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オーシャンティア事情

「おはよう~」

「おはよ。つっても、もうすぐ昼だけどな」


 懐かしの我が城に帰り着いた翌日、遅い朝食を済ませた私が向かったのは、旅の苦楽を共にしたルカの部屋だった。目が覚めたらなぜか子ユキヒョウに戻ってたディーを連れて部屋に入る。異国から異国へと移動を重ねることになったオーシャンティアの王子は、優雅にお茶を飲んでいた。そのリラックスした様子に、思わず気が抜けてしまう。


「何か不都合はないかと様子を見に来たんだけど、問題なさそうね」

「不都合どころの話じゃねえよ。豪華な食事に広い部屋、高級家具に、その上専属の使用人までついてんだぜ」


 ルカは部屋のすみをちらりと見た。

 そこには、明るいブラウンの髪をきっちり結った、年かさの侍女が立っている。


「国外からお客さんが来たときは、だいたいこんな感じじゃない?」

「まじか。豊穣の大国サウスティ、やべえな」

「いやいや、ルカだって海洋国オーシャンティアの王子でしょう」


 ルカはしかめっつらで首を振る。


「前にも言ったけど、俺は妾が産んだ三番目なんだってば。地位も金もなく、国王陛下のゴチョーアイだけを頼りに、ひっそり離宮で生きてる俺らに贅沢なんかとてもとても」


 そしてはあ、とため息をつく。


「つうかこんな王族扱いされたの、生まれて初めてだわ」

「初めて出た国外公務は、人質事件になっちゃったしね」


 そう考えると、まだ十歳だというのに苦難の連続である。


「まあ、サウスティ王家にツナギができたのは、ラッキーだったけど」

「王位を狙うなら、支援しよっか?」

「そりゃー心強いな。継承争いに負けたら、かくまってくれ」


 危険な言葉遊びに、お互い思わず笑ってしまう。


「まあ、それもこれも、無事オーシャンティアに帰れたらの話だけどな」

「迎えが来るまでは、まだかかるんだっけ?」

「そのへんの話は、俺もまだ聞いてねえんだよ」

「帰国の件でしたら」


 こほん、と小さく咳払いしてディーがソファの上に上がってきた。

 小さなユキヒョウの姿で、床から発言してたら話しづらいと思ったらしい。


「コレット様がお休みになっている間に、騎士団の詰め所から少し情報を仕入れてまいりました」


 いつもながら、うちの従者は有能だ。


「オーシャンティアからのお迎えは、まだ少しかかりそうです」

「理由が、あるんだよね?」

「もちろんです」


 ドヤ顔でユキヒョウは語る。


「サウスティが対面したのと同じ空飛ぶドラゴン、通称ワイバーンがオーシャンティア側とノーザンランド側の国境にもあらわれたそうです」

「そいつはやべえな」

「サウスティには、私たちという戦力がありましたが、他国にそのような奇跡は起きていません。国境の守備兵はどちらもほぼ全滅したそうです」

「うへ……」


 ルカがうめき声をもらす。

 ノーザンランドもオーシャンティアも、サウスティに匹敵する大国だ。方向性の違いはあるけど、多くの資源と武力を蓄えている。その二国が配備した兵が全滅するなんて、歴史的な大敗北と言えるだろう。


「まあ、あんな化け物に襲われたら、ひとたまりもないよな」

「ただ……幸い、と言っていいのかよくわかりませんが、イースタン側に敵を倒したあとの陣地を維持するだけの兵力がなかったようで、両国とも国境線の位置はさほど変わっていないそうです」

「見境なく三国同時に喧嘩売るから……」


 ひとつの国が相手どれる敵の数には限りがある。サウスティ一国だけならともかく、ノーザンランドもオーシャンティアも、と攻めた結果、戦線が維持できなかったようだ。

 元婚約者のあまりに浅慮な作戦に頭が痛くなってくる。

 アギト国の姫エメルの洗脳を差し引いても、頭が悪すぎやしないだろうか。

 私、そんな人と結婚しようとしてたの?


「とはいえ、多くの騎士が命を落としたのは確かです。オーシャンティア中央部は大混乱で、情報が錯そうしてしまっているようです。ルカ王子の件でサウスティから何度か書簡を送っていますが、正式な返答はまだ届いていないとのことです」

「迎えが来るのは、だいぶ先だな」


 やっとサウスティまでたどりついたのに、戦争の混乱で母国との連絡がつかないないとは、彼の人生の苦難はまだ続きそうだ。


「混乱中のオーシャンティアに、無理に帰っても危険だし、しっかり連絡がとれるまではうちの城でゆっくりしていって。衣食住は保障するわ」

「助かる」

「ただ部屋にいるだけっていうのも暇でしょ。図書室に入れるよう、手配しておこうか? なんなら、家庭教師をつけることもできるけど」


 ルカはまだ十歳。

 本来なら、王族としてさまざまな教養を叩き込まれている時期だ。

 人質事件からの逃亡劇のせいで、もう何週間も勉強とは縁遠い生活をさせてしまっている。

 身柄を預かる大人としては、学ぶ機会を失わせたくない。

 しかしルカは口をへの字に曲げる。


「図書室はともかく、家庭教師は勘弁。どーせ身分の低い王子はいらねえって、適当なタイミングで王家から出されるだろうに、宮廷マナーだ帝王学だって学ばされるのは面倒」

「だったらなおさら、地道な勉強が必要じゃない? 経営とか商売関係の先生もいるわよ」

「あんたの国は、どんだけ人材の層が厚いんだよ」


 ルカが頭を抱えた時だった。

 こんこん、とドアがノックされる。返事をすると、入ってきたのはジルベール兄様だった。


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