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【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!  作者: タカば
転生王女はおうちに帰りたい

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大型特殊車両

「まさか、異世界に来てまで車を運転することになるとは……」


 翌日、王城に帰ることになった私はディーが作り出したロボットメンテナンス車両の運転席を見上げていた。私の手には金属とプラスチックでできた小さな機械がある。これを持って、ドアの開錠ボタンを押せばロックが解除されるそうだ。現代日本でよく見かけた車両用のキーとまったく同じ仕組みだ。遠隔操作用のボタンまで、そっくりである。

 車両とキーだけが、中世っぽいファンタジー世界の背景から切り抜いたように浮いていた。


「コレット様、いかがですか?」


 そういえば、ファンタジー世界から浮いた存在がもうひとつあったっけ。

 巨大な白銀のロボットが、がしょん、と音を立ててこちらに歩いてきた、これはこれで、現代日本とはまた別の意味で風景から浮いていた。

 デザインセンスは統一していただきたい。

 見上げていると、ロボットはその場に膝をついて、お腹の装甲を開いた。操縦席から、トントン、と身軽に子ユキヒョウが降りてくる。

 人間用に作られた操縦席の中で、子ユキヒョウがどうやってロボットを操っているかは謎である。


「運転席は、一般的な長距離輸送トラックをベースにデザインしています。乗り心地は悪くないはずですよ」

「ディーがそう言うなら、デザイン自体はいいんだろうけどね。……とにかく乗ってみるしかないか」


 私はキーを握りしめながら、車両のドアを見上げた。ドアが大きい。というか、背が高い。

 ちょっと開けづらいな、と思っていたら後ろからにゅっと大きな手が伸びてきた。見上げると、オスカーがトラックのドアノブに手をかけている。


「ここを、引っ張ればいいのか?」

「うん、お願い」


 大柄なオスカーにドアを開けてもらうと、次に階段状のステップが出現した。座席は私の視線より高い位置にある。このステップを登って着席しろってことらしい。


「よっ……」


 私はステップの脇に取り付けられた手すりにつかまりながら、座席に体を引き上げる。

 オスカーはドアを開けたあとも、運転席に登る私の後ろに寄り添うように立ってくれていた。私が万が一、足を滑らした時に支えるためだろう。正直言うと、座席が思ったより高くて怖かったので、後ろにいてくれるのは助かる。


「ふうっ」


 どうにか座席に座って辺りを見る。フロントガラスは思ったより大きく、視界は広かった。サイドには液晶モニターもついている。運転席をあちこち見ていたら、子ユキヒョウがトトッとステップを登ってきた。ちょこんと助手席にお座りする。


「簡単にご説明しますね。こちらの車両は運転補助機能つきのAT車です。車体には各種対物センサーが搭載されており、衝突防止制御機能が働きます。車体の前後左右にカメラもついているので、こちらのモニターから周囲の状況を確認することができます」

「まるっきり、現代日本の車両と同じなのね」

「現代の車両をそのまま再現したので、ラジオとカーナビもありますが、コンテンツが存在しません」

「データがないんじゃ、しょうがないね」


 こんな世界じゃ、短波を発信してる施設なんてないし。


「とはいえ、スピーカーは完全な無駄機能ではありません」


 ディーはパネルのボタンのひとつを、たしっと押した。

 ざざ……とかすかなノイズ音が流れ始める。


「ロボットとの通信機能です。スピーカーを介して、お互いに会話することができます。ロボットのステータスを簡易的にモニターすることもできますよ」

「ディーと会話がつながってるのは安心できるわね」


 そこで、私は見慣れた操作パネルを見つけた。


「これって温度表示よね? エアコンもついてるの?」

「もちろん。運転席は自動で快適な温度に保たれます」


 ユキヒョウはふふん、とヒゲをそよがせた。


「高級シートクッションに、自動制御サスペンション搭載。乗車のストレスは限りなく軽減されるよう、設計されています。前時代的な馬車に乗るより、よっぽど快適だと思いますよ」

「そこは魅力ね」


 私はフロントガラスから、騎士たちの隊列を見た。そこには大きな馬車が何台も並んでいる。

 この世界の貴人の移動方法といったら、馬に直接乗るか、馬車に乗るかの二択だ。

 馬は乗りこなすのに一定の技術がいるし、周囲から身を守る壁がない。

 馬車は乗ってるだけで移動できるけど、その造りはまだまだ未発達。どんな高級馬車でもひっきりなしにゴトゴト揺れてしまう。

 半日以上かけた長距離移動は、どの手段を選んでもめちゃくちゃ重労働なのである。

 乗用車のタイヤとサスペンションのクッションほど、ありがたいものはないだろう。


「この巨大なハンドルさえなければ、喜んでるところなんだけど」


 私は視線を手元にうつす。

 そこには、普通乗用車の1.5倍はありそうな大きなハンドルがあった。その存在感が、否応なくこの車両の大きさを突き付けてくる。


「絶対、大型免許が必要なサイズでしょ、この車。普通自動車免許しか持ってない私が運転していいのかなあ」

「異世界まで来て、道路交通法を気にしてもしょうがないでしょう。星全体が私有地みたいなものですから、諦めてください」


 たし、とディーの前脚がモニターを叩く。


「考えうる限りの運転補助機能を搭載しました。緊急時には、ロボット経由で私も操作できますから、まずは運転をお願いします」

「そこまでやるなら、私の運転いらなくない……?」


 ほぼ自動で運転できる車両なら、運転者はいらなさそうなものだけど。

 そう言うと、子ユキヒョウは妙に人間くさいしぐさでため息をついた。


「残念ながら、これらの運転補助機能は舗装された道路を想定したものでしかないのですよ。この世界のむき出しの土の道や、石畳はまともな道として認識されないので、効果が半減してしまうのです」

「どこを通ってるかわかってなかったら、補助のしようがないね」

「というわけで、最低限人間の運転者が手綱を握らなくてはならないのです。あなたに労働を押し付けるのは心苦しいのですが、どうぞご容赦を」

「……わかった」


 駄々をこねてもしょうがない。

 私はうなずいた。

 主第一主義のディーが、ここまで言うってことは、本当に代替案がないんだろう。ファンタジー世界の揺れる馬車から、乗り心地最高の乗用車に乗り換えられると思えば、これくらいの苦労、支払ってもおつりがくる。


「ここがギアで、ここがアクセルとブレーキ、ウィンカーがこっちでライトがこっちで……うん、なんとかなる、かな?」


 シートとミラーの位置をあわせて、シートベルトを締める。

 幸い、この世界には乗用車なんてものは一台しかない。渋滞に巻き込まれたり、マナーの悪いドライバーに煽り運転をされることもないから、事故が起きる可能性は低いだろう。


「運転を始めるわ。オスカー、ドアを閉めて!」

「ん……」


 オスカーがドアに手をかけた時だった。


「待って、俺も乗せて!」


 明るい声が割り込んでくる。

 車に向かって走ってくるのは、指揮官のはずのジルベール兄様だった。


読んでくださってありがとうございます!

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