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抜け道

「なんか……上はすごい騒ぎだね……」


 コツ、コツ、と暗い地下通路を歩きながら、私は思わずつぶやいた。

 石壁越しに、わあわあと人々が叫びあう声が、かすかに伝わってくる。分厚い壁を通してこれなのだ、実際の現場は大変なことになってるだろう。


「火は城塞の最大の敵だからなあ。それがあちこちから出たってなれば、パニックにもなるだろ」


 一緒に歩いているルカがため息交じりにそう言う。


「混乱は大きければ大きいほど、カモフラージュになります。コレット様、先を急ぎましょう」


 ディーが太いしっぽを揺らしながら先導する。

 暗い中でも目立つ、白いユキヒョウの姿を私たちは追った。

 城を脱出する際にディーが提案したのは、『人質も犯罪者も全員解放しちゃおう作戦』だった。

 アクセルに閉じ込められている人間を全員解放し、一斉に逃げさせることで、追手が私ひとりに集中しないよう仕向けたのだ。


「人質がただ逃げただけじゃ、騒ぎが小さすぎるからって火事まで起こすとか……女神の奇跡の力って、大したことなかったんじゃないの?」

「何度も申し上げておりますが、私は大したことはしてませんよ。城内の鍵という鍵を開け、ちょうど同じ時間帯に大きな火になるよう、火種をばらまいて回っただけで」


 いやそれ十分大したことだから。


「今の私は、白い子猫にしか見えません。どこにでも入り込みやすいのは、うれしい誤算でした」

「遠い場所のオブジェクトに干渉するには、距離に比例した力が消費されますからねえ。力を行使するディー自身が城中を回れば、その分節約になるんですね」


 女神が声だけで会話に参加する。どうも、この狭い通路で姿を現すと邪魔になると思って姿だけ消しているらしい。

 気遣いはうれしいけど、いきなり壁の中から声がするのは、これはこれで落ち着かない。


「それでも、最初の爆発はどうやったの? 城の倉庫に火薬でもあった?」

「火薬なんて使ってません」

「明らかに爆発音だったけど?!」

「私がやったのは、せいぜい密室に小麦粉をばら撒いて、充満したところに火種を投げ込んだくらいで」

「粉塵爆発じゃん!」


 うちの従者、やり口がえぐい。


「フンジン……?」


 ルカが不思議そうに首をかしげた。

 そうだよね、ファンタジー育ちの君にはわからないよね!


「あ~……小麦粉とか、可燃性の細かい粉が空中に舞ってるところに火をつけるとね、その粉が一気に燃え上がって爆発するの」

「マジで? そういえば、パン焼き窯の近くに小麦の袋を置いておくなって言ってるのを聞いたことがあるな……そのへんが理由か?」


 この世界でも、小麦粉の利用は盛んだもんなあ。

 偶然の事故から学んだ人も多いんだろう。


「この世界にはまだ黒色火薬が存在しません。硫黄や硝石を利用価値のある素材と認識してないから、どこにも備蓄されてないんですよ」

「そもそも、材料がなくて火薬が作れない?」

「そういうことです」


 歩きながら、ディーは頭だけを小さく縦に振る。

 なるほど、私たちの前に何度も立ちはだかっている『ないところにモノを作るのは難しい』問題なわけだ。


「でも、いいかげんその程度の力は、蓄積してるはずですよ」


 女神の声が状況を指摘してくれる。

 私はその言葉を確認するため、服の中に隠していた虹瑪瑙のペンダントを胸元からひっぱりだした。


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