プロローグ
赤瀬涼馬と申します。
私の人生は仕事ばかりだった。家族とどこかにいった思い出もない。7歳の時に、芸能界デビューを果たしてからずっと仕事に追われている。
きっかけは母親が芸能関係の仕事をしていて、その縁である芸能事務所のオーディションを受けることになりたまたま受かってしまったことだった。
そこからは恋愛もできず、ただ学校と仕事場を両立するだけの生活になってしまった。
最初はあの人が喜んでくれたり、色々と楽しいことも多くそれなりにやりがいを感じていたと思う。しかし、仕事が忙しくなるにつれてだんだんと学校のイベントに参加できなくなり、友達とも疎遠になっていく。それが私の中で少しずつ確実にストレスになっていた。
そして、あの事件が起きた――――いや、起こるべくして起こったと言うべきなのか。二年前、あの人と決別しようと決心させた。私の中では忘れることができないくらい許せない出来事が原因で、当時マネージャーを務めていたあの人と大ゲンカをして、活動休止を決めた。そして現在は県内でも有名な進学校に通っているという状況だ。
もちろん、学費や生活費もすべて自分で出しておりあの人からは援助はしてもらっていない。
「はぁ――――。活動休止中とはいえ、どこにいってもあの水瀬澪って言われて騒がれるのは少しだけ疲れたな。いっそのこと誰も私のことを知らない世界に行けたらいいなぁ――――」
とそんなありもしない非現実的な考えに思考を奪われ、近づいてくる危機に私は気づけなかった。
プゥー――とどこからかやや長めのクラクションが聞こえてくる。事故でもあったのかと他人事のように考えていた、次の瞬間、ドンっと鈍い音ともに体が宙へ飛ばされる。なにが起こったのか分からずに地面にたたきつけられる。
薄れゆく意識の中で、運転手が血相を変えて駆け寄ってくるのを見て、澪は自分が車に轢かれたことを遅まきながらに理解する。
「ああ――――私、轢かれちゃったんだ。これで私のことを誰も知らないところに行けるかな」と場違いなことを考えながらゆっくりと瞼を閉じた。