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5 魔力測定塔

「おや、あなた様はもしや……お手紙をいただいていたティアナ・エーデルワイス子爵令嬢ではございませんかな?」


「えっ……」


 名を呼ばれたティアナは目を見張る。彼女が魔力測定塔の入口へ顔を向けると、そこには長ローブを羽織った上品な老紳士が立っていた。真っ白な髪は後ろに撫でつけられ、銀縁のモノクルをかけている。いかにも『魔術師』といった出で立ちだ。


「ご、ご機嫌よう紳士様。入口で騒ぎ立ててしまい申し訳ございません!」


「かまいませんよ。――私はここの魔力測定塔の管理を任されているロバートと申します。どうぞお見知りおきを」


「ロバート様、ご丁寧に。仰るとおり、私はエーデルワイス子爵家の長女ティアナでございます」


 彼女がカーテシーを披露し名乗ると、銀髪の男はヒュッと息を吞んだ。そして、信じられないという表情で自らの口元を手で覆う。


 彼は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「――っ、子爵家から直々の手紙? ティアナ・エーデルワイス、まさか、本、物……!? だがなぜ、こんなところに……っ!?」


 そんな呟きは誰の耳にも届かず、ティアナは老紳士へと必死な表情で訴える。


「ロバート様。この度は無理なお願いをしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。私、どうしても魔術学院に編入したくて……。私の年齢で魔力測定を受けるのは例外だとは思いますが、この通りでございます」


「!」


 老紳士の瞳が大きく見開かれる。


 ティアナが彼へ向かい、深く深く頭を下げて見せたのだ。すると彼女の頭上から優しい声が降り注いだ。


「頭をお上げなさい、可愛らしいお嬢さん。そのように謝らずとも大丈夫ですよ。魔術学院の門を叩かんとする者は何歳であっても大歓迎です。さぁ、あなたの魔力を測ってみましょうね。こちらから中へお入りください」


「っ、ありがとう、ございます……!」


 老紳士の穏やかな声色につられ、ティアナは弾かれるよう顔を上げた。ほっとして泣いてしまいそうになるのを必死に堪えながら。


「どういたしまして。どころで、ええと、この方々は……。ってうおおおっ!?」


 老紳士が突然何かに驚いたように大声を上げる。すると金髪の男は『静かに』と唇へ人差し指を押しあてた。老紳士が目を激しく瞬かせる。二人の間に挟まれたティアナは何事かと目を丸くすることしかできない。


(えっ、一体どうしたの?)


「おおお……ゴホン、事情はお察ししました。へい……閣下方はどのようなご用件でこちらへ?」


「今日はここへ見学しに参ったのだ。良ければだが、このお嬢さんが魔力測定するところを見ていっても構わないだろうか?」


「さ、左様でございましたか。私はもちろん差し支えございませんが……ティアナ嬢。閣下方がこのように仰っておられますが、いかがなさいますか?」


 口調はあくまで穏やかなものだ。しかし、なぜか老紳士の背後から底知れぬ威圧感が滲み出ているように思え、ティアナは思わず圧に押し負け頷いた。


「は、はい。私は構いませんわ」


「よろしい、では参りましょうか」


 老紳士が扉を開け、中の方へ手を差し伸べティアナを誘導する。


 彼女は、いまだに固まったままでいる銀髪の青年をちらりと盗み見た。彼はぶつぶつと『微塵の……興味も……』とさきほどティアナが言い放った言葉を繰り返している。とても話しかけられそうにない雰囲気だ。


(閣下と呼ばれるくらいだし、服の上質さを見るに彼って高位貴族よね。そんな偉いお方に対してあんなことを言うのは、ちょっとまずかったかもしれないわ。でもいきなり人を捕まえて、警備隊に引き渡すなんて言われたら……)


 どうしようかとティアナが唸っていると、見かねたのか老紳士が助け舟を出した。


「閣下は、私どもが及びのつかない深遠に思いを馳せておられるご様子です。邪魔をしてはいけませんから、そっとしておいて差し上げましょう」


「は、はい。かしこまりました……」


 ティアナはチラリと銀髪の青年を一瞥した。確かにその瞳は昏く陰っていて、深遠に思いを馳せている風にも映る。

 

 彼女は考えるのを止め、念願の魔力測定塔へと足を踏み入れたのだった。



 魔力測定塔の内部は、正に『魔術師の研究所』といった雰囲気の場所で、壁にはぎっしりと魔術書が並べらていた。


 高い吹き抜けの中心には、巨大な天球儀のような魔水晶が空中に浮遊し鎮座している。どこまでも透明なその水晶の壮麗さに、ティアナは思わずほうっとため息を零す。


(なんて美しいの……!)


 老紳士が魔水晶へそっと手を差し伸べる。


「手順はお分かりですかな? 手順と言っても、この魔水晶スフィアへ意識を集中し、手をかざすのみではありますが」


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