GPS
「結構遠くまで来たね~」
山道を歩きながら、私は大きく伸びをした。
「結局、隊商ルートの終点まで乗せてってもらえたからな」
隣を歩くルカも、のんびりとあくびする。そこに今まで装っていた少女っぽさはない。
ここには私とディー以外の同行者がいないからだ。
「馬車が利用できたおかげで、思ったより早く移動できました。その先の峠を越えたらもうサウスティとイースタンの国境ですよ」
「やった!」
私とルカは笑顔でハイタッチしあう。
一時はどうなることかと思った逃亡劇だけど、なんとかゴールにたどりつけそうだ。
「この道を左です」
初めて通る場所のはずなのに、ディーは迷いなく道を選ぶ。私たちは、素直にその後に従った。
「移動が順調なのは、ディーのおかげもあるよな。大陸の地図が全部頭に入ってるんだろ?」
「ゲームの舞台となる土地は、すべてスキャン済みですから!」
ルカには聞こえてないとわかっていて、運命の女神がドヤ顔で胸をそらす。
それを見てディーが肩をすくめた。
「地図自体は正確ですが、あまり過信はしないでください。この世界には地図と現在位置を結び付けるシステムが存在しませんから」
「どういうこと?」
急によくわからない話を始めたディーに、私とルカ、さらに女神も一緒になって首をかしげる。ゲームのナビ機能って、現在地表示とセットだよね?
「あなたがスマホの地図アプリを使っていた時は、かならず現在位置がポイントされていたと思います。しかし、この世界の私の手元には地図情報はあっても位置情報はありません。山の位置や移動距離から、今現在自分が地図上のどこにいるのか推測している状態なのです」
「GPSとかないんだ」
「あれは、複数の人工衛星が発する信号を受けて、現在位置を計算するシステムですからね。この世界のどこにそんなものがあるんですか」
「ソウデスネー」
言われてみれば当然の話だった。
天動説どころか、地球は平らな板状だとか言ってそうなファンタジー世界である。
こんなところで宇宙開発なんかしているわけがない。
いくら万能執事キャラでも、今のディーには地図と現在の風景を照らし合わせることでしか、現在位置を推測できないのだ。いやそれだって十分すごいんだけど。
「またよくわかんねえ言葉で会話してんなあ。で、結局何に気を付ければいいんだよ」
「私は地図は持っていても、土地勘自体はありません。森の中で一度自分の位置を見失ったら、道がわからなくなります」
「迷子に注意ってことでいいか?」
「そんなところですね」
「こんな人気のない山道で、はぐれるも何もない気がするけどねえ」
「……そうでもないようですよ」
不意に女神の声が低くなった。
異常事態を察して、私とディーが身構える。それを見て、ルカも体をこわばらせた。
「やっと、見つけた」
私たちの誰とも違う声が山道に響いた。
警戒する私たちの前に、茂みの中から少女がひとり姿を現す。
黒髪に黒い瞳。
きめの細かい象牙の肌。
見覚えがあるどころじゃない。彼女の姿は目に焼き付いて忘れようがなかった。
アギトの姫、エメルだ。
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