爆裂悪役令嬢(ボンバーガール)は、あきらめない~科学チートで乙女ゲームを攻略するの! アタシを追放した悪徳貴族は後悔しても、もう遅い!!~(お試し版)
GOM流、悪役令嬢の始まりです。
今回は、お試し短編版。
この先が読みたい貴方、7月22日より連載版が開始しました。
以下応援宜しくお願い致します。
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ロマノヴィッチ王国北方にあるニシャヴァナ男爵領、そこに隣領から銀色の軍勢が迫っていた。
「とうとう、この時が来たのね。絶対に『ゲーム』通りになんて、させないんだからぁ!」
領内中央部に存在するカルカソンヌ砦。
その城砦の上から、黒髪つるぺた、身長150センチメートル少々の少女が叫ぶ。
彼女の名はクーリャ・マクシミリアーノヴァ・カラーシュニカフ。
御歳15歳、このニシャヴァナ男爵領主、マクシミリアンの長女である。
「ホント、こんな設定作った『姉さん』には怒っているんだからぁ!」
彼女は、現世では居ないはずの「姉」に文句を言う。
それは、彼女が前世記憶を持っていたからだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「アタシ」、楠 楓は、工業化学系の国立大学院生だった。
ある日、研究室で本来起きるはずの無い爆発事故が発生し、それに巻き込まれたアタシは意識を失った。
「お約束とはいえ、姉さんの作った乙女戦略ゲームの悪役令嬢に生まれ変わるなんて、神様は一体全体どーいうつもりなのかしら?」
姉は同人壁サークルの主催者で、同人ゲームを沢山作っていた。
それの最新作が、今アタシが生きている世界、「乙女革命戦記」。
乙女ゲームと戦略ゲームの融合、主人公カトリーヌが王国内で革命を起こし、最終的に連合国初代大統領になるという、妙にニッチなユーザーを狙ったゲームで、それは男女問わず大人気となった。
男性からは、バランスが取れた戦略・戦術性とミリタリー、ファンタジー要素。
女性からは、恋愛要素やイケメンハーレム要素が受け、このたび製品版が発売される事となった。
「姉さん、なんでアタシが今更テストプレイヤーなの? それと、このクーリャって子、まるでアタシなんだけど?」
クーリャは、悪役令嬢として主人公の敵に分類されているキャラだが、そうなるには不幸な生い立ちがあった。
家族を貴族間の内乱で殺されてしまい、国から追放されるという不幸から復讐者となり、王国内で革命を起こす学友の主人公カトリーヌの敵、隣国の将としてクーリャは王国全てと戦うことになる。
この際、フラグ次第では主人公の味方となるし、例え敵でも最後は主人公を庇って主人公の胸の中で亡くなるという、「美味しい」キャラでもある。
「そりゃ、マスター前に猫の手も借りたいからだし、キャラ造形に困って身内からネタ拝借したに決まっているじゃん。カエデ、『自分』を助けたいのなら、頑張ってみなよ。ちゃんと助かるルートあるからね」
クーリャの特徴だけれども、チビッ子で貴族なのに魔法があまり得意じゃない女の子。
人付き合いも苦手だけど、科学に関しては「ぴか一」。
王国から彼女が追放される原因にもなったクーリャの住む領地が豊かだったのは、河川が複数合流する地という好条件の他、なんと彼女が大気中の窒素をアンモニアにする技術、ハーバー・ボッシュ法を異世界で実現化したから。
窒素、リン、カリは肥料の三大要素。
また得られたアンモニアから硝酸、そして爆薬の製造まで行ったのが、国内で目立ってしまったからだ。
……『異世界のノーベル』、異名が爆裂令嬢っていうのも納得ね。
かく言う「アタシ」もどっちかというと身長は低い方だし、スタイルも23歳になっても寸胴のお子ちゃまタイプ。
人付き合いが苦手で、オタク系や科学系、ミリタリーが大好き。
就職もせずに大学院に進み、このまま研究職として大学に残ろうかと考えていた。
