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第三話 おっさん、実験台になる

村を救ったガルド、ミナ、リリスは、ミナの祖母の家で円座になっていた。水鬼を倒した興奮は未だ冷めていなかったが、三人の心には新たな迷いが生まれていた。



「でもさ、冒険って言っても、何すればいいんだろうね?」

ミナが近くのストーブに薪をくべながらつぶやいた。「ギルドクエストは報酬も安いし、ガルドさん追放されてるからやりづらいよね…」



リリスは杖を膝に置き、ため息をついた。「私の炎も、ギルドじゃ『危険』扱いよ。かといって適当に魔物狩っても、稼ぎは食うだけで精一杯だわ」



ガルドは剣を磨きながら唸った。「……確かに、目的がねえと、ただの流れ者だ。なんか、でかい目標でもあればな……」



その時、家の戸が開き、ミナの祖母が現れた。白髪を束ねた穏やかな老女で、ミナそっくりの緑の瞳が優しく輝いている。



「おや、若い子たちが悩んでるねえ。冒険の目的が欲しいなら、いい話があるよ」

三人が顔を上げると、祖母は微笑みながら語り始めた。



「昔からの言い伝えさ。世界には八つの大精霊がいる。炎、水、風、土、雷、氷、闇、光――この八大精霊すべてと心を通わせた者は、どんな願いでも叶う力を手に入れるんだって」



ミナの目がキラキラと輝いた。「どんな願いでも!? すっごい! それ、めっちゃ冒険っぽい!」



リリスも身を乗り出した。「願いが叶う力、ね…私の炎を完璧に制御できるようになるかな?」



ガルドは腕を組み、笑った。「俺は…まあ、昔の仲間を見返すくらいかな。面白そうじゃねえか!」



祖母は頷き、話を続けた。

「八大精霊の居場所は、ほとんどが謎さ。でも、ここから北に少し行った森の館に、サイエンって女の人が住んでる。ちょっと変わってるけど、物知りだから精霊のことを何か知ってるかもしれないよ」

「ありがとう、おばあちゃん、私、私ね……」

もじもじするミナの頭を、祖母が優しく撫でる。

「いいよ、こっちは大丈夫だからね。思いっきり冒険して、色んなものを見ておいで」

「おばあちゃん……うん!」

ミナは目を潤ませ、頷いた。

「サイエンさん、か。 よし、早速明日行ってみよう!」ミナが立ち上がり、ガルドとリリスも頷いた。三人は新たな目的に胸を躍らせ、翌朝、森の館を目指した。



北の森は霧に包まれている。木々の間から古びた石造りの館が姿を現した。扉を叩くと、甲高い声が響いた。



「何ですかな!? 今、大事な実験の真っ最中ですぞ!」

扉が開き、現れたのは白衣を着た青髪の女性だった。長い髪を無造作に束ね、分厚い眼鏡をかけている。



年齢は25歳前後、口元には妙な笑みが浮かんでいた。「おやおやぁ、 冒険者ですかな? 」

「ああ、俺はガルド。こっちがリリス、ミナ」

「ワタシはサイエンですぞ。お客様とは珍しいですなぁ。ワタシに一体何の用ですかな?カタカナ?なんつって、ぷふー」サイエンは自分のジョークに吹き出す。



ガルドは眉をひそめた。

「……変なやつだな」

「ガルドさん!」ミナがたしなめる。

「ふふ、褒め言葉と受け取っておきますぞ」

「ところでサイエン、八大精霊ってものについて何か知らねえか?」



サイエンは眼鏡をクイッと上げ、ニヤリと笑った。

「おお、精霊ですな! ワタシ、確かに知ってますぞ! だが、タダで教えるのは面白くありませんな。ワタシの実験の……実験台になってくれれば、教えてあげますぞ!

