恐怖するもの
少し間が開きました。
ジャンピング土下座いたします( ノ;_ _)ノ
今回はちょっとテイストが違います。
「小娘」
名前ですらない名称で呼ばれる。
双方ともにお互い様である──名前を呼ばないのは。
呼び掛けに返事はしない代わりに思ったことを口にする。
「……私たち、帰れるんでしょうかねぇ……」
ピクリ、と白い毛玉が震える。
「失敗したら、処分されそうですよねー」
軽く少女が物騒なことを言いのける。
──処分、物理的にこの世から。という意味を込めて。
ガタガタと白い毛玉が震える。
「我……死にたくない……嫌だ死にたくない……」
「失敗しなきゃ良いんですーと言いたいですが、説明なしで問答無用で放り込まれてますからねー」
放り込んだと思われる人物を思い出し、白い毛玉もとい子犬らしきもの──子犬でもない。神狼である──と金髪をさらさら揺らす少女が見つめ合う。ほんのりと双眸に絶望を乗せて。
「……何でこうなった」
白い毛玉が呻く。
「特異点がずれて出現したため、空間歪んだようですよ?」
「何故に疑問系だ……」
「直に説明って受けてませんし」
本当に説明されていないようである。
「戻ったら文句言えばいいと思いますー。戻れたらですけどー」
毛玉が絶句する。死に等しい行為である故に。
「……何をすればそもそも任務遂行なのだ……小娘」
「……。」
「おい小娘、無言になるな」
「絞れないんですよ……現時点では」
「………どういうことだ?」
少女は白い神狼に現時点で解るだけの状況を説明する。
【世界の解放】
但し、何から解放なのかは解らない。
それが彼女に刻まれた情報。
「……小娘、殴って良いか?」
「……わたしの所為じゃないんですよぅ……寧ろ放り込んだ人が悪いです!」
白い毛玉が沈黙する。
否、小刻みに震えている。
「放り込んだ人に殴り込みかけて下さい!」
「……そんな恐ろしいこと出来るかっ!我、死にたくない!」
「同意ですー」
「「…………。」」
見合わせた後に沈黙が流れる。
双方ともに触れてはいけない領域を瞬時に理解した。
そして、見図ったように頷き合う。
──不毛な会話は止めておこう。精神が削られる。
「まぁ、とりあえずはトーキョーダンジョンですね」
少女が前置きする。
与えられている情報とだいぶ解離があるかも知れないと。
「新宿辺りに巨大なダンジョンが出来る確率が80%だった様ですが、現在新宿のは規模はだいぶ小さいです。その代わりに旧東京駅のダンジョンが拡張したと思われますね」
「……小娘、まともな喋り方できたのか」
小娘と呼ばれる少女が毛玉の尾の先を爪先でグリグリ踏みにじる。
「ぎゃ@*@#5-4*&……」
「口は災いの元ですよー?」
「……シッテル」
「続けますね。新宿ダンジョンの最奥に巨大なマンドラゴラがあるかも知れないと…なってますが、変わっている場合もありそうですねー」
取りあえずは用心する事に越したことはないと。そう締めくくる。
「……なぁ小娘」
「なんでしょう毛玉」
とうとう呼び方が犬から毛玉に変わった。
この際どうでもいいやと、呼ばれた神狼は思う。
「そこまで予知出来るなら自分で対処出来るであろう魔神というか悪魔というか、触れてはいけないあの存在……何故に自分でやらんのだ?」
「……さぁ……嫌がらせじゃないんですか?そーいうことしそうですしー」
「……嫌がらせか……我、もうやだ……」
放り込んだ存在にも一応言い分はあるが、彼らがそれを知るのはだいぶ先の話である。