助けた責任
「この者たちの処遇を決めていただきたいのです」
サイラスが声をかけると、さらにふたりの人物がテントに入ってきた。大人五人に子供が一人。テントの中はぎゅうぎゅうである。
しかし、この件を目立つ屋外でするわけにもいかない。
だってサイラスが連れて来た彼らには、頭にふかふかのネコミミが生えていたのだから。当然、おしりからはやっぱりふかふかのしっぽがのぞいている。
とても一般兵に見せられるような姿じゃなかった。
私は思わず額に手を当ててしまう。
「完全に忘れてた……!」
そういえば、国境に向かう馬車にはロープで拘束された彼らも乗っていたんだった。空飛ぶドラゴンとか、巨大ロボットとか、ジルベール兄様とかボウガンとかバリスタとかいろいろありすぎて、彼らのことが頭からすっぽ抜けていた。
「なんかこざっぱりしてんのな?」
獣人ふたりを見て、ルカが首をかしげる。サイラスは重々しくうなずいた。
「あんなボロボロの獣人たちを、姫君のテントにお連れするわけにはいかなかったので。兵に話をつけて、湯あみと着替えをさせてからお連れしました」
「ありがとう、サイラスの心遣いうれしく思うわ」
「は、ありがたき幸せ」
感謝の言葉はほぼ本音だ。老騎士の機転には頭があがらない。
「一応逃亡防止用に手を拘束しておりますが、態度は従順。私の言葉におとなしく従っています」
灰と黒、ふたりの獣人はちょこんとテントの端に座り込む。
身ぎれいにしたせいだろうか。彼らからは、襲ってきた時のような鬼気迫る空気を感じない。ただの無口な青年たちだ。
「彼らを今後どう扱っていくべきか、コレット姫様に決めていただきたいのです」
「どうして私、って聞くまでもないか」
ルカがぷはっと笑い出す。
「こいつらの命を助けようって言ったの、コレットだもんな」
彼らはもともと、アギト国の姫エメルが差し向けてきた暗殺者だ。
ディーから彼らが「ネームドキャラ」だと教えられ、味方になる可能性があるからと、服従の呪いを解いて連れていくよう指示したのは、他の誰でもない、私である。
ならば、今後の扱いを決めるのも私だ。
あの時はとにかく生き延びることしか考えてなかったから、その後どうするかなんて考えてなかったよ。さあどうしよう。
意見をもらおうにも、有能従者は兄たちと会議中である。
代わりに老騎士が現状を説明してくれた。
「彼らの現在の立場は、姫様預かりの捕虜、というところですね」
「敵国の戦闘員だと考えると、捕虜が妥当かあ」
ぴく、と灰色の毛並みの獣人が顔をあげた。
「うぅ……」
こちらに向けて、小さく声をあげる。
「何?」
意図をくみ取ろうと、その顔を見る。隣に座っていた黒の毛並みの獣人が口を開いた。
「お前は魔女の呪いを解いて俺たちを捕らえた。だから、俺たちの所有者はお前だ」
「いや所有って。奴隷じゃないんだから」
「コレット、そいつらはアギト国の戦闘奴隷だぞ」
オスカーに冷静なつっこみをいれられる。
「あっちには奴隷制度があったんだっけね? だからって、うちの国でまで奴隷扱いはできないでしょ。こっちじゃ奴隷制度は禁止されてるんだから」
奴隷禁止国で王女が奴隷を所有していたら大問題である。サイラスが獣人ふたりをみつめる。
「現地採用の従者とでもしておきますか?」
「ディーと同じ枠ね。でもなあ……」
これでも一国の姫だ。従者の2人や3人抱えていてもおかしくない。だが、それは人材が豊富な王都での話だ。
「今ここで、従者をふたりも増やす余裕はないかなあ」
びくっ、と黒い毛並みの獣人が顔をこわばらせた。灰色の毛並みの獣人をかばうようにして腰を浮かせる。
「殺さないでくれ。食事は草の根でもいい、寝床も必要ない。だから切り捨てるのだけは」
「そんなことしないわよ!」
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