ドゥフフ!」

ミナが首をかしげた。

「実験台? 何するの?」

「ずばり、戦闘ですぞ! ワタシの最新作と戦って、性能を試してほしいのですぞ!」サイエンは懐から銀の笛を取り出し、高らかに吹いた。



すると、空から轟音とともに巨大な影が落ちてきた。鋼鉄の樽を継ぎ合わせたような金属の巨人――ゴーレムだ。高さ3メートルはある。全身が鉄の塊で、その目は赤く光っている。



「こいつを倒せば、精霊の情報を教えてあげますぞ! さあ、スタート!」



サイエンが手を叩き、ゴーレムが動き出した。地面を揺らし、三人に迫る。リリスが杖を振り、叫んだ。「【烈焰弾】!」炎の球がゴーレムに直撃したが、金属の表面で弾け、傷一つ残さない。「なに!? 効かない!?」



サイエンが笑いながら叫んだ。「ドゥフフ! ワタシのゴーレム、炎の弱点は対策済みですぞ! 高熱耐性装甲、完璧ですな!」



ミナがポーチから毒瓶を取り出し、投げつけた。「これなら!」だが、毒液はゴーレムの表面を滑り落ち、効果を発揮しない。サイエンが鼻を鳴らした。



「毒も無意味ですぞ! 完全防水、防腐コーティングですな!」

ガルドは舌打ちし、剣を構えた。「なら、俺が時間を稼ぐ! 【鉄壁】!」彼の体が光に包まれ、ゴーレムの鉄拳を受け止める。衝撃で地面がひび割れるが、【鉄壁】は攻撃を防いだ。



「ほほう、ゴーレムの攻撃を受け止めるとは!ですが防御してるだけではジリ貧ですぞ」

「うっせぇ!こちとら今までの経験でそんなこと重々承知なんたよぉ!」



ガルドはゴーレムの動きを拳で受け止めつつ、その動きを観察しながら叫んだ。「リリス、ミナ、攻撃を続けろ! 何か弱点があるはずだ!」



リリスは連続で炎を放ち、ミナは毒瓶を投げ続けるが、ゴーレムは微動だにしない。【鉄壁】の効果時間が切れ、ガルドはゴーレムの拳を避けきれず、地面に叩きつけられた。

「ぐっ!」

「ガルドさん!」

ミナが駆け寄ろうとするが、ゴーレムが再び拳を振り上げたのを見て、リリスが彼女を制止する。リリスが叫んだ。「くそっ、この鉄の塊、どんだけ硬いのよ!」



ガルドは立ち上がり、ゴーレムの動きを凝視した。【鉄壁】で防ぎながら気づいたのだ。ゴーレムの関節部分――腕の関節、腕と胴体をつなぐ継ぎ目が、わずかに防御が薄い。ガルドは【鉄壁】なしで、ゴーレムの拳を躱しながら、周囲を回って剣で関節や継ぎ目に攻撃を加える。金属が火花を散らし、わずかに傷がつく。だが、ゴーレムは動きを止めない。



「ほっほっほ、関節に目をつけるとはやりますな!ただ防御型の戦士では少し力不足、ですかな?」

「ミナ!リリス!」

「はい!」「ええ!!」

「お前たちの毒瓶と【烈焰弾】を【調和】させろ!」

「でも、私の炎も、ミナの毒瓶も効かなかったよ?」

「……リリスさん。私はガルドさんを信じるよ。やろう!」

「……そうね、おっさんの事だから、なんかあるんでしょ!信じるよおっさん!」



リリスは頷き、杖を掲げた。「【烈焰弾】!」ミナは毒瓶を投げ、叫んだ。「【調和】!」腕輪が眩い光を放ち、炎と毒液が空中で融合した。炎は紫色に変色し、毒の「腐食」特性を帯びた異様な輝きを放つ。



紫炎がゴーレムの関節の傷に命中し、高熱を帯びた金属がジリジリと溶け始めた。サイエンが目を丸くする。「な、なんですと!? 腐食性の炎!? そんな攻撃、想定外ですな!」



ガルドは叫んだ。「まだだ! リリス、ミナ、続けるぞ!」二人が再び紫炎を放ち、ゴーレムの関節がさらに劣化する。ガルドは【鉄壁】を再発動し、ゴーレムの真正面に飛び込んで、両腕で締め上げた。「この、動けねえようにしてやる!」

