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幕間

自衛隊員・山本の視点

桜と皐月、そして早希がマンションへと到着した数時間後。

封鎖された町の外、郊外の自衛隊基地の一室で、警察と自衛隊の合同会議が始まった。

コンクリートの会議室は、蛍光灯の白い光に照らされ、空気が重い。

長方形のテーブルを囲むのは、警察官、自衛隊員、政府から派遣された防衛大臣。 

私の隣には、若い警察官・田中が座り、緊張で顔が青ざめている。

対面には、防衛大臣・鈴原が書類を広げ、眉間に皺を寄せる。

私は、自衛隊の幹部として司会を務める。

胸の奥で、責任の重さがのしかかる。

ゾンビ襲撃から数日が経ち、町は封鎖され、生存者の情報は途絶えた。

私の部下たちは、毎日、ゾンビの群れと戦い、疲弊している。だが、諦めるわけにはいかない。生存者がいるかもしれない。そんな希望が、私を突き動かす。


「皆さん、会議を始めます。まず、最新の空撮映像をご覧ください」


私はプロジェクターを操作し、スクリーンに映像を映した。ドローンの空撮だ。

町の全景が映し出される。

焼け焦げたビル、ひび割れた道路、ゾンビの群れが蠢く交差点。

数百、いや、数千のゾンビが、うめきながら徘徊している。映像がズームインすると、ゾンビの腐った顔、血に染まった服、ぎこちない動きが見える。

会議室が騒然となる。田中が、震える声で呟いた。


「こんな…こんな中に、生存者がいるはずない…」


佐藤大臣が、拳をテーブルに叩きつけた。


「ふざけるな! 市民を見捨てる気か!?」


その声に、田中が縮こまる。私は手を挙げ、場を静めた。


「まだ続きがあります。次の映像を」



防衛大臣・佐藤の視点

スクリーンに新たな映像が映る。

町の外れ、貴重品運搬用の装甲車が、ゾンビを避けながら移動している。

頑丈な車体、血と泥に汚れたタイヤ。ゾンビが群がるが、車は突き進む。

会議室が、再びざわめく。私は目を細め、映像を見つめた。

生存者だ。誰かはわからないが、生きている。希望が、胸に灯る。

自衛隊の山本が、落ち着いた声で続けた。


「この装甲車は、3日前から確認されています。ゾンビを回避しながら、町の外を目指しているようです。次の映像を」


映像が切り替わる。今度は、灰色のSUVが映る。

町の中心部、コンクリート造のマンションに到着し、3人の女性が降りて建物に入っていく。

映像は不鮮明だが、若い女性二人と、大人の女性。彼女たちの動きは、疲れていながらも、決意に満ちている。

私は息を呑んだ。あのマンション…7年前に別れた妻との間に生まれた私の娘の住む場所だ。

早希、生きてるのか? 彼女は、歴史教師として、私の友人の娘を指導していた。

ゾンビ襲撃の混乱で、連絡が途絶えていたが…。私はテーブルを握りしめ、希望と不安が交錯した。

彼女たちが生きているなら、救わなければ。だが、ゾンビの群れ、封鎖された町。救助は、簡単じゃない。

山本が、静かに言った。


「映像から、生存者が複数確認されました。特に、マンションに入った3人組は、救助が可能です。ただし、問題があります」


私は彼を見た。


「問題? 何だ?」


山本の目が、厳しくなる。


「生存者が感染している可能性です。ゾンビの感染経路は未解明で、映像だけでは判断できません。さらに…未確認ですが、ゾンビとは別の怪物の存在が報告されています」


警察官・田中の視点

山本の言葉に、会議室が凍りついた。怪物? ゾンビだけでも手に負えないのに、別の脅威? 私は背筋が寒くなり、手が震えた。3日前、警察署での戦闘を思い出す。黒い大男――2メートルを超える巨体、墨汁のような肌、赤く光る目。あの怪物が、署を破壊し、仲間を叩き潰した。私は逃げ延びたが、悪夢が消えない。あれは、ゾンビじゃない。何だ、あいつは?



「黒い大男? 何だ、それは?」


山本が、書類を手に説明した。


「未確認情報ですが、複数の生存者が、異常な巨人を報告しています。ゾンビとは異なり、知能を持ち、特定の標的を追うようです。警察署、避難所での破壊行為が確認されています。詳細は不明ですが、人工兵器の可能性も…」


会議室が騒然となる。自衛隊員が叫んだ。


「人工兵器!? 誰がそんなものを!?」


別の警察官が、テーブルを叩いた。


「そんな怪物がいるなら、救助なんて無理だ! ゾンビだけで精一杯だぞ!」


佐藤大臣が立ち上がり、声を張り上げた。


「黙れ! 生存者がいるんだ! 見捨てる気か!?」


私は縮こまり、目を伏せた。ゾンビ、黒い大男、感染のリスク。救助は、自殺行為かもしれない。でも、あの3人の女性…彼女たちの決意ある動きが、頭から離れない。

彼女たちは、生きようとしている。私たちが諦めたら、彼女たちの希望を潰すことになる。

私は拳を握り、震える声で言った。


「救助…試すべきです。彼女たち、生きてる。僕たちが、諦めたら…」


私の言葉に、山本が頷いた。


「田中君の言う通りです。生存者を救うのが、我々の務めだ。ただし、慎重な計画が必要だ。ゾンビ、怪物、感染リスクを考慮し、救助チームを編成する」


佐藤大臣の視点

会議は、夜遅くまで続いた。救助計画、ゾンビ対策、黒い大男の調査。

意見は対立し、声は荒々しくなる。

山本は、冷静に議論をまとめようとするが、疲れが彼の目にも見える。

私は、映像の3人の女性を思い出した。早希と、彼女の生徒たちかもしれない。彼女たちが、生きているなら、救わなければならない。


「救助チームを編成する。ゾンビと怪物のリスクを最小限に抑え、マンションの3人を優先する。異論は?」


私の声に、田中が頷いた。


「賛成です。彼女たち、待ってるはずです」 


山本も、静かに言った。


「了解しました。明日、詳細な計画を立案します」


会議室の空気が、わずかに和らぐ。ゾンビの群れ、黒い大男、感染の恐怖。全てが、私たちを試す。

だが、生存者の希望が、私たちを突き動かす。

私は、早希の顔を思い浮かべた。彼女なら、きっと生徒を守っている。彼女たちのために、戦わなければ。

夜の基地は、静寂に包まれる。遠くで、ヘリのローター音が響く。封鎖された町の向こうに、桜、皐月、早希がいる。

彼女たちの灯火は、消えていない。

私たちは、その灯を守る。どんな闇が待っていても。


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