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始まりは婚約破棄

というわけで新シリーズが始まりました!

500年前の聖女のお話です。


こちらもクソゲー悪役令嬢ともどもよろしくお願いします!


「コレット・サウスティ、お前との婚約を破棄する!」


 結婚式の当日に、婚約破棄を言い渡された。

 いや当日どころの話じゃない。

 今私たちが立っているのは、イースタン王国最大の神殿ホール中央。結婚式で花嫁と花婿が立つ場所だ。

 私たちの間には神官が立ち、ホールには見届け人がずらりと並んでいる。あとは祭壇に祀られた運命の女神に誓いを立てさえすれば、婚姻が成立する。

 そんな時になって、今。

 婚約を破棄する?


「アクセル様……」


 私は婚約者の名前を呼ぶ。

 破棄を言い渡されたけど、私はその宣言を了承していない。まだ婚約者と呼んでいいはずだ。


「ご冗談は、およしになってください」

「冗談ではない。お前とは結婚しない!」


 アクセル王子は、きっぱりと断言した。

 見届け人たちの目の前で。


「あなたは、この結婚の意味がわかっているのですか? 私はサウスティ王国から輿入れしてきた王女、あなたはこのイースタン王国の第一王子です。婚約を破棄するとはつまり、両国の関係を……」

「同盟も破棄する」


 ざわ、と見届け人の多くがざわめいた。

 それもそのはず。

 彼らの多くは、サウスティとイースタンの同盟強化を見届けるために、周辺国から集まった要人である。彼らの母国はいずれも、両国の同盟を支持している。

 それが目の前で破棄されようとしているのだ。

 慌てずにはいられないだろう。


「サウスティの支援なしにどうやって東のアギト国と戦うのです」


 イースタンの国土の東端には険しい山脈があり、さらにその先には異民族国家アギト国があった。西の豊かな国土を狙うアギト国は、山を越えてたびたびイースタンへと攻め込んできている。周辺国の支えなしに、イースタンが国土を守るのは不可能だ。

 この結婚だって、その結びつきを強化するためのものだったのに。


「アギト国とは戦わない」

「え?」


 すっ、と王子の後ろに控えていた侍女のひとりが立ち上がった。

 ただの侍女だと思っていたその少女が王子の隣に立ち、頭からかぶっていたベールを脱ぐと、立会人たちに更なる動揺が走る。

 漆黒の闇を写し取ったような黒髪に、黒い瞳。

 きめの細かい象牙の肌。

 美しい少女はその身に異民族の特徴を色濃く宿していた。


「アギト国の第三王女、エメルだ。俺は彼女と結婚する」


 同盟国の王女との婚約を破棄し、敵国の姫君と結婚する。

 それが意味するのは。

 私と同じ結論に至った神官が声をあげた。


「い……イースタンは、アギトと手を組むというのですか?! 運命の女神を邪神と蔑む異教の国と!」


 詰め寄る神官から、アクセルは嫌そうに顔をそむけた。


「ハ、運命の女神など、こっちから手を切ってやる」

「なんと不敬な! それは女神への冒涜……」

「うるさい」


 神官の言葉は最後まで紡がれなかった。

 アクセルが腰にさげていた剣で、切りつけたからだ。


「……っ」


 声もなく、神官が床に崩れおちる。

 その姿を見て、見届け人たちの間から一斉に悲鳴があがった。


「なんてことを!」


 そのうちの数名が、王子に向かっていこうとしたが、かなわなかった。

 事前に配備されていた屈強な騎士たちがさっと間に入り、彼らの行く手を阻んだからだ。

 花嫁予定だった私だけが、アクセルの近くに立っていたけど、何もできなかった。

 一歩でも動いたら最後、私も神官と同じように殺されてしまう。


「イースタン王国はアギト国と同盟を組む。そして、サウスティ、オーシャンティア、ノーザンランド三国とは同盟関係を破棄し、宣戦を布告する!」


 アクセルの声が神殿に響き渡った。

 今度は逆に全員が無言になる。

 元婚約者は、やっと私を振り返った。


「コレット・サウスティ、そして見届け人の使者たちには、この戦争の人質になってもらう」


 花嫁になるはずだったその日。

 私は人質になった。





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