若夫婦と姉妹
「ウチの馬車に乗せてってほしい……それはいいんだけどよ。あんたらどういう関係?」
私たちを見た隊商のリーダーは、開口一番そうたずねてきた。
「えっ」
どう答えたらいいかわからず、一瞬言葉を失う。
ディーが見つけてきた隊商はイースタンの都と西の農村部を結ぶ商人の隊列だ。荷馬車に農村でとれた作物を満載して都に入り、それらを売りさばいたお金で布地や小物などを仕入れてまた農村に戻る。
かさばる農作物を降ろした帰り道は馬車の荷台があくので、お金を払えば都市の人間も乗せていってくれるって聞いたんだけど。
まさかここで、客の素性を気にされるとは思ってなかった。
「ええと……」
私は仲間の顔ぶれをちらりと見る。
ルカはいい。もともと髪の色をそろえて、姉妹を装ってたんだから。
女神のことも考えなくていい。どうせ私とディー以外には見えてない。
しかし、ディーのことはどう説明したらいいのやら。
銀の髪にアイスブルーの瞳のクールビューティーには、赤毛姉妹との共通項がない。家族と紹介するには無理がある。
護衛? 従者?
やや身なりがいいとはいえ、女子ふたりが大の男を従えるのも不自然だ。
若い姉妹に細マッチョイケメンがついて回ることの、妥当な理由って何ですか?!
「もしかしてワケありか? 面倒ごとに巻き込まれるのは……」
リーダーが訝しむそぶりを見せた瞬間だった。
ルカが私の手を握って叫ぶ。
「お兄ちゃんはね、お姉ちゃんの旦那様なの!」
なんですと?!
お姉ちゃんは、私のことだよね?
お兄ちゃんはきっとディーのことだ。
お兄ちゃんがお姉ちゃんの旦那になるということは、ディーが私の旦那になるということで。
旦那?!
旦那って何?
まさか夫婦的なアレ?!
混乱する私の横で、ルカはしょぼん、とわざとらしく顔を伏せる。
「もともと、お姉ちゃんだけがお兄ちゃんのところにお嫁に行く予定だったの……でも、結婚式の準備をしている間に、お父さんもお母さんも、流行り病で死んじゃって、私はひとりぼっちになっちゃったの」
きゅっ、とルカは私の手を握りしめる。
「そしたらね、お兄ちゃんが私もふたりと一緒に暮らせばいいって言ってくれたんだ!」
ルカの説明を聞いたリーダーは、うんうんとうなずいた。
「ああ、あんたらふたりは夫婦だったのか。嫁さんひとり迎えるだけでも大変だろうに。妹まで一緒とは、思い切ったね」
リーダーに視線を向けられたディーは、そっと私の肩を抱いた。
「妻の家族をひとりにするわけには、いきませんから」
「優しい旦那さんじゃないか。奥さん、いい男を捕まえたね」
「……は、はい」
さっきとは別の意味で何と言っていいかわからなくなった私は、ただただ首を縦に振る。
なんなの、この茶番劇は!
私とディーが夫婦とか、どんな顔したらいいんだよ!
ディーに抱き寄せられた肩が熱い。
というか全身熱い。
鏡がないから直接確認できないけど、私の顔は真っ赤に違いない。
「ありゃ、照れちゃった。初々しいねえ」
からからとリーダーは笑う。
不信感はなくなったみたいだけど、新たな誤解がいたたまれない。
「妻は恥ずかしがり屋なんです。あまり、からかわないであげてください」
ディーはディーで、柔らかな口調で変なフォローしてるし。
穴があったら入りたい。
いっそ殺せ。
「せっかくだ、若夫婦のためにいい席を用意してやるよ」
「ありがとうございます」
ディーはなおも私の肩を抱いたまま、リーダーの案内について歩く。当然私も一緒だ。
ルカはにこにこ顔で、少しあとからついてくる。
ちらっと女神を見たら、なぜかドヤ顔でこちらにサムズアップしてきた。
若夫婦とその妹。
確かに一番自然な組み合わせだけど!
好みドストライクに顔がいいクールビューティー系イケメン従者と夫婦のふりをしろとか。
それはどんな拷問だよ!
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