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『愛がないなら婚約解消を!』と叫ぶ令嬢に王子を一本釣りした時の思い出を語ったら、所有権を理解してくれました

作者: 満原こもじ

 古来より婚約者のいる第一王子にちょっかいをかけるのは、平民上がりのピンクブロンド男爵令嬢と相場が決まっている。

 例に漏れず、オールレイス王国バーノス第一王子の周りをうろちょろするのは、ピンクブロンドと平民らしい不躾さ、活発でありながらどこか庇護欲をそそる表情が特徴的なアイラ・スピッツ男爵令嬢だった。

 王立学校の生徒は身分の上下がないという建前を、アイラは最大限に活用していたのだ。


 一方バーノス第一王子にはシャンテラ・ウォーディントン侯爵令嬢という、れっきとした婚約者がいた。

 シャンテラは成績・マナー・威厳において、他の追随を許さない淑女であった。

 ウォーディントン侯爵家という高位貴族の令嬢であることも大きい。

 特に高位貴族の間では、シャンテラがバーノスの婚約者であればオールレイス王国の繁栄の未来は揺るぎないと考える者が多かった。


 しかし最近『愛』という感情が重要視されてきている。

 王と王妃の関係がギクシャクしていていいことあるかと正面から問われて、否定できる者はいなかった。

 果たして愛のない政略結婚はいいことなのか?

 王妃あるいは外戚との関係が悪くなって、あるいは逆にズブズブになって潰れた王朝などいくらでもあるのだ。


 下位貴族に広まっているのは一種の恋愛主義だ。

 繋がりを婚姻に求めるのは間違いではないが、後ろ盾や事業関係の根拠にするのは違うのではないか、という説だ。

 婚姻の破綻とともに関係が失われ、利害を超越して全てを台無しにしたケースを知る者は、一理あると考えた。

 愛は、別だと。


 守旧派を代表するシャンテラ・ウォーディントン侯爵令嬢。

 新興恋愛派を代表するアイラ・スピッツ男爵令嬢。

 二人が対峙する。


          ◇


 ――――――――――王立学校にて。シャンテラ・ウォーディントン侯爵令嬢視点。


「おかしいではないですかっ!」


 あらあら。

 ピンクブロンドの小柄な令嬢が吠えております。

 わんちゃんみたいで可愛らしいですわ。


 顔は存じております。

 最近バーノス殿下の近くにいらっしゃることが多い、アイラ・スピッツ男爵令嬢ですね。

 確か庶子で、しばらく前まで平民だったとか。

 しかし優雅な昼休憩の時間にいきなり吠えついてくるのは、少々躾がなっていないのではなくて?


「おかしい、と申しますと?」

「バーノス第一王子殿下のことです」


 えっ?

 殿下がおかしい?

 それは大変です。


「最近急に暑くなってきましたからね。殿下も体調を崩されたのかもしれません。あなた、報告ありがとう存じます。褒美を取らせますわよ」

「だーかーらぁ!」


 地団駄踏んでいます。

 本当にキュートですわね。

 うちで飼えないかしら?


「シャンテラ様は私を家格が低いからってバカにしていませんか?」

「バカにはしていませんよ。礼儀がなっていないなあとは思いますけれど」

「王立学校では、身分の上下は関係ないんですからねっ! そう生徒手帳に書いてあるんですからっ!」

「身分の上下が関係ないことと、礼儀をおろそかにしていいこととは違うでしょう? 生徒手帳にそう書いてありますか? マナーの講義があるのは何のためだと思います?」


 たまにはこうしたディベートも興が乗るものですね。

 わんちゃんと同レベルで競っていても仕方ないのですけれども。

 しかしあの『ぐぬぬ』と唸る悔しそうな表情は実にいいですわ。

 あれには勝てませんわ。

 となると今のところイーブンですかね?


「問題はバーノス第一王子殿下のことなのです!」


 そうです、殿下がおかしいと言っていましたね。

 何がおかしいのですかね?

 もう少しわんちゃんの話を伺いましょうか。


「縛りつけているでしょう!」

「物理的にですか? わたくしにそんな趣味はありませんが。バーノス殿下はわんちゃんではありませんよ?」

「だーかーらぁ!」


 もうちょっと落ち着いてはいかがですかね?

