起こした問題だ、その責任はきちんと果たしてもらう」


「……!」


 父親からの冷たい眼差しに、アレンは息を呑む。


 確かに、婚約解消になってしまった事の発端は、もとはと言えばアレンの言動が原因にある。アレンは自らの拳をぐっと握りしめた。――だからといって、ティアナのことを諦めるつもりは毛頭ない。


(よく考えろ。ティアナと復縁するために……。ティアナを手放すなんて絶対に嫌だ。彼女が他の者に奪われるなんて考えられない! ティアナは僕のモノだ!)


 アレンの瞳に激しい執着の炎が燃え上がる。


 ティアナはかつて、誰からも好かれる朗らかな才女だった。


 対してアレンは、勇者と称えられる今の姿とはまったく正反対の子供であった。


 卑屈で、気弱で、剣を持つなんてもってのほか。周りの子供たちからは虐められ、さらにアレンは自らの殻に閉じこもるようになる。


 『剣聖』と『魅了』という最強の天恵を得てしても、中身がそれに伴っていない。これは両親からの言葉だ。


 素晴らしい天恵を拝受したからこそ、アレンは両親から過剰な期待と落胆を受け育った。彼らは厳しい訓練にアレンが挫折すると彼をこう責めた。


 『お前はやればできる子なのに』『そんなに素晴らしい天恵を神から与えられたのに、どうしてこんなに怠け者に生まれてしまったの?』と。


 追い詰められる日々の中、アレンはティアナと出会う。


 アレンは訓練をさぼるため、よく家を抜け出し王立図書館へ足を運んでいた。そこでたびたび彼女の姿を見かけるようになり、やがて二人はどちらともなく仲良くなった。アレンは明るく賢いティアナにすぐ惹かれるようになったが――彼女には、将来を約束する者が居ることを知る。見知らぬ少年のことを、頬を染めながら語るティアナ。


 許せないと思った。


 嫉妬心が激しく燃え上がる。


(ティアナだけ幸せになるなんてずるい)


 だからアレンは、魅了の力を使いティアナを手に入れ、彼女たちの仲を引き裂くことにした。


 ――はじめは、それで満足だったのだ。


 だがやがて、恋に焦がれたアレンのティアナは、ただのからくり人形と化してしまったことに気がつく。


 アレンがわざとティアナの手に熱い紅茶を零しても、彼女は怒りもしない。頬を叩いてもつねっても、ニコニコ笑って『あなたのことが大好きよ』と熱に浮かれたような瞳で愛を囁いてくる。


(違う。僕が欲しかったのはこんなティアナじゃない)


 彼女が大好きだった魔術を取り上げても、ティアナは笑って受け入れた。アレンの行為はどんどんエスカレートしていき、やがて彼とってティアナはとうとう『都合のいい道具』に変わり果てる。


 苛立っていればティアナに当たってストレスを解消し、彼女の前でわざと他の女性とキスしたりもした。だがティアナは笑みを崩さない。


 そして魔王討伐のために必要な大量のポーションもティアナに用意させた。


 ポーションは高価である。


 ティアナは資金をやりくりするために自らポーション作りを覚え、身を粉にしてポーションを提供してくれた。ミズーレ侯爵家はあまり裕福ではない。なのでティアナの提供するポーションにはかなり資金的に助けられた。


 それは事実ではあったが、感謝の心はなかった。ティアナはアレンにとって都合のいい道具。彼女から搾取することに彼が罪悪感を抱くはずもなかった。アレン自身は自覚していないが、ティアナの長年の献身に完全に心がマヒしていたのである。


 だから、ティアナを『第三夫人』にすると告げた時も、彼女は当然それを受け入れてくれると思った。


 それなのに。


「僕から離れるなんて絶対に許さないよ、ティアナ。魅了魔法が解けたのなら、また僕がかけなおしてあげるからね」


 自室に戻ったアレンは部屋で一人、薄暗い笑みを浮かべる。


 すると使用人がやってきて、彼にひそひそとあることを耳打ちした。ティアナがアレンの元を去った後、彼女の動きを探るため密かに後を付けさせていたのだ。使用人の報告を聞いたアレンは、再び一人になった部屋で深いため息を吐く。


「はぁ~やれやれ。魅了が解けた途端に魔術学院へ編入するなんて。ティアナといえばティアナらしいけど……。これで、逃げられると思ったら大間違いだよ、ティアナ」


 アレンが口の端をニヤリと吊り上げる。


 その表情は、国中から勇者と称えられる者とは思えないほど、邪悪なものに満ちていた――。


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