そんな折に、アタシは爆発事故に巻き込まれた。
◆ ◇ ◆ ◇
「『今回』は目立たないようにしていたのに、結局『シナリオ』どーりに来ちゃうのね」
アタシ達が居る砦に迫る銀色、大半がアイアンゴーレムで構成された軍勢。
それはゲームシナリオ通り、王国内最強を誇る無敵の軍勢。
唯一違うのは、シナリオ通りなら国中の軍勢、王直属の騎士団達がアタシ達を謀反人として処罰に来るはずだけれども、軍勢が上げている旗印から「今回」の軍勢は隣領のゴーレム部隊だけだという事。
「姫様、あまり覗きこむのは危ないですよ。で、『今回』とは?」
アタシが背伸びをしながら、胸以上の高さにある胸壁の向こうを見ていると、家庭教師のナターリヤ・バージョヴァナが心配そうに話す。
「あら、『今回」などと言いましたかしら、わたくし? まだ軍勢は遠いし、落ちないようには致しますわ、バージョヴァナ先生」
アタシは、口調を貴族令嬢モードへと切り替えた。
「もう、わたくしをとっくに追い越しましたのに、まだ先生って言ってくださるのですね、姫様」
「当然ですわ。わたくしが科学に目覚めたのも、そして人付き合いの大事さを理解したのも、先生の教えですもの!」
アタシは「前世」でも人付き合いは苦手だったし、「今世」でも貴族の付き合いなんて嫌いだ。
でも、それじゃダメだと教えてくれたのがバージョヴァナ先生。
「前世」での恩師共々大事な人、先生のおかげで、「今回」は味方も一杯なのだ。
「そうでしょうか。わたくしがお教えしたのは、王立学園に入るまでの数年なのですけれども、姫様はすっかりわたくしを追い越し、領民の教育まで行い始めましたもの。でも、このままでは、それも全部無駄に……」
「先生、大丈夫ですの。わたくし、皆を必ず守ってみますわ」
「シナリオ」では、この先アタシ達は迫り来る軍勢に領内諸共踏み荒らされ、両親、弟や先生を含めて仕えてくれている人々全てが殺される。
そして、「わたくし」だけが、長年当家に仕えてくれていたドワーフ族鍛冶師の手引きで、北方のドワーフ王国、そしてその更に北の島にある魔王国へと亡命をする運命にある。
「『運命』に抗ってみますわ。その為に今まで、『フラグ』を叩き折ってきましたもの!」
前世記憶が10歳の時に蘇って以降、アタシは全てのバットフラグを叩き折り、仲間を増やし、ゲームシナリオ以上に科学技術を発展させた。
「でも、やっぱり敵になるのね、アンタは」
アントニー・イサーコヴィチ・ウシャコフ、東隣、先々代王の弟が起こしたキリキア公爵家の次男。
彼は「わたくし」と同い年で、わたくしの10歳の誕生日に公爵家からの提案でアントニーとわたくしは婚約をする事になった。
今、考えてみれば間違っても「わたくし」が欲しいとかでは無く、わたくしが住む豊かな領地を羨み、将来乗っ取りを考えての事だったのだろう。
……隣領はウチよりも広いけど、大きな川も無いし土地が痩せてて、鉱山による金属工業と酪農が主体だものね。
でも、アントニーは、正真正銘のお坊ちゃまでワガママ放題。
気に食わない側仕えやメイド達を、殺す寸前まで虐めて追い出すくらいの嫌なヤツ。
そして婚約式の会場で案の定、気に食わない「わたくし」を、そして両親を、領民達を酷く貶した。
「わたくしを貶すのは100歩譲って許しますが、お父様、お母様、そして領民の方々を貶すのは許せませんですもの!!」
「あの日からでしたわね。姫様が動き出したは……」
先生は苦笑しながら、アタシの顔を見る。
アントニーと「わたくし」は大喧嘩になり、アントニーは彼を殴りつけたわたくしを階段の最上段から突き落とした。
「あの『階段落ち』の恨みは、今でも忘れていませんですわ!!」
階段から落ちるときに、「わたくし」は頭を打ち、意識を失った。
そしてベットの上で眼が覚めた時、「アタシ」の記憶、前世の事を思い出したのだ。
「さあ、ここからが仕上げですの。行きますわ!」
「はい!」
アタシは、ゴーレムの軍勢が砦から3キロメートル程離れた外堀の手前で止まるのを確認し、先生と一緒に城砦から降りた。
