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脱出劇

 母国で兄たちが心配していたころ、当の私はというと。


「やばいやばいやばいやばいやばい、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」


 今にも死にそうな目にあっていた。


「下を見てはいけません。とにかくまっすぐ進んでください」

「無茶言わないで……!」


 私は思わず悲鳴混じりの声をあげてしまう。

 だって、今私がいる場所は、お城の『壁』なんだから。


 部屋の鍵を開けた私たちが次に直面した問題は、監禁棟の見張りだった。

 交渉の重要なカードである私たちを逃がさないために、アクセルは屈強な衛兵を建物の前に配置していた。唯一の出入口である扉の前に立ち、出ることも入ることも許さない。

 そこで、ディーが提案した脱出ルートが、『壁』だった。

 監禁部屋の窓に頑丈な鉄格子が取り付けられている一方で、看守が行き来する廊下側の窓には格子がない。そこから外に出て、外壁に取り付けられた飾りを足場に、隣の建物に移るのだ。

 看守もまさか深窓の姫君が壁から壁に移動して脱出するとは、思っていないだろう。まさに、思考の裏をかいた斬新な作戦……いやいやいや怖い怖い怖い。


「なあ、どうしてもここを通らないとダメか?」


 後ろからついてきているルカも及び腰だ。

 そうだよね、怖いよね!


「これが一番、力の消費が少ないルートなんですよ」

「理屈はわかるけどさ……」

「これで一歩足を踏み外したら、救助とか手当てとかで、余計な力を使うことになるんじゃないの?!」

「もちろん、本当に危険な時には手助けいたします」


 ノー命綱ロッククライミングより危険な状況って何。


「ディー、あんた女神の奇跡が使えるんだろ。その力で、看守そのものをどうにかできないのかよ」

「生きている人間は、それだけで運命係数が高いんです。ちょっと気を逸らす程度ならともかく、気絶させたり動きを封じたりするのは、まだ無理です」


 鍵とかの無機質を動かすより、人間をどうこうする方が難しい、と。

 ひとつ勉強になったね!


「あれ? でも、『まだ』ってどういうこと?」

「……コレット様は、すでに監禁部屋から脱出し、逃亡を始めていますからね。邪神の思惑から外れたぶん、多少力は増えています」


 なるほど、この行動にも意味はあったのか。


「しかし、あなたはまだ殺される要素が多すぎる。ある程度大きな奇跡……少なくとも、何かあった時に蘇生できる程度になるまでは、力の温存を推奨します」

「コンティニュー機能が解放されるまでは我慢しろってことね。……わかった、がんばる」


 蘇生の力を手に入れるために、命の危険を冒すって、なんか矛盾してる気がするけど。


「隣の建物に移ったら楽になりますから! もうちょっとだけ頑張りましょう、コレットさん!」


 女神が拳を握って応援してくれる。

 ……が、重力を無視してぷかぷか浮いてる女神様に励まされても。

 本人これで一生懸命なんだからタチが悪い。


「奇跡を頼れないなら、自分の手足で頑張るしかないかあ」


 どうにかこうにか、壁の飾りに手を伸ばす。

 強い雨風がないのが幸いだった。


「よっ……と」


 あと少しで、隣の建物のベランダに手が届く。

 手すりに手をかけて、安心した瞬間、足元からふっと手ごたえが消えた。


「あっ」


 浮遊感は一瞬だった。

 まずい、落ちる。


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