第1話:恋をしたら死ぬ、と告げられました
「――あなたは、恋をした瞬間に死にます」
そう告げられたのは、
花が咲き始めた春の日の午後だった。
医師の声は淡々としていて、
まるで天気の話でもするみたいに軽かった。
「正確には、心拍数が一定以上に上がった時です。
感情の高ぶりが引き金になります」
私は、しばらく黙っていた。
驚かなかったわけじゃない。
でも、叫ぶほどでもなかった。
「ああ……やっぱり」
それだけが、口から出た。
幼い頃から、胸が苦しくなることは多かった。
誰かに優しくされると、息が詰まる。
期待されると、視界が白くなる。
それが全部、呪いの症状だったなんて。
「回避方法はありますか?」
私がそう聞くと、医師は首を横に振った。
「恋をしなければいい」
簡単で、残酷な答えだった。
「……分かりました」
私がそう言うと、医師は少しだけ驚いた顔をした。
「怖くないのですか?」
「怖いです」
でも、と私は続ける。
「恋をしなければ、死なないなら。
……生き方は、選べます」
その日の帰り道、
王城の廊下で一人の騎士とすれ違った。
背が高く、無口そうで、
視線すら合わせない冷たい雰囲気。
「――エルナ」
彼は、私の名前だけを呼んだ。
護衛に任命された騎士、レオン。
王国でも感情を見せないことで有名な人。
「今後、あなたを守る」
短い言葉。
それ以上、何も言わない。
……この人なら。
私は、ふと思った。
恋をしない。
心拍も上がらない。
安全な距離で、生きられる。
「……家族のふりを、しませんか」
私がそう言うと、
レオンは一瞬だけ、瞬きをした。
「合理的だ」
それが、彼の答えだった。
こうして私は、
恋をしたら死ぬ呪いを抱えたまま、
無口な騎士様と“家族のふり”を始めた。
――この関係が、
一番危険だとも知らずに。
(つづく)