◆ ◇ ◆ ◇
「王命により宣告する! ニシャヴァナ男爵マクシミリアン。其方は王国への謀反を企み、領内で兵器開発、及び大量の糧食確保を行った。その罪状、明らかなり! よって、王より討伐命令を受けたキリキア公爵次男、アントニー様が其方達を討つ! もし、罪状を素直に受け入れ降伏、男爵が命を以って償えば、他の者達の命は助けよう!」
父の「罪状」及び降伏勧告をしにきた騎士が、王命が書かれた羊皮紙を見せ付けながらドヤ顔で砦の会議室にいる父へと迫る。
「ふむ? 私には一切身の覚えが無いお話ですが? まず私に王や国への反乱の意思は全くございません。また、兵器開発と言いますが、それは娘が趣味でやっている事です」
父は、堂々と自らの無実を訴える。
……お父様、兵器開発の事ごめんなさい。だって、こうなるのが分かっていたから、一切自重せずにミリタリー知識全開でやっちゃったんだもん。
前世、「アタシ」は科学と共にミリタリーにも興味があり、色々調べては、その力と恐ろしさを実感していた。
……ノーベルさんの気持ち、今になったら良く分かるの。これ、アタシが100年は歴史を進めちゃったから、この先、起きるかもしれない世界大戦が怖いよぉ。
「更に食糧備蓄と申しますが、先だっての不作のような飢餓対策に税として王へお送りしたもの以上の余剰食糧を領民用に保管して何の問題がありましょうか? 更に、飢餓に困る王国各地へ当領地から食糧支援を行ったのをお忘れか?」
アタシが知っていた化学肥料や簡単な農薬、そして農業機械の投入により、元々他領よりも肥えていた領内の畑は更に肥え、他領の不作なぞ関係ないというばかりの豊作となった。
そして困窮する王国内へ支援を行ったのは、お人好しの父。
もちろんアタシも喜んで協力をして、輸送用機械の開発すら行った。
「そ、それは謀反を誤魔化す為の事に違いない! さあ、降伏をなさるか!?」
最初から、こちらの話を聞くつもりが無いキザな騎士。
確か、ワガママなアントニー一番のお気に入り、嫌なヤツだったはず。
「そうですか。では、当家は貴方方を倒し、王へ貴方方こそ謀反を企んでいると直訴しにまいりましょう。本来なれば王直属の騎士団が動くはずなのに、貴方方キリキア公爵家、それも次男殿の操るゴーレム兵のみ。更に王命の書類、記述や捺印、更に羊皮紙の質が以前自分が見たものと違う気がします」
父は、元王国事務官の経験から、王命書の怪しい点を指摘する。
……アタシの仲間達からの情報もあるしね。
「も、問答無用! これより一時間後に戦闘を開始する。それまでに、もう一度良く考えるんだな! さもなくば娘や女共がどうなるか。ははは!」
焦った様に騎士は捨て台詞を吐いて、砦を去った。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、コレで良かったのかい、クーリャ? 私だけ首を差し出せば済む話なのに。このままならクーリャも、そして態々集まってくれたお友達も巻き添えになるんだよ?」
「マクシミリアン様。わたくし達は、無実の皆さまをお助けしたいから集まったのです。あのような下品で愚劣な者に従う必要はありません!」
こげ茶色の力強い瞳をした少女、カトリーヌ・レオンが、父やアタシに向けて答えてくれた。
「カトリーヌ様。そして他の皆さん、これまでありがとう存じました。ここからは、当家の問題です。皆様が危険な目に合う必要もないです。お早くお逃げくださいませ」
「あらぁ、クーリャ。伯爵令嬢で学園生徒会長のアタクシ、エカテリーナ・リプニツカヤに対して、甘く見すぎでございますわよ!おほほほ!」
「そうそう。クーリャはいつも笑っていなきゃね。エルフ族は、受けた恩義は必ず返します。エルロンド・マイアールはクーリャ姫の為、他の学友の為なら命を掛けます」
アタシ、いや「わたくし」が通う王立魔法学園の仲間達が沢山会議室に集まってくれている。
