マジックアイテム
「へえ……本当に色が変わるんだな」
ルカが感嘆の声をあげた。
私も思わず声を出してしまいそうになる。
それくらい、劇的な変化だった。
「最初はほぼ真っ黒だったのに……今は青くなってる……」
虹色だった瑪瑙は、明るい青へと色を変えていた。色が明るく金に近づくほどに力が強くなるらしい。イーリスからもらったペンダントを、女神の力の残量メーターにする、という奇跡は思った通りに機能していた。
「人質と犯罪者の一斉解放ですからね。火事を起こすついでに、城に備蓄されていた武器や軍糧もあらかた焼いてしまいましたので、戦争の準備自体がかなり阻害されているはずです」
「それで、この色なんだ」
うちの従者、やり口がやばい。
見ているうちに、またペンダントの色が一段明るくなる。色味もちょっと緑がかってきた。
「あれ? 今度は何が起きたんだろう」
「人質の誰かが、城からの脱出に成功したのでしょう。私たちが直接やったことだけでなく、連鎖的に起きた事象も女神の力に加算されます」
「すご……上のパニックを潜り抜けて、脱出した人がいるんだ」
「コレット様は真似してはいけませんよ。混乱の中では何が起きるかわからないのですから」
他の人間なら、巻き込まれて怪我してもいいんだろうか。
……ディーなら『構いません』とか言いそうだな。
「せっかく逃げられるってのに、変な怪我とかしたくねえもんな。その点、この通路は安全だ」
狭い通路を見回しながら、ルカが笑う。
「なにしろ、イースタンの王族しか知らねえんだから」
「まさかアクセルたちも、自分たちのために造られた脱出路を、人質が使ってるとは思わないでしょうね……」
私たちが今歩いている道は、万が一城が陥落した時に王族が逃げるための地下通路。いわゆる隠し通路というやつである。
女神の使徒として、この城の全マップを完全に把握しているディーだからこそ使える、チート脱出ルートである。
この道はイースタン王族と、彼らを守る近衛だけが知る秘密の中の秘密。本来、他国から来たばかりの姫が知っているわけがない。
アクセルにはここを探そうなんて考えすら、浮かばないんじゃないかな。
「もうすぐ出口ですよ」
先頭を行くディーが、顔だけで振り向いた。
暗い通路の先を見ると、突き当りに光が少しだけ差し込んでいるのが見える。今は夜のはずだから、出口のどこからか、月光が差し込んでいるんだろう。
近くまでいくと、壁に梯子が取り付けられているのがわかる。
「ここを登れってことらしいな」
ルカが梯子の上を見上げる。
外から人が入り込まないようにするためだろう。梯子の終点は鉄格子がふさいでいた。でも、私たちにとって鍵は障害にならない。
首に下げた虹瑪瑙のペンダントの色が、ほんの少し暗くなると同時に、パキン、と扉が音をたてた。見ているうちに、勝手に開く。
「あたりに人がいないか、見てきます。お二方はそちらでお待ちください」
子猫の姿なのに、ディーは器用にひょいひょいと壁を登っていった。じっと待っていると、すぐにまた、ひょこっと顔を出す。
「誰もいません。上がってきてください」
私たちはうなずきあうと、梯子を上った。地下通路から出て回りを見回す。
すぐそばに、ぼろぼろの物置小屋が。少し離れたところに古びた大きな石造りの建物がある。裏手から見ているからわかりにくいけど、石造りの建物はどうやら古い神殿のようだった。
振り返った地下通路は、入り口が大きな石で囲われていた。使われなくなった古井戸に偽装していたみたいだ。
「なあ、あれ」
不意にルカが私の袖をひっぱった。
つられるようにそちらを見ると、とんでもない光景が目に飛び込んでくきた。





