映画を観に行ったら~偏見持ってごめんなさい
映画を観に行った。
ひとりで。
お気に入りの映画はゆっくりと一人で見るのが好きだ。
だから今日も一人。
そこは小さな映画館。
上映しているのは、少しだけマニアックなアニメ映画だった。
私はそのアニメのファンで、映画になったら必ず大きなスクリーンで見る、と決めていた。
上映時間まで、まだすこしある、
映画館に着くと、そう思って買っておいたコンビニのおにぎりをロビーで食べることにした。
ロビーには次の上映回を見るための人がチラホラと見えた。
なんとなく周囲をみながら、おにぎりを頬張っていいると、
そこに家族連れがやってきた。
家族、と言っても
お父さんらしき人が
車椅子にのった小学校高学年くらいの子、
低学年くらいの子、
園児さんくらいの子、
よちよち歩きの幼児、
を連れていた。
子供たちは全員男の子のようだ。
私の隣のソファにその親子は陣取った。
車椅子の子は、言葉を話すのも不自由のようで、何かを言おうとして
「あーうー」という大きな声を上げていた。
そして、幼児はきゃーきゃーさわぎながら、
ロビーを駆け回る。
この子たち、映画見ていられるのだろうか。
私は不安になった。
映画館はあまり広くはない。
騒がれたらいやだな。
お父さん、子守に困って映画館に連れてきたんだろうか。
はっきりいって、迷惑だ。
内心そう思っていた。
他にもそう思った人がいたのか、
親子をちらちらとみている周囲の視線があった。
相変わらず、幼児は駆け回り、
園児と低学年が付いて回る。
こうなったら、この親子と一番遠い席に座ろう。
私は内心そう思った。
中に入れるまで、あと10分ほど、となった頃、
お父さんが、幼児を抱っこして
ロビーを歩き始めた。
背中をトントンしながら、ゆっくりゆっくりお父さんは歩く。
しばらくすると、幼児はお父さんの抱っこされながらぐっすりと眠っていた。
映画館、開場の時間になった。
幼児を抱っこしているお父さんに代わって、
園児さんがさっと荷物を持った。
低学年が高学年の車椅子を押す。
親子はそうやって中に入っていった。
車椅子スペースとその周辺に親子は座っていた。
幼児は眠ったままで、
園児はお父さんのお隣に座る。
低学年は高学年の隣だ。
ポップコーンを子供たちで分けながら食べていた。
車椅子の子は前のめりになってスクリーンを見つめていた。
まだ、コマーシャルが流れているのだけなのに。
しばらくして、映画が始まった。
私はスクリーンにくぎ付けになった。
あの親子のことは全く気にならなかった。
というか存在も忘れていた。
スクリーンが暗くなり、開場に明かりがともった。
映画を堪能した私は椅子を立って外に出た。
その通路であの親子と出くわした。
車椅子の子は、映画が、このアニメが大好きなようだ。
発している言葉はわからないけど、生き生きとした表情でそれがわかる。
手慣れた様子で低学年が車いすを押して外に出て行った。
園児は荷物を持ち、ポップコーンが入っていた空き箱をゴミ箱に捨てていた。
さっきのロビーに出てくると、
寝ていた幼児が目を覚ました。
寝起きはいいのか、愚図ることもなくニコニコしていた。
幼児を真ん中にして園児と低学年が手を繋いで歩く。
お父さんが車いすをして外に出て行った。
私は、
あの親子が入ってきたとき、
正直、嫌だなと思っていた。
騒がれそうだ、うるさいだろう、勝手にそう思っていた。
そう思った自分が恥ずかしくなる。
この親子、素晴らしい連携で映画を楽しんでいた。
「偏見持ってごめんなさい」
その日の日記には大きな字でこう書いた。