「なら、オレは一番恩を返さなきゃな、カトリーヌとクーリャには借りが多すぎだ。獅子王第二子のサロモン・ライニオ。義によって助太刀致すぞ!」
「アタイらドワーフ族とココは、昔からの付き合い。そしてアタイのダチの危機は見逃せネーよ! ダニエラ・ゲーベロス、あんな鉄くずぶっ飛ばしてやらぁ!」
「では、ワタクシは武家の娘として、助太刀いたします。トモエ・ジングウジの弓に期待あれ!」
「クーリャや、今更水臭いのじゃ! 其方と此方の仲では無いかや? 魔王国で困っておった此方を助けてくれた恩を返すのじゃ! 魔王の隠し子たるクラーラ・ゴロヴァトヴァがあのような雑兵、吹き飛ばしてやるのじゃ!!」
仲間達はワイワイと「わたくし」を励ましてくれる。
本来なら、彼らはゲーム主人公カトリーヌ・レオンの仲間として戦う人たち。
アタシは、最初下心もあって彼らとは仲良くした。
でも、それ以上に彼らはアタシを大事にしてくれたし、アタシも精一杯彼らを助けた。
こんな友人たち、「前世」でも居なかった。
この世界に来て、一番良かったのは、彼らと出会えた事。
アタシは、涙が溢れるのを停められない。
「皆様のように前線で戦う事は出来ませんが、わたくしは後方支援を致します。現在の敵の陣営は、外堀直ぐ外に待機中。側の小山に予想通り陣を敷きました。既に火砲の準備は万端ですわ。キルゾーンに入り次第、殲滅しますの! そうそう当家の密偵情報では、今回の事案、王はご存じないようですわ」
「アナスタシャ様、もう準備できていたのですか?」
「はい、クーリャ様! アナスタシヤ・セリュチナ、準備に抜かりはありません。あ、密偵の事はお気になさらずに。伯爵家として、王国治安維持を仕事とする者として、王国内の不穏を正すのが仕事。今回は明らかに向こうが悪ですものね」
「おかげでアタクシの実家も今回の討伐に参加しておりませんわ。アナスタシャ、ありがとうですわ」
「いえいえ、エカテリーナ様」
ゲームでは隠しキャラ、軍師にして諜報役だったアナスタシャ。
アタシは、そうとも知らず周囲から浮いていた内気な彼女を、かつての自分と重なって助けた。
情けは人のためならず、アタシは自らのお人好しに随分と助けられた様だ。
……だって困っている人見てたら、ほっとけないもん。前世よりは積極的になれたのも、先生のお陰かな?
「となると、今回の裏には王家の中の誰かが関係しているんだね。はぁ、ヤーコフ兄さんだろうか? それともルドルフ兄さん?」
「アレクセイ様。貴方は今回の案件とは無関係ですわよ。というか、迂闊にご身分を知られる発言はお気をつけてくださいな」
「そうだったね、クーリャ。僕はロマキン家の人間。オルロフ王家とは無関係」
童顔の坊ちゃん、アレクセイ・ロマキン。
実は、母親が王家に側仕えとして仕えていて「御手付き」になった第四王子。
この事実は、ここにいる人たちが彼を王家内の争い、暗殺から救ったので全員知ってはいるが、公には言えるはずもない。
「だな。そういう細かいのはオレはきにしねー。とにかく、今回は目一杯暴れてやろうぜ! 相手に人は殆どいねーから手加減する必要もねーし。がははは!」
ワイルドな獅子獣族サロモンは、豪快に笑う。
「皆、本当にありがとう存じます。あ、ありがとー!!」
わたくしは、泣きながら頭を深く下げて皆に感謝を示した。
「絶対勝って、あの愚か者達に天罰を与えますの!」
「おー!」
カトリーヌは鬨の声を上げた。
◆ ◇ ◆ ◇
「お友達の皆様、本当に良い子ばかり。クーリャ、貴方は幸せ者ですわ」
「はい、お母様」
アタシは戦いを始める前に、砦の地下へと避難する母と弟に挨拶をした。
「おねーさまぁ。あんなにいっぱいのぎんいろ、かてるのぉ?」
可愛い弟、ラマンがアタシに抱きついて不安そうな顔で見上げる。
「大丈夫、ぜーったいわたしは負けないよ、ラマン。お姉ちゃんの活躍を楽しみにしていてね」
前世では居なかった弟、その淡い金髪の頭をアタシは撫でる。