 じたばたしている様子はわんちゃんを参考にしているのでしょうか。

 目が離せませんね。


「婚約という鎖でバーノス殿下を縛りつけているでしょう!」


 いつの間にか集まってきた生徒達の中に頷いていらっしゃる方も多いです。

 ふむ、この意見は一定の賛意を得ているようですね。

 わたくしがバーノス殿下と婚約していることに関して、納得している人ばかりではないようです。

 参考になりますね。


「あなたの主観でしょう?」

「そんなことないです! バーノス殿下は仰いましたもの。私のように自由になりたいって」

「それをあなたは、婚約から自由になりたいと捉えたのですね?」

「他にないですもの!」


 これはギャラリーの見解も割れているようですね。

 王族の責任の重さから逃れたいというのが正解でしょうけれど、恋愛脳の方もそれなりに多いようです。

 ……バーノス殿下は絶対に逃げたりしないですけれどもね。

 わたくしが殿下の婚約者であり続けるのと同じ理由で。


「それであなたの主張したいことは何ですか? バーノス殿下を婚約で縛りつけているという、あなたの考えをわたくしに押しつけたいだけですか?」

「バーノス殿下との婚約を解消してください。バーノス殿下が自由になれます!」


 主に下位貴族と思しき令嬢方から歓声が上がっていますね。

 バーノス殿下とわたくしの婚約が解消されれば、新たに婚約者になれるかも知れないという夢でも見ているのでしょう。

 バーノス殿下は優雅な貴公子で、人気も高いですから。

 しかし……。


「婚約は契約ですよ。わたくしの一存でバーノス殿下との婚約がなくなるはずがないではありませんか」

「知っています。シャンテラ様の意思を問いたいだけです」

「わたくしの意思?」

「はい。バーノス殿下とシャンテラ様との間に愛はないのでしょう?」


 あら、傍からは愛がないように見えるのかしら?

 はしたなくはない程度に仲睦まじく見せていたつもりでしたけれど。

 これは反省点かもしれませんね。


「バーノス殿下は私の頭を撫でてくださるのですよ。可愛い可愛いって」

「バーノス殿下ったらっ!」


 いけません。

 淑女らしくもなく、嫉妬の感情が溢れてしまいました。

 わたくしだってわんちゃんの頭を撫でたいですのにっ!

 殿下ばっかり撫で撫でを独占してっ!


「バーノス殿下と私の間には愛があるのです!」

「それは……」


 大きなどよめきが上がります。

 皆さん何か勘違いされているのではないですかね?

 ……動物を愛でる心? ペット愛? 

 そういうものはあるでしょうけれど、いわゆる恋愛とは違うものなのでは?


「シャンテラ様に問います! バーノス殿下との婚約を解消する意思はありますか? 愛がないのなら解消の意思を示してください!」


 ビシッとわたくしを指差すポーズはなかなか決まっています。

 芸を仕込まれたわんちゃんのようです。

 今日は大変面白いイベントを見せてもらいました。

 ほっこりしますね。


「わたくしにバーノス殿下との婚約を解消する意思はありません」

「何故ですか? 陛下の決めたことだからですか?」

「もちろん陛下のお決めになったことということはあります。が、それ以前に重要なことがあります」

「陛下のお言葉以前に重要なこと、ですか? それは何でしょう?」

「バーノス殿下の所有権がわたくしにある、ということです」

「は? 所有権?」

「古の契約に基いた所有権です」


 これはわからないでしょう。

 群集全員が首をかしげています。


「し、所有権とはいかなる意味なのでしょう?」

「今こそお話いたしましょう。わたくしとバーノス殿下の古き因縁を」


 場が静まり返り、わたくしの言葉を聞き漏らすまいという姿勢になりました。

 こうでなくてはいけませんね。

 わんちゃんばかりが主役を張っていては締まりませんから。


「バーノス殿下とわたくしは幼馴染でしてね」

「ズルいではないですか! 今更幼馴染属性を足してくるなんてっ!」

「まあまあ、落ち着きなさってくださいな。ですから殿下が侯爵領に遊びに来ることも時々あったのです」

「くっ、羨ましい」

「ある時、海で釣りをしようという試みがありまして。釣り船の船長は言いました。オレは王族だろうが貴族だろうが忖度はしない。釣り上げた獲物は釣った者の所有物だ。新鮮な魚を食べたければ自分の腕にものを言わせろと。俄然盛り上がりましたね」


 皆さんが興味津々で聞いていらっしゃいますが、話の終着点が見えないのではないですかね?

 どうバーノス殿下の所有権と結びついてくるのかと。

 もう少しですよ。


「その釣り大会でバーノス殿下が船から海に落ちたのです」

「大変ではないですか!」

「ええ。船上は右往左往の大騒ぎ。しかし殿下はわたくしの竿にかかったのです」

「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」

「皆の協力がありましたが、バーノス殿下を釣り上げたのはわたくしです。釣り上げた獲物は釣った者の所有物だという船長の宣言通り、殿下はわたくしの所有物になりました」

「そんなことって……」


 これ学生の年齢で知っているのはごく少数でしょうね。

 皆さんが唖然とした顔をしています。


「あなたがどう言おうと、これは当時の釣りに参加した全員の総意です。バーノス殿下との婚約は、わたくしの所有下にあるものですから正当な権利だと思います。ちょっと頭を撫でられたくらいでひっくり返ると思いますか?」

「くっ……」

「やあ、これは何の騒ぎだい?」


 あら、バーノス殿下がいらっしゃいましたよ。

 しらばっくれて。

 一番格好いい場面の登場を狙っていたのですね?

