城塞劇的ビフォーアフター
サウスティ騎士団と合流し、ジル兄様との再会をはたしてから一週間後。
前線基地の対ワイバーン防衛ラインが完成した。
「うわあ……」
生まれ変わった城塞を見上げると同時に、思わず声がもれる。
かつてこの砦は、とても素朴な造りをしていました。
低い城壁に、少ない窓。
騎士たちに与えられた武器はシンプルな弓だけ。
これでは、とてもワイバーンの攻撃を防ぐことはできません。
しかしなんということでしょう!
ユキヒョウの匠の手によって、砦は生まれ変わりました!
城壁の高さは元の二倍。
要所要所に、大きな杭を打ち出すバリスタが配置されています。
おや? 城壁の奥には、投石器も配備されていますね。
さらに、城壁の中には騎士が素早く行き来できる通路が作られているではありませんか。
それだけではありません!
城壁の三階部分には縦に長い窓がいくつも並んでいます。これは、あかり取りのためではありません。ボウガン射手が身を守りながらワイバーンを狙い撃つための窓なのです。
射手の座る席のそばには、すばやく矢を取り出すための収納もしっかり取り付けられています。
これでいつワイバーンが襲ってきても安心ですね。
騎士たちの手で、砦が守られることでしょう!
「騎士がワイバーンを迎撃できる体制を整えて、とは言ったけどさ」
「はい」
「あきらかにやりすぎだよね?」
「いえいえ。これは必要なことですよ。どんなに優れた武器も使用者の使いやすい配置になければ宝の持ち腐れですから」
「だからって、手を入れすぎでしょう! 砦が構造から変わっちゃってんじゃない」
姫君として、実家の王城や、そのほかの砦や城塞を見たことはある。しかし、目の前の砦は明らかにモノが違った。
あまりに洗練され、あまりに堅牢。
軽く数百年は技術革新が進んだシロモノである。
私は、作戦会議室から久しぶりに戻ってきた子ユキヒョウを睨む。
「たった一週間で何やってんの」
「相手は伝説の空飛ぶドラゴンです。少々過剰なくらいがちょうどいいのですよ」
「……途中で楽しくなってきちゃったんじゃないの?」
「私が戦争の準備を楽しむ? ありえません」
そう言いつつも、ディーはふっと私から目をそらす。
知ってるんだからな?
作戦会議室で目を輝かせながらノリノリで設計図広げてたの。
誰も反論できないのをいいことに、好き勝手改造するのが、楽しくないわけがない。
「コレ、絶対に後の歴史でオーパーツ扱いされるやつだ……」
「この程度、神の遣いが設計したと言えば、歴史家も納得するでしょう」
「砦をきっかけに、世界全体の技術が急に進歩しちゃったらどう責任をとるつもりよ」
「精密機器は模倣不可能ですし、それ以外については、真似したところでいきなり大量破壊兵器が作られるようなものは使ってませんよ」
「……本当かなあ」
私は子ユキヒョウから視線を移す。
そこでは、ルカとオスカーが、作り替えられた砦を興味深そうに見ていた。
「へえー、あっちの窓わざとへこませてあるのな」
「矢を放つ範囲を確保しながら、身を守る工夫だな。よくできてる」
早速技術を吸収し始めてる若者がいるのはどうするつもりだ。
現時点で十分やばい気がするのは、私だけだろうか。
「誰がなんと言おうと、国境を守る騎士にはワイバーンを殺せる武力を持たせます。兵が弱いままでは、私たちが戦場を離れられませんから」
断言してから、従者はかわいいお目目をこちらに向けてきた。
「……コレット様は王城に帰りたくないのですか?」
「う」
それでこの発言はズルくない?
帰りたいか帰りたくないかって聞かれたら、もちろん帰りたいよ!
「だったらいいじゃありませんか」
ぽんぽん、とふわふわ肉球で足を叩かれたら、それ以上反論が出てこなかった。
「……そういうことにしておく」
うちの従者、ズルいが過ぎないか。
私がチョロすぎるだけかもだけど。
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