「クーリャ、お言葉が崩れていますわよ。まあ、しょうがない子達ね」
母、ニーナは涙をこぼしながら、弟と一緒にアタシを抱きしめてくれる。
「絶対に何があっても命は大事にするのですよ。どうにもならない時は、貴方だけでもお逃げなさい。ドワーフ王国への脱出経路は覚えていますわよね」
「はい、絶対にわたくしは死にません。それと、『今回』は、脱出しませんわ。だって、わたくしが勝つのですもの!」
アタシは母と弟を力いっぱい抱きしめ返した。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、俺を今まで馬鹿にしまくったメスガキをようやくバラバラに出来る時が来たぞぉ!」
軍勢のやや後方、砦の外堀から離れた街道沿いの小山に旗印を置き陣を敷く、指揮官アントニー・イサーコヴィチ・ウシャコフ。
軽薄なイメージの顔を酷く歪めて笑う。
彼の脳裏には、婚約破棄に始まり、クーニャ達に学園で散々馬鹿にされた記憶が蘇る。
「アントニー様。各ゴーレム、攻撃準備が出来ました」
「あい、分かった。さあ、王国最強のゴーレム軍団の威力を思い知れ! 出陣!!」
アントニーの命令で、銀色のゴーレムたちは前進を始めた。
巨人型、四脚歩行タイプ、蜘蛛やカマキリタイプ、そして人と同じくらいの歩兵型、銀色の軍勢が深さ3m程の外堀を越えてゆく。
中には巨大な城砦破壊鎚を引きずるゴーレムもいる。
「しかし、いつのまに外堀なぞ掘ったんだ? 去年までは無かったと報告を受けていたが?」
「はっ。どうやら近くを流れる川から水を引き込み、運河や水道に使っている様です」
アントニーは以前の情報から作っていた砦付近の地図と、現実の様子を見比べる。
「報告! 砦に光と煙を確認!」
「確か大砲があるとは聞いている。まあ、砲撃にしても軍勢までは3キロメートルは優にある。届いても当りはすまいて」
この世界の常識では大砲は、まず当らないもの。
大きな音で軍勢を慌てさせる、もしくは直ぐ近くの城壁を破壊する為に使うものだ。
しかし、発射音がアントニーの陣に響く前に銀色の軍隊が宙に舞うのが見え、軍勢内に数発着弾した砲弾が爆発した音と振動が大きく響いた。
「なんだとぉ、初弾で当るとは!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「たまやぁ!」
アタシは、準備していた榴弾砲が敵のど真ん中に着弾するのを双眼鏡で確認した。
「初弾、命中! 次弾装填急いで。次も同じ照準で」
同じく双眼鏡で着弾を確認したアナスタシャの指示で、砲兵達はアタシが開発した榴弾砲に弾を後ろから込める。
「各自、照準微調整。いけますか? はい、発射!」
づどんという轟音が響き、5つの砲口から白い煙を少し吐いて155ミリメートル榴弾がスピンしながら飛んでいった。
◆ ◇ ◆ ◇
「しかし、最初はまぐれ当りさ。大砲は一発撃ったら後ろに動いて照準がずれる。次は当りはしないし、直ぐには撃てまい。撃たれる前に近づいてやる!」
アントニーは、損害を気にせずゴーレムの脚を進めた。
そして再び、軍勢が吹き飛ぶのを見る。
「ど、どうして同じ場所に当る? それに発射が早すぎる!」
◆ ◇ ◆ ◇
「残念ね、アントニー。わたくしが作った榴弾砲は甘くないの!」
古くからある大砲は、螺旋が刻まれていないし、丸い弾を撃つだけだから、狙い通りには飛んでくれない。
更に発射火薬は煙が沢山出る黒色火薬だし、前から弾と火薬を装填するから手間と時間が掛かるし、一発ごとに発射の反動で後ろに動いて照準がずれる。
「流石はクーリャ様の作った大砲ですね。弾は回転しながらまっすぐ飛びますし、駐退機は大砲が動かないし、火薬も煙が少ない上に威力抜群ですわ。次弾装填、照準点は最初より前方約200メートルに調整!」
歯車式のアナログ計算機を使って弾道計算をするアナスタシャ。
……貴方の方がすごいですわ。アタシのアイデアからアナログ計算機を作るんですもの!
