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6 付与魔法適正SS

「はい、本で読みました! 魔水晶が対象者の魔力を読み取り、その人に適した魔法の適正を、AからEの段階で判定してくれるのですよね」


「ほう、勤勉でいらっしゃる。おっしゃる通りです。魔力が一定水準以上であれば、魔水晶は必ず何らかの反応を示します。攻撃魔法に秀でた者であれば、水晶の内部にAやBの文字が浮かび上がりましょう。守護魔法や治癒魔法の場合も同様です」


 老紳士は一拍置いてから続けた。


「反対に、適正が平均的であったり適性がないとされた場合であれば、CからEの文字が示されます。――そして稀ではありますが、Aをも凌ぐ才能を示す『S』の文字が現れることもあります。私が知る以上、Sの文字が現れた者は歴代でそのお方お一人しかおりませんが」


 ティアナの胸が好奇心でわずかに高鳴る。


「……その『S』の文字が現れた方というのは、どのような方なのですか?」


 老紳士は意味ありげに微笑む。


「素晴らしいお方ですよ。その方は今や、このフィオレンシア王国において最も優れた魔術師――筆頭魔術師の座に就いておられます」


「……! 筆頭、魔術師……!」


 ――筆頭魔術師。


 国家に仕える数多の魔術師の中でも、ひときわ優れた才を認められた者だけに与えられる、栄誉ある称号の持ち主。すべての魔術師の憧れと畏敬を一身に集める貴き存在。


(筆頭魔術師様かぁ、雲の上の存在よね。一体どんなお方なんだろう……)


 ティアナが目を輝かせ想像を膨らませていると、ふいに老紳士がゴホンを咳払いをした。


「ではティアナ嬢。始めてください」


 彼にうながされ、ティアナはごくりと喉を鳴らした。心臓がドキドキと高鳴って掌に汗がにじむ。


(――この結果で、魔術学校へ編入できるかどうかの可否が決まる!)


 彼女は覚悟を決めて、物言わぬ巨大な魔水晶へと恐る恐る手をかざした。


(どうかお願いです、なにかしらの反応を示してください……!)


 と心の中で魔水晶へ土下座したその時だった。


「な、なにか光ってる……!?」


 魔水晶の中心に、チカチカと光が点滅しだしたのである。そしてその光はだんだん強くなり、ついには眩しくて目が開けらないほどになる。


「おお! 素晴らしい。ティアナ嬢は魔水晶のお眼鏡に叶ったようですよ」


「ほ、本当ですか!?」


 つまりティアナは一定水準以上の魔力を有しているということだ。嬉しい結果に彼女は顔を明るくほころばせる。これで魔術学院に入学できる――と喜びに浸っていると、老紳士が言葉を続けた。


「さて、次はティアナ嬢がどんな魔法に適しているかが魔水晶に浮かび上がりますので、目を凝らして良く見ておくように」


「は、はい!」


 魔水晶の内部で、糸のような光がシュルシュルと編みあがりながら文字の形を成していく。ティアナは固唾をのんで、その様子を見守った。


【魔法適性】


 攻撃魔法適性:E

 守護魔法適性:E

 治癒魔法適性:E

 召喚魔法適性:E

 生産魔法適性:E


(…………えっ)


 次々と浮かび上がる文字を見るにつれ、ティアナの表情がみるみるうちに曇っていく。


 ――すべての適正が、E判定。


 どれも平均以下ということだ。魔術学院に編入できる最低限の水準は満たしているとはいえ、才能があるとは言い難い結果である。


「そ、そんな……」


 ティアナが判定結果に落ち込んでいたその時――。ふいに、魔水晶の光が強まった。


「……?」


 そして適正欄の下部に、まるで隠し項目のように新たな文字が浮かび上がる。


【特殊適性】


 付与魔法適正:SS


「……えっ?」


 見間違いかと思い、ティアナは思わず目をこすった。しかし文字は消えない。それどころか光を増し、脈打つように輝き始める。


「特殊、適正……?」


 彼女の呟きに、老紳士がはっと息を呑んだ。


「付与魔法……SSですと……?」


 その瞬間。


 ――ピシッ。


 鋭い音が響き、魔水晶の表面に一本の亀裂が走った。


「えっ」


 そしてその亀裂はパキパキと不吉な音を立てながら、枝葉のように瞬く間に広がっていく。やがて魔水晶全体が細かい網目状にひび割れ、パン! と激しい音と共に辺りへ拡散した。突然のことにティアナは目を大きく見開く。


「ひ……っ!」


「ティアナ嬢危ない! 早くどこかへ隠れて!」


 老紳士が避難を促すが、ティアナの周りにはとっさに隠れられそうな場所はない。彼女は覚悟を決め、致命傷を避けるためにその場にうずくまり両手で首を覆った。そしてとうとう、魔水晶の鋭い破片がティアナの肌を引き裂こうとした、その時である。 



「【制止せよ(プロイベーレ)】」



 凛とした、低く甘やかな声が響いた。


 聞き覚えのある声だ。いつまでも襲ってこない痛みに、やがてティアナは恐る恐る顔を上げた。

 

 ――彼女は思わず息を呑む。なぜなら周囲には無数の魔水晶の破片がすぐ目の前に差し迫っており、それらが空中で時が止まったように制止していたからだ。


「これは、一体何がどうなっている?」


 そんな言葉と共に、さきほど彼女をストーカー扱いしてきた絶世の美丈夫が部屋へと足を踏み入れてくる。


 彼が空中へ手をかざすと、散らばっていた粉が部屋の中心へ集まり出した。それらはやがて球体へとなり、あっと言う間に元の魔水晶スフィアの形を作り上げてゆく。


「すごい……!」


 魔法というものを間近で見たことのなかったティアナは、感動で思わず声を漏らした。すると男はちらりと彼女を一瞥した。一瞬二人の視線が絡み合うが、彼はどこか怯えた様子でサッとティアナから視線を逸らしてしまう。


(……?)


「ふむ、サイラス。どうやらこのお嬢さん――ティアナ・エーデルワイス子爵令嬢がこの魔水晶を木端微塵にしてしまったようだぞ」


 彼の後ろから金髪の男が遅れて現れ、そう言いながら感心したように顎をさすった。


「彼女が魔水晶を割った……?」


 驚嘆するような彼の声色にティアナは落ち着かない心地になる。


「そうであれば前代未聞です。ティア……彼女の魔力量が、この魔水晶では測定しきれないほどの量であるということになりますから」

 

 彼はそう言ったきり、顎に手を当て考え込むようにうんうんと唸り始めてしまった。


(サイラス、サイラス……。どこかで聞いたような名前だわ。でも思い出せそうで、思い出せない……)


 ティアナが必死に過去を思い出そうとしていると、突然、パン! と金髪の男が手を叩いた。その乾いた音に意識が引き戻され、思いがけず皆が彼へ注視する。


 すると男は何を思ったか、満面の笑みでティアナへ歩み寄り、こう宣った。


「ティアナ・エーデルワイス子爵令嬢。君はこの彼――サイラスと結婚したいと望むかね?」


 ――と。


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