テント生活は続く
「コレット、いるか?」
「はーい」
テントに声をかけられて、私は返事をした。すぐに入り口があいて、燃えるような赤毛の少年が顔をのぞかせる。
「一緒に夕メシ食ってろって言われたんだけど」
「聞いてるよ。入って入って!」
私が座る場所をあけると、ルカは遠慮なくテントに入ってきた。
「服、着替えたんだね」
「さすがに王子を女装のままにしてられないってな。少年兵の予備を回してもらった」
ルカは、イーリスにもらったスカート姿から、シャツとズボンに着替えていた。赤毛をまとめ、少年らしい格好をしている彼は、さすがにもう少女には見えない。
「着替えたのは、あんたもか」
少年はテントの奥に控えていたオスカーに目をやった。商人の護衛を装うために粗末な服を着ていた彼も、今は姫君の近衛として立派な騎士の上着を着ている。
「装備もいくらか都合してもらった。ナイフと小ぶりな剣じゃ心もとないからな」
「兵士の一般装備ってそんなもんじゃね? 他に何が必要っていうんだよ」
「オスカーの場合はコレね」
私の言葉に応じるようにして、オスカーはすぐ傍に置いてあった剣を持ち上げてみせた。ルカが目を丸くする。
「でっ……か」
彼がそう言ってしまうのも無理はない。
オスカーが持っていたのは、長さ1.5メートルはあろうかという長剣だったからだ。十字の束がついた両手剣は、一般にクレイモアと呼ばれている。
「こんなバカでかいの、振り回せんの?」
王子の失礼な質問に、オスカーは苦笑する。
「その分、破壊力が得られる。遠心力を利用すれば、そう使いにくいものでもないぞ」
「いやにしたって……コレでどうやって盾とか持つんだよ」
「盾は、小手につけるバックル程度だな」
「あーなるほど、攻撃力に全振りなのな」
「防御など、斬られる前になぎ倒してしまえば問題ない」
男ふたりの会話に、私は眉をひそめる。
「オスカーは昔っからそうなのよ。大人相手でもかまわず突っ込んでいって、大きな剣を振り回して。それで何度怪我をしたことか」
サウスティの王城にいたころは、毎日のようにオスカーの手当をしていた。自室にオスカー専用の薬箱が常備してあったくらいである。
心配するこっちの身にもなってほしい。
「あとに引きずるような怪我はしていないだろう。致命傷も負ってない」
「致命傷だったら大問題よ! あんな危ない戦い方……」
「それで、俺は負けたか?」
「……勝っちゃうから、余計タチが悪いんじゃない」
それでこのドヤ顔である。
雪那といいオスカーといい。
なぜ私の弟たちはことごとく人の話を聞かないのだろうか。
「弱いとは思ってなかったけど、そんな強いのか?」
「身内のひいき目ぬきで、サウスティ騎士団で十指に入る実力者よ。私と同い年の十七歳だけど、王城に戻れば十人隊の隊長だし」
「その歳で自分の部隊持ってんのか、すげえな」
サウスティ騎士団は実力社会だ。
たとえ騎士団長の息子だったとしても、相応の実力がなければ部下たちはついてこない。十代の若さで兵を率いることができるのは、オスカー自身が抜きんでて強いからだ。
「なるほどなー。あのディーがコレットの護衛をまかせるわけだ」
「別に、あいつに認められる必要はないと思うが」
オスカーはむっと口をへの字に曲げる。
うすうす気が付いてたけど、さては君たち相性悪いな? どっちも大事な弟と側近だから、仲良くしてもらいたいんだけど。
ちなみに当事者のひとり、ディーはこの場にいない。
新兵器の製造と配備計画を詰めるために、ジルベール兄様とダリウス卿と会議を続けているのだ。
時々虹瑪瑙のペンダントが明るくなったり暗くなったりしているので、何かしているらしいことはわかるが、詳しいことはわからない。
兵器のことを相談されても答えられないから、それはそれでいいんだけど。
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