彼女はテキパキと砲兵たちに指令を出して、追撃を行った。
「撃てー!」
「かぎやー!」
アタシは、着弾した爆風に吹き飛ばされるゴーレム達を眺めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「い、一体俺は何を見ている? これは地獄なのか!?」
「アントニー様、既にゴーレム軍団の半数以上が破壊されましたぁ」
アントニーは爆風と爆音が吹き荒れる戦場を見て、慄く。
「このままでは全軍総崩れでございます」
「は、そうだ! オマエ、お前が突撃をして砦の門を空けるのだ。数人の騎馬でなら砲撃の合間を抜いて接近できるだろう。そして砦の砲兵たちを蹴散らすのだ!」
「はっ!」
アントニーはお抱えの騎士に命令を下した。
◆ ◇ ◆ ◇
「あら、騎士が数名ほど騎馬で突撃してきますわ?」
監視を手伝っていた生徒会長エカテリーナが、自慢の遠見魔法で敵の動きを報告してくれる。
「なら、サロモン様、トモエ様。御願いしますわ!」
「合点承知!」
「御意!」
獅子と戦乙女は、アタシが準備している「アレ」のある銃座へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「このような鉛玉、騎馬で走る我らには当るまい!」
馬ごと重装甲に身を固めている騎士達は、吹き飛ぶゴーレムを横目に砦に近付く。
途中、砲弾の破片を喰らって倒れる騎士も居た。
「さあ、行くぞ!」
まだ自分達が勝てると思い込んでいた、降伏勧告をした騎士。
しかし次の瞬間、彼らは雨のように降り注いだ銃弾によって引き裂かれた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おらおらおらおら! ガトガトガトガト!」
「かのような武器、これからの戦争は変わりますわね!」
獅子と戦乙女、2人は予め銃座に設置されていた回転式機関銃、ガトリング砲で砦に迫る騎士を馬ごと薙ぎ払った。
そして、そのまま残存するゴーレム達を撃つ。
……ごめんね、貴方達に人殺しをさせてしまって。その罪はアタシも一緒に背負います!
「次の砲撃は敵本陣を直接狙います! アナスタシヤ様、照準修正御願いします」
「はいです!」
粗方のゴーレムは砲撃によって無力化し、砲弾によるキルゾーンを越えたモノも、ガトリング砲のエジキになる。
ここで戦いを終える様に、アタシは勝負に出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「な、なんだぁ! あの銃とやらは? 今まであのようなモノは見た事も聞いた事も無いぞ! アイツ、本当に謀反を考えていたのかぁ!」
まだまだ前込め、フリントロック銃や火縄銃くらいしか無い世界に現れたガトリングガン。
それは戦場の様相を大きく変えた。
まるで、リアル世界での日露戦争201高地での対要塞戦の再現。
アントニーは自らの遠見魔法で戦場の状況を見て、腰を抜かす。
「アントニー様、これ以上は危険でございます。なにとぞ撤退を」
撤退を側仕えから意見具申されたアントニーは、砦の方角を憎らしげに見た。
「ち、ちきしょー! また、アイツに負けるのかよぉ!」
そして非情にも彼の真上に砲弾が舞い下りてきた。
◆ ◇ ◆ ◇
「アタイ、いくよー!」
「ちょ、ボクに無理言わないでよぉ!」
「此方、魔力全開なのじゃ!」
ドワーフ、エルフ、魔族が操縦する6脚歩行のゴーレム、いや多脚戦車が戦場を走り回る。
短めの砲を持ったターレットが回転して同軸機銃を撃ちながら、時折砲弾を吐き出す。
砲弾は大型ゴーレムの胴体に着弾し、破裂して中に仕込まれた金属がユニゴオ弾性限界を超えた流体となり重装甲を貫く。
戦場には、もはや動くものはわずか。
それらも戦車の前に、成すすべも無い。
◆ ◇ ◆ ◇
「終わりましたわね、クーリャ様」
「はい、カトリーヌ様」
アタシ達は、戦いが終わり夕方の色に染まる戦場を城砦の上から見る。
そこは砲弾が炸裂した大穴が沢山開き、バラバラになったゴーレム達が転がる。
そんな中、少ないが死亡した敵の遺体を回収している砦の兵士達。
「これで本当に良かったのでしょうか? わたくしは、戦争の有り方を大きく変えてしまいました。これから、わたくしの手法を真似る者が絶対に出るでしょう。そうすれば、戦場は地獄と化しますの」