 バーノス殿下に近付き、ハグからのキスです。


「どうしたんだい、シャンテラ。今日はやけに情熱的じゃないか」

「あろうことか、殿下とわたくしの愛が頭を撫でられただけの令嬢に軽視されていたのですのよ? 癪ではありませんか」

「そ、それは……」

「何と、由々しき事態だな。僕達の愛を見せつけてやらねばならん」


 殿下からの熱い抱擁とキスです。

 この角度では群衆の様子はよく見えませんが、わたくし達の愛は伝わったことでしょう。


「そ、そんな……。バーノス殿下の婚約は政略だから、愛なんかないと思っていたのに」


 わんちゃんがそう思うのは故なきことではないかもしれませんが。

 思い込みの部分が大きいのではないですかね?

 バーノス殿下とわたくしの間には、強い愛の絆があるのです。


 先ほどはコメディチックに語りましたが、釣りの時は本当に大変でしたのよ?

 船の揺れでバーノス殿下が海に投げ出されて皆真っ青になって。

 悪いことに撒き餌で寄った魚を目当てに肉食サメが現れたのです。

 殿下が食われちまう、とにかくサメを追えってボートを出して。

 そしたらわたくしの竿にかかっているのが殿下だとわかって。


 絶対糸切るんじゃねえ、慎重に巻いて寄せろと言われて。

 殿下を引いてボートに近付けて、救い上げられた時は皆で泣きました。

 一番の大物だったぜと船長に褒められて。


『でんかはわたくしのものです!』


 涙でぐしょぐしょだったと思いますけれど、そう宣言しました。

 だってその頃からバーノス殿下のことが大好きでしたから。

 皆さんから拍手をもらって。

 初めてのキスをして。


 正式に婚約の運びとなったのは数ヶ月後でしたかね。

 バーノス殿下と結婚するのです。

 殿下に恥をかかせてはなりません。

 だって大好きな殿下に申し訳ないではありませんか。


 何事にも懸命に取り組んで、少しずつ様々なことを身につけて。

 バーノス殿下がいるからわたくしはくじけませんでした。

 殿下も同じだったのではないでしょうか?

 殿下は次期王と見られていますから、プレッシャーはわたくし以上だったと思います。


 殿下が爽やかで飄々とした貴公子に見えているなら、それは表面だけのことだと理解していないからです。

 努力を積み重ねた末に今のバーノス殿下があるのですとも。

 ええ、わたくしにはわかります。

 だってわたくし達は同じ苦労をし、同じ未来を目指す同志なのですから。

 

 もしわたくしがバーノス殿下の隣に相応しいと見られていたなら。

 それは殿下に相応しくあろうと頑張ったからです。

 相応しいから婚約者になったのではないのです。

 バーノス殿下とわたくしの歴史はそれほど浅くないですよ。


「ま、負けましたっ!」


 おや、わんちゃんが敗北宣言ですよ。


「バーノス殿下とシャンテラ様の愛がそれほど深いものであったとは思わなかったです」

「あなたに一つ、教えてあげます」

「何でしょう?」

「愛だけが深いのではないのです。絆が強いのです」

「絆が……」


 割れんばかりの拍手に包まれました。

 バーノス殿下がそっと囁いてきます。


「……くだらない茶番だが、割と楽しめたんじゃないかい?」

「……そうですね」

 

 わんちゃんが羨ましそうにこちらを見ています。

 薄っぺらい愛では勝てませんよ?

 もう一度バーノス殿下をぎゅっとしました。


          ◇


 ――――――――――後日談。


 シャンテラの『愛だけが深いのではないのです。絆が強いのです』は王立学校の流行語になった。

 愛だけでは足りないという認識が急速に広まった。

 守旧派にも新興恋愛派にも納得できる考えだったから。

 絆があればという考え方により、政略的な婚約ないし婚姻も支持を回復した。


 わんちゃんことアイラ・スピッツ男爵令嬢は、シャンテラたっての希望でしばらくウォーディントン侯爵家の侍女のアルバイトを勤めた。

 淑女らしさを身につけ、無事身の丈に合った令息をゲットしたそうな。

 もちろんバーノスとシャンテラの絆は揺るぎない。

 オールレイス王国の輝かしき未来を予見させるものであった。

 めでたしめでたし。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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