転生王女の家族
「お父様、お母様!」
私の名前を呼びながら駆け寄ってきたのは、どちらも高貴な衣装を身に纏った壮年の男女だった。前国王とその王妃、今生における私の両親だ。
私が前に出ると、お母様がぎゅっと私を抱きしめた。お母様ごと抱くようにして、お父様も私の体に手を回す。
「ああ……本当にコレットだ。よかった……」
「イースタンの人質に取られたと聞いて、どれだけ心配したことか!」
感極まったお母様は、ぼろぼろと涙を流している。お父様の目も、少し潤んで赤くなっていた。
待って。
そんな顔見せられたら、私も泣きそうになっちゃう。
涙がこぼれそうになるのを我慢しながら、私は必死に声を出した。
「ただいま帰りました、お父様、お母様」
「うんうん……よかった。本当によかった」
「こんなにやつれて、髪まで短くなって。かわいそうに……」
「大丈夫ですよ、お母様。旅は大変でしたけど、結構元気ですから」
にこ、と笑って見せるとお母様はさらに涙をこぼす。
「はうぅぅ……お母様の前でまで……強がらなくていいのよぉ……?」
「そういうつもりはないんですが……」
そういえば、こちらのお母様は感情の起伏が激しい人たったんだった。
どうしたらいいんだろう。
つらかったと言っても、大丈夫って言っても、結局泣かれてしまいそうなんだけど。
「母上、そのくらいにしてあげてください。コレットが困っていますよ」
新たな人物が、私たちに声をかけた。
顔をあげると金髪碧眼の美丈夫が悠然と歩いてくる。立派な騎士服を着た青年の歳のころは、だいたい三十くらい。
私たち兄弟の一番上の兄、長男であり現サウスティ国王のレイナルド兄様だ。
「お兄様、ただいま帰りました」
「よく戻った。元気そうな顔が見れて、安心したよ」
レイナルド兄様も、私の姿を見てほっとした顔になる。
「私の心配はないんですか?」
ジルベール兄様がおどけた調子で会話に入る。レイナルド兄様は苦笑した。
「お前にはダリウス卿がついていただろう。女神の助力もあったというし、心配する理由がない」
「ひどいなあ」
そう言いつつも、ジル兄様に傷ついた様子はない。
こういう皮肉まじりのやりとりは、いつものことだからだ。
兄たちのいつも通りの姿に、私もほっと安心する。
両親に、ふたりの兄、そして私。
半年ぶりに家族全員、勢ぞろいだ。
……いや。
「レイ兄様、お義姉様はどうされました?」
ひとり、家族と呼べる人物が足りないことに気づいて私は首をかしげた。
私が家を出るさらに半年前。今からちょうど一年前に長男のレイナルド兄様は王位継承にあわせて、結婚していた。お相手は古くからサウスティ王家に仕えているシルル伯爵家のサラ嬢だ。お兄様とは子供のころからの幼馴染でもある。
レイ兄様の妻として、サラお義姉様もこういう場にはよく顔を出していたはずなのに。
「そうだな……その件も含めて、お前には少し説明をしたほうがよさそうだ。疲れているところ悪いが、奥で少し話をしよう」
「わかりました。えっと……」
私は後ろを振り返る。
そこには、家族の対面を邪魔しないよう、一歩離れて見守っていた従者たちがいる。
「もちろん、彼らも一緒だ」
レイナルド兄様は、鷹揚にほほ笑んだ。
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