捜査を始めます?
「というわけで、捜査会議を始めます!」
「……はあ」
お義姉様の部屋から早々に引き上げた私は、自室で従者に向かって宣言した。
「一応お尋ねしますが、何の捜査ですか」
「もちろん、お義姉様への加害事件よ!」
あのあとお義姉様づきの侍女にも話を聞いたけど、状況はひどいものだった。椅子や台に細工されているのは日常茶飯事。食事も入念な毒見なしには食べさせられない。面会も最低限で、騎士たちは毎日厳重な警戒態勢をしいている。
それでも、不審な事故がなくならないらしい。
許せない。
こんなの絶対見過ごせない。
「捜査ってどうするつもりなの?」
のんびりとした声が戸口からかけられた。
「お兄様!?」
振り返ると、ジルベール兄様が立っている。兄様はため息ひとつついてから、ドアを閉めて鍵をかけた。
「極秘事項を話す時には、ちゃんと人払いをしなさい」
「はい……ごめんなさい」
私は素直に頭をさげる。
確かに、ちょっとウカツだった。
「でも、どうしてジルベール兄様が私の部屋に」
「サラ義姉さんが狙われていると聞いて、血相変えてるのを見たら放っておけないでしょ。案の定、捜査とか事件とか、物騒なこと言ってるし」
「う」
「で? 具体的に何をしようとしてたの」
私はお座りポーズで待機しているディーを振り返る。
「もちろん、奇跡の力で犯人捜しを……」
「無理です」
「なんで!!!」
従者は、あっさり命令を却下してきた。
「こういう時のための奇跡の力でしょ!」
「ついさっき、力を使いつくした本人がそれを言いますか?」
「え」
私はあわてて虹瑪瑙のペンダントを見た。
言われてみれば、石の色が濃い藍から元の真っ黒に戻ってしまっている。
「先ほど王妃のお守りに力を籠めるよう命じた時『最大限の加護で守りたい』って願ったでしょう。その願いの通り、私の活動をのぞいたすべての力がお守りに注がれたんです。回復するまで、奇跡の力は使用不可です」
「あああああああ……!」
私は頭を抱えた。
なんてこった。
お義姉様が心配すぎて、力の残量のことをすっかり忘れていた。
これじゃ、運命の女神を『算数もできない駄女神』なんて笑えない。自分だって算数ができてないんだから。
「つまり、ディートリヒの奇跡の力は、しばらく使えないんだね?」
「そうなります」
ジル兄様の確認に、ディーは素直にうなずいている。
「とはいえ、悪い判断ではありません。私たちにとって一番大事なのは、犯人捜しではなく、王妃殿下とお子様の命です。まず万全の守りを固めておいてから、次の一手を考えればいい」
「じゃあその次の一手で調査を……」
意気込む私に、ディーはフンと鼻を鳴らす。
「それも難しいでしょうね。女神の力はモノに作用することは得意でも、暗殺者を当てるような、占いじみたことは苦手です。雑に『犯人を見つけて』と言われても、実現するのは難しいですよ」
「お城や離れを調べて、細工の証拠を見つけるとか……」
「この世界で鑑識の真似事をしてみてもいいですが……分析用の機材もない状態で、証拠を正しく扱えるとは思えませんね」
「ううう……」
従者の正論パンチが痛い。
なにもそこまで連打しなくてもいいじゃないか。
「じゃあ、地道に聞き込みとか」
「それも無理かな」
今度はジル兄様が否定してきた。
「君がイースタンに旅立ってから、もう半年が過ぎてるんだよ。今の王宮の人員は正確に把握できてないんじゃない?」
「そこも含めて聞いて……」
「何を理由に?」
「う」
「突然帰ってきた王女様があちこちで聞き込みしてたら、間違いなく噂になるからね?」
兄までも正論パンチ連打である。
全部筋が通ってるだけに、何も言えなくなってしまう。
「義姉さんのことは、国王のレイ兄さんにまかせなさい。奥さんのことを放置するような人じゃないのは、コレットもわかってるでしょ」
「……はい」
「まず君は落ち着くこと」
ぽんぽん、とジル兄様が私の背中を叩いた。
「どうしたの? 最近の君はちょっと変だよ」
「え……」
「危機的状況にも関わらずルカ王子を連れだしたり、妊娠してる義姉さんが狙われてると聞いた途端捜査を始めたり。もともと、年下の子をかばう傾向にはあったけど、ちょっと度がすぎてないかな」
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