王女の采配
余裕がない、を「だから切り捨てよう」と解釈されてしまったらしい。
「私が言った『余裕』は別の意味よ」
「うん……?」
状況がよくわからないのか、獣人ふたりは首をかしげている。
「私はサウスティの姫なの。地位が高いぶん、部下にもそれ相応の立ち振る舞いが要求されちゃうのよ」
「特に従者は主の一部とみなされることが多いですからね」
雇用の自由度が高い分、責任も重大なのだ。
サウスティ王宮に彼らを連れていくなら、最低限まともな服を着せて、礼儀作法を叩き込まなくてはならない。侍女ひとりおらず、自分の身の回りのことさえままならないのに、さらに2人も人間を抱えて養うのは無理だ。
「不要には変わらないじゃないか。やっぱり……!」
「だからどうしてそこで『殺される』って結論になるの。所有する余裕はないけど即、息の根を止めなきゃいけないほど切羽詰まってないわ」
なぜそこまで恐れられなくてはならないのか。
絶対原因はエメルだよね!?
あの子、戦闘奴隷をどう扱ってたの。
「で、結局どうするつもりなんだ?」
ルカがにやにや笑いながらたずねてくる。
君は君で、他人事だと思っておもしろがってるな?
「とりあえず、殺すはナシ。生かす方向で考えましょ」
「だが、お前の従者とするのは反対だ」
オスカーが低い声で断言した。
それは私もわかってる。
私はふたりの獣人、特に黒い毛並みの獣人の顔を覗き込んだ。
「ええと……あなたたち、私に従うって言ってるけど、本当にそうしたい?」
「……?」
言っている意味がわからなかったらしい。獣人はこちらを見つめ返してきた。
「ディーの話だと、あなたたちはアギト国に捕まって奴隷にされたのよね。もともと誰かの所有物になりたかったわけじゃ、ないんじゃない?」
「そう……だが」
「今ここで縄を解かれて、好きにしていいって言われたら、どこに行きたい?」
「……うぅ」
灰色の毛並みの獣人が、もうひとりの腕をぎゅっと握りしめた。
黒い毛並みの獣人が、ごくりと生唾を飲み込む。
彼は唇を震わせ、おそるおそる、願いを言葉にした。
「白き嶺に……集落に、帰りたい……」
「帰るところがあるのね。だったら、そうしましょう」
「え……!」
私はサイラスを振り返った。
「いろいろ手配してもらった後で申し訳ないんだけど、ふたりぶんの食糧と路銀を都合してあげられないかしら」
「白き嶺がどちらかわかりませんが、まあ、可能な範囲でしょう」
獣人たちは、こちらを食い入るように見つめている。
「いいのか……?」
「殺せない、連れてもいけない、なら故郷に帰してあげるのが一番でしょ。女神の力で服従の呪いを解いてるから、アギト側に戻るって可能性は低いと思うし」
こく、とオスカーがうなずく。
護衛はその案に賛成ってことらしい。
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