第15話
私たちが超能力を使う覚悟を決めた瞬間、大きな銃声が響いた。
バン!
ドアの向こうで、黒い大男が咆哮を上げる。ガクンと重い音が響き、大男が膝をつく。私はハッとして、皐月の手を握る。彼女の念動力が、静まる。
ドアが開き、迷彩服の自衛官が顔を出す。30代くらい、鋭い目、汗で濡れた顔。
「無事か!? 早く、部屋から出ろ! 今だ!」
彼の声に、私はハッとする。先生が、叫ぶ。
「二人、急いで! 行くわよ!」
私は皐月の手を引き、先生と一緒に部屋を飛び出す。廊下は、血と硝煙の匂いで満たされてる。ゾンビの死体が転がり、壁に弾痕が刻まれてる。黒い大男が、頭部に銃弾を受け、床に膝をついてる。
赤い目が、怒りに燃える。私は、恐怖で震えながら、皐月の手を強く握る。
自衛官が、先頭で走る。
「ついてこい! 装甲車で脱出する!」
私たちは、彼の背を追い、階段を駆け下りる。1階のホールは、ゾンビの死体と自衛官の遺体で埋まってる。
銃声が、遠くで響く。私は、皐月の震える手を握り、炎を抑える。彼女の念動力が、マンションを潰した力。でも、今は、逃げる時だ。
施設の出口を抜け、霧に包まれた敷地に出る。装甲車が、エンジンを唸らせて待ってる。オリーブグリーンの車体、血と泥で汚れたタイヤ。私たちは、自衛官に導かれ、装甲車に飛び乗る。
狭い車内は、鉄と汗の匂いで満たされてる。運転席の自衛官が、アクセルを踏む。装甲車が、唸りを上げて動き出す。
私は、皐月の肩を抱き、彼女の震えを抑える。先生が、私たちの手を握り、静かに言う。
「二人、大丈夫…生きてるわ…」
私は、先生の目を見つめ、頷く。彼女の覚悟が、私の炎を強くする。
装甲車が、隔離施設の敷地を抜ける。
霧の向こうに、かつて私たちが住んでた街を囲むバリケードが見える。コンクリートの壁の一部が、粉々に破壊されてる。
ゾンビが、がれきを這う。
私は息を呑む。あの大男が、破ったのか?
装甲車が、街中に入る。私の心臓が、凍る。焼け焦げたビル、ひび割れた道路、ゾンビが闊歩する交差点。ゾンビが、市民を襲い、血と肉が飛び散る。叫び声、うめき声、崩れるビルの音。
私は、皐月の手を強く握り、目をそらしたくなる。でも、そらせない。この街は、私たちの家だった。父さんと母さんが、生きて脱出した街。
運転席の自衛官が、振り返る。
「俺は氷川弘、陸上自衛隊の3等陸尉だ。隔離施設は放棄した。これから、作戦本部になってる駐屯地へ向かう。しっかり掴まってろ」
彼の声は、落ち着いてるけど、目に疲れが滲む。私は、震える声で言う。
「氷川さん…ありがとう。黒い大男、あれ…倒せたんですか?」
氷川の目が、鋭くなる。
「頭に一発、ぶち込んだ。だが、あの怪物、普通じゃない。生きてる可能性もある。駐屯地で、対策を練る」
私は、皐月の目を覗く。彼女の念動力が、マンションを潰し、大男を閉じ込めた。でも、彼は生きてた。私の炎が、恐怖で揺れる。皐月が、囁く。
「桜…私、怖い…でも、父さんと母さん、待ってるよね…?」
私は、彼女を強く抱きしめる。
「うん、皐月。絶対に会える。喫茶店の夢も、叶えるよ」
先生が、氷川に尋ねる。
「氷川さん、駐屯地の状況は? 安全なの?」
彼が、短く答える。
「ゾンビの襲撃は続いてるが、駐屯地は要塞だ。そこまで、俺が運ぶ」
装甲車が、ゾンビの群れを突き進む。車体が、ゾンビを跳ね飛ばす。血と肉が、窓に飛び散る。私は、皐月の手を握り、目を閉じる。父さんと母さんが、待ってる。どんな闇が来ても、私たちは、生き延びる。
装甲車が、霧の中を走る。遠くで、ゾンビのうめき声が響く。私は、皐月の手を握り、彼女の温もりにすがる。黒い大男は、まだ生きてるかもしれない。
街は、ゾンビに支配されてる。
でも、私たちには希望がある。父さんと母さんとの再会、喫茶店の夢、桜と皐月の絆、早希先生の覚悟。
装甲車が、駐屯地へ向かう。霧の向こうに、希望の光が見える。どんな敵が来ても、私たちは戦う。それだけで、十分だ。