紫炎がゴーレムの体内に侵入し、内部を腐食させながら焼き尽くす。ゴーレムが悲鳴のような軋みを上げ、ついに動きを止めた。



「ぶっ……壊れろ!」

ガルドの両腕が、熱で劣化し毒で腐食したゴーレムの胴体を、うち砕いた。ゴーレムは崩れ落ち、鉄の破片と化した。



サイエンは拍手しながら近づいてきた。「ワハハハ! 見事ですぞ! ワタシのゴーレムを倒すとは、恐れ入りましたな! 約束通り、精霊の情報を教えますぞ!」



ガルドは息を切らしながらサイエンに尋ねた。「さっさと話せ。八大精霊、どこにいる?」

サイエンは眼鏡を光らせ、語り始めた。



「八大精霊の一つ、氷の精霊が、ここから北のフリーオの街に潜んでるはずですぞ。氷の洞窟に封じられてるって噂ですな」



ミナが目を輝かせた。「氷の精霊! すっごい! やっと冒険っぽくなってきた!」

リリスは笑った。「氷か…私の炎で溶かしてやるわ」

「よっしゃ、さっそく出発だ!」ガルドも気炎をあげる。



サイエンは突然手を叩き、叫んだ。「待つのです! ワタシもその冒険、オトモさせて頂きたい! 精霊の力、研究しがいがありそうですな!ドゥフ!」



ガルドは首をかしげた。「お前、ここでの研究があるんだろ? 旅に出ていいのか?」

「問題ありませんぞ!」サイエンは懐から球を取り出した。「テテテテーン!この『召喚ボール』があれば、このワタシをいつでも呼び出せますぞ! 」



「ちょっと待てぇい!」

ボールを見たガルドが叫ぶ。

「なんですかな?」

「なんですかな?じゃねえ、こりゃどう見ても……アレのアレじゃねぇか!」

「ガルドさん。詳しく描写しなければ大丈夫だよ。」

ミナが落ち着いて言う。

「いや、まずいってこのデザイン!」

「んー、まぁコミカライズとかされたらヤバいかも?あ、でも白黒ページなら大丈夫じゃないの?」

「でも万が一アニメ化したらどうするんだよ」

「ないない。そもそもコミカライズからしてないない」

「じゃあアニメ化の際にはモザイクかけるってのはどうかな、リリスさん?」

「あー、お話はまとまりましたかな?」

「サイエン!大体お前がこんな赤と白の」

「シーッ!ガルドさんシーッ!」

ガルドが頭をかく。

「まぁ、しゃあねぇか」



ミナが目をキラキラさせてボールを見つめる。

「でもこれ、すっごい! サイエンさん、これであなたも仲間だね!」

「ドゥフ、仲間とは嬉しいですな。ではさっそく使ってみるといいですぞ。『行け!サイエン!』とか何とか言いながらボールを向こうにでも投げてくだされ。」

「よし、『行け、サイエン!』」

投げたボールが遠くで煙を吐き出す。こちらにいたサイエンが親指を立てると一瞬で消え、向こうの煙の中から姿を現す。

「すごーい!」

「良好良好」サイエンはニンマリと笑った。

「すげえなこりゃ」ガルドも感心している。

「それともう一つ、もう一度投げてみてくだされ」

「よし、『行け、サイエン!』」

サイエンはチッチッチと指を振る。今度はサイエンは移動せず、ボールから音声が流れる。

「サイエンは、只今召喚に応じることが出来ません。また後でお試しに……」

「なんじゃこりゃ」

「人間を好きな時に呼び出すなんてプライバシーの侵害も甚だしい。相手が手が離せない時は出なくて済む親切設計ですぞー」


リリスは肩をすくめた。

「あんた、変なのかマトモなのかよく分かんないね……まあ、頭良さそうだから、悪くはないか」

ガルドは笑い、ボールをポケットにしまった。「よし、フリーオを目指すぞ。氷の精霊、俺たちが心を通わせてやる!」



ガルドの声は、青空に高く響いた。



「ああそうそう、このボール一つで、登録した相手を誰でも呼べますぞ。本家との差別化ですな。クフフ」

「いや、いい感じの描写で締めたのに、話を混ぜっ返すなよ……」


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