第一章 休日は何処に
峰ヶ原颯太はバスの中にいた。そして制服姿である。だが、バスの中には学生は自分一人しかいない。なぜかだろうかそれは今日がゴールデンウィークで学校が休みだからだ。
ではなぜ、僕はこうして学校指定の鞄を片手にバスの中にいるのか?それは連休前の小テストで赤点を取り、休み明けに課題の提出が担任教師より命じられているからである。
なら、自宅でやれよと言うのが一般的な意見であろうが、我が家にはちょっとした事情があるため、こうして長野県立図書館内の学習室に向かっているのである。
目的地が近くなったためバスを降りる。玄関に向かって歩いていると……。
「おーい。峰ヶ原!」
後ろから声をかけられ、振り返るとそこには、去年まで同じクラスメイトで、僕の良き理解者の一人である新見莉央が立っていた。
「珍しいな。こんなところでなにしてるんだ?」
「科学研究部の実験に必要な参考書や資料を探しに来たんだ、ただこういう人混み多いところはどうにも苦手でね」
莉央は普段からこういった図書館に来ることはない。そもそも彼女の場合、こういう人混みが多いところは苦手なため、いつもは書店かネットで必要な参考書を購入している。
そんな極度の人混み嫌いの莉央がわざわざ図書館の目の前にいることが新鮮すぎて呆然としていると―――――。
「どうした―――峰ヶ原。おーい生きているか?」
僕の顔の前で手を左右へ振りながら生存確認をしてくる。
「ああ――――大丈夫だ」
「返事の仕方が大丈夫じゃない気がするけれど」
莉央からツッコミを受け流しつつ図書館の中へ入ろうとすると峰ヶ原と声をかけられる。
「新見も一緒に来るか?」
「私は遠慮しておくよ。それより頼みたいことがあるんだけれど……えっとその―――――」
指をもじもじさせながら上目遣いでこちらを見てくる。
「なんだ、トイレなら建物中を入って―――――」
「違うから。最後まで訊けってバカ!」
羞恥と怒りに満ちた鋭い眼差し向けてくる莉央。
「ゴールデンウィーク最終日に私の実験を手伝ってほしいんだ」
「……」
「別にいいけど、何か奢れよ」
「女子に奢らせようとするなんてさすが峰ヶ原」
「それくらいは要求する権利はあると思うぞ」
「はい、はい……わかった、わかった。そっちもよろしく頼んだよ」
僕の発言を受け流すように手をヒラヒラとさせながら若里公園の方へ歩いていく莉央。
「それじゃ、僕は課題を終わらせてくるから、またな」
そうして莉央と別れた後、自力で何とか課題を終わらせることができた。やればちゃんと出来る子のようで自分に絶望せずに済んでよかったと思いながら県立図書館を後にする。
その後は、長野駅まで歩き、妹へのお土産をデパートの地下で買う。
「莉央の手伝いをするなら、少し理系の知識をつけとくか」
近くの書店に行き、理系コーナーで役立ちそうな参考資料を見ていると、『サルでもわかる電子テレポーテーションの本』と書かれた本を見る。
「へぇ、サルって意外に頭良いんだな」
と思いながら本を手に取ってレジに向かう。
「目的も果たしたしことだしそろそろ帰ろうかな」
長野駅前のバス停に向かっている途中で信じられない光景を目撃した。目の前に生足の野生のバニーガールが歩いているのだ。
首を右に左にきょろきょろとしながら歩いている。まるで、自分のことを見えている人間を探すように。
よくよく見てみると、その顔に見覚えがあった。誰だったかを思い出そうとしているところで、その少女と目線がばちりと会う。どこかで見たことがあるような気がしなくもない。数秒、見つめ合ったあとに、高校の先輩であることを思い出す。
確か、名前は―――――。なんとか目の前にいるバニーガール先輩の名前を思い出そうとしていると。
「ねぇ――――そこの君」
突如として背後から声をかけられる。