表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋をした瞬間に死ぬ呪いなので、無口な騎士様とは家族のふりをします  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

最終話:選ばれているということ

翌朝、リィナは静かに目を覚ました。

発作の痕跡はない。呼吸は穏やかで、脈も安定している。けれど瞳の奥には、昨夜の恐怖がまだ薄く残っていた。

「……ごめんなさい」

開口一番の言葉が、それだった。

私は首を振る。

「謝らなくていい」

ベッドの脇に腰を下ろし、彼女の目線と高さを合わせる。

「怖かったよね」

リィナは小さく頷く。

「エルナ様が……いなくなるかもって、思って」

胸の奥が温かくなる。

私はそっと言った。

「私は、いなくならないよ」

即答だった。

「恋をしても、怖くても、ここにいる」

リィナの目が揺れる。

「でも、騎士様は……」

その先を言わなくても分かる。

レオンを失う恐怖。

選ばれない不安。

私は一度、深く息を吸った。

「リィナ」

ゆっくりと言葉を選ぶ。

「守ることは平等でも、想うことは平等じゃない。でもね、それは誰かを減らすことじゃない」

リィナは不安そうに見上げる。

「あなたがここにいる価値は、誰かと比べて決まるものじゃない」

私は彼女の手を取る。

「あなたは、選ばれている。私が選んだ。ここにいてほしいって」

言葉にした瞬間、自分の鼓動が強くなる。

でも、壊れない。

リィナの瞳に涙が溜まる。

「ほんとに……?」

「うん」

扉の向こうで、気配が動く。

レオンが入ってくる。

「心拍は」

相変わらずの確認。

私は微笑む。

「安定しています」

リィナも小さく言う。

「……わたしも」

レオンは二人を見比べる。

沈黙の後、低く言った。

「選ばれているかどうかで、不安になるなら」

珍しく、言葉が続く。

「俺も言っておく」

リィナが目を丸くする。

「お前は保護対象だ。だが、それだけではない。ここにいると決めた以上、守る」

それは騎士としての言葉。

でも、冷たい義務の響きではなかった。

リィナの呼吸がゆっくり整っていく。

私はその様子を見ながら、自分の胸に手を当てる。

鼓動は穏やかだ。

昨日の恐怖も、嫉妬も、独占欲も、全部消えたわけではない。

でも、それらは私を壊していない。

午後、三人で中庭へ出た。

白い花が、相変わらず風に揺れている。

リィナは以前よりも自然に歩いている。

「エルナ様」

ふと、彼女が言う。

「恋って、怖いだけじゃないんですね」

私は笑う。

「うん。怖いこともある。でも、怖いからって逃げなくていい」

レオンが少し離れた場所で立つ。

私はその背中を見る。

以前なら、あの背中を独占したいと思ったかもしれない。

今は違う。

あの背中が私を選んでいると、知っている。

だから奪わなくていい。

「レオン」

呼ぶ。

彼が振り向く。

その視線が、まっすぐに私を捉える。

心臓が、静かに高鳴る。

「なんだ」

「好きです」

突然の言葉に、リィナが目を見開く。

レオンは一瞬だけ動きを止めた。

鼓動が速くなる。

でも、壊れない。

恐怖はない。

ただ、確信がある。

「知っている」

短い返答。

私は笑う。

「でも、言いたかった」

レオンは一歩だけ近づく。

触れない距離。

それでも、十分近い。

「俺もだ」

それだけ。

それだけで、胸が満ちる。

リィナが小さく呟く。

「……あったかいですね」

私は頷く。

「うん。あったかい」

呪いは消えていない。

恐怖も、独占欲も、失う不安も、きっとこれからも訪れる。

でも、私たちは知ってしまった。

恋は死ではない。

呪いの正体は、恐怖と自己喪失。

選ばれていると信じられる場所があれば、心拍は壊れない。

風が花を揺らす。

白い花びらが舞い、私たちの間を通り抜ける。

私は胸に手を当てる。

鼓動は穏やかだ。

少しだけ速い。

でも、生きている。

リィナが空を見上げる。

「わたしも……いつか、恋してもいいですか」

私は迷わず答える。

「もちろん」

レオンも、静かに頷く。

呪いは、恐怖を利用する。

でも私たちは、選択を利用する。

恋をしても、怖くても、生きる。

それが、第二の答え。

安心は永遠ではない。

だからこそ、選び続ける。

今日もまた、心拍は穏やかに刻まれている。

私たちは、ここにいる。

選ばれ、そして、選びながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