アタシは、眼の前の「地獄」を見て、ファンタジー世界に近代戦を持ち込んでしまった事を後悔する。
「いえ。こうでもしなければ、亡くなっていたのはクーリャ様達ですわ。降りかかる火の粉は払わなくてはなりません。それに、この惨状を知ったわたくしやクーリャ様、仲間達が居れば、悲劇は起きません。いえ、決して起こさせません」
カトリーヌは泣いているアタシの顔をハンカチで拭ってくれる。
「カトリーヌ様ぁ」
「平民上がりのわたくし相手に様はいりませんわ、クーリャ様」
「それなら、わたくしの命の恩人に悪いのです。わたくし、いえ、わたしの事はクーリャと呼び捨てなさってくださいませ」
大泣きをしているアタシを優しく抱擁してくれるカトリーヌ。
その温かさ、柔らかさと香りにアタシは、同性ながら心地よくなった。
「さあ、ここからが大変ですわよ、クーリャ。敵は王国そのものかもしれません。それでも貴方は戦いますか?」
「はい、カトリーヌ。わたしは、絶対に負けません。家族も、領民も、そして仲間達も。誰も彼も失いたくありません。この願いを邪魔するというのなら、誰とでも戦います!」
「その願い、聞き入れました。わたくし、この国、いえこの世界をより良いものにするため、クーリャの願いを適えるために、一緒に戦いますわ」
アタシは感激で涙が止まらない。
……あれ? この台詞ってゲームだと確かアレクセイとカトリーヌの間で話されるものだよね。あ、アタシ横取りしちゃったかもぉ!
「ほ、本当にいいの、カトリーヌ? わたしの願いは世界を変えるのに関係ないんだけど?」
「同じよ。女の子が愛する人達を守りたいって願うのは、世界を救うのと同じ事。たった一人の女の子を救えないで誰が世界を救うの! うん、分かったの! わたくしの生きる意味は、世界を素敵な世界に変える事だったのね」
キラキラと目を輝かすカトリーヌを見て、何か「フラグ」を立ててしまった事に気が付いたけど、もう遅い。
こうなれば、アタシは爆裂令嬢としてカトリーヌを助けて行くのだ。
そして、ハッピーエンドへ邁進するの!
◆ ◇ ◆ ◇
こうして、アタシはこの世界でクーリャとして生きてゆく。
悪役令嬢もとい爆裂令嬢として、アタシの幸せ、皆の幸せを邪魔する悪徳貴族共を吹っ飛ばすのだ!
「さあ、行くわよ!! ボンバーガールが皆を救うの!」
「ほう、今度は悪役令嬢モノじゃな。それも『乙女革命戦記』とは、御目が高いのじゃ!」
あれ、なんでチエちゃん。
どーして、こんなところまで来ているの?
「そんなの、ワシの勝手なのじゃ! 初見の読者殿、初めましてなのじゃ! そして毎度作者殿の作品を読んでもらっているファンの皆様、また帰ってきたのじゃ! ワシは、どんな異世界でも参る魔神将チエ。チエちゃんと呼んでくれれば、何処にでも参上するのじゃ! 作者殿の完結作品、『功刀康太』や『異世界CSI』を読めば、ワシの賢さ、可愛さが分かるのじゃ!」
はぁ、もうしょうがないなぁ。
しかし、元ゲームの存在をどうして知っているの?
一応架空ゲームなのに?
「そんなの、ワシが知る全ての世界のゲームは全部網羅しておるのじゃ! 鬼畜王ラ○スと乙女ゲーム、更に大○略の融合ゲームなど、ワシの大好物なのじゃ!」
と、そういうコンセプトのゲーム世界を舞台にしている形です。
説明ありがとね、チエちゃん。
「で、今回は妙に中途半端じゃな。まるで物語の1エピソードを引き抜いた感じなのじゃ!」
はい、今回のは練習、そしてお試し版の短編です。
物語中盤の戦闘部分を引っ張ってきました。
「細かい設定は出来ておるのじゃな? キャラ紹介からして、どういう話があったのか、更にこの先に何が起きるのかが気になるのじゃ!」
そう言って下されたら作者は嬉しいですね。
ということで、今回はお試し版です。
このまま長編になるかどうかは、作品の人気次第。
ブックマークや評価、PV次第で決まります。
できれば、このまま書き続けたいので、応援宜しくね。
「では、皆の衆。応援、よろしくなのじゃ!! また、ワシと出会いたい人も応援するのじゃぞ? リーヤ殿とかも出番待っておるぞ!」
追記:
7月22日から連載版が開始していますので、よろしくお願いします。