コンセンサスをもとにアグリーをとる男
「君もこのプロジェクトのメンバーとして、コンセンサスにアグリーってことでいいんだよね?」
時刻は11:00、目の前で社内プレゼンテーションを終え、満足感に浸りきった男が話す。
僕は新入社員のN。
お前は何語を喋ってるんだ。そう僕は言ってやりたい。でも、僕は温度差のある声を上げた。
「ああ、ええ、賛同しますよ。」
僕は目の前のアグリー男の部下として、精一杯仕事をこなす、遊戯王が趣味の新入社員だ。
アグリー男は続けて僕に向けて話す。
「ではアジャイルなアジェンダ作成のイシューをNくんにアサインしておくから、よろしく頼むよ。ASAPでね。俺は次のインバウンドのオポチュニティで円滑なコミニュケーションを図るため練習しなきゃいけないんだ。この会社ではコミニュケーションが大事だからね。」
コミニュケーションじゃなくてコミュニケーションだろ。英語読めないのか。僕は言いたい。言いたいんだ。
するとアグリー男は、大事なコミニュケーション(笑)練習をするため下の階の会議室に行ってしまった。
「早めに、柔軟な予定作成の仕事やらなきゃなぁ……上司も大事な会議の機会が多く忙しいみたいだし。」
そう僕は言いながら、おもむろにスケジュールアプリを開いて仕事を始めた。
昼飯を食べ、スケジュール作成の仕事をこなす。
確認のためにアグリーさんにも確認おねがいしますメールも送っておいた。
するとアグリーさんが近づいてくるのがわかる。なぜならアグリーさんのカタカナ語は妙に英語訛りの発音で耳に入るからだ。
「Nくん、スケジュール確認した?いくらOJTとはいえ、アライアンスとの予定確認は、エスカレしないと、いくら業界でうちの会社がNo1というアセットがあるとはいえ、インバウンドとは違うんだから。疑問点があったら、僕とコミニュケーションしておくれ。」
一般的な「スケジュール」の言葉でさえ、そういう用語に聞こえてくる。
僕はとっさにいつもの謝り癖を発揮した。
「研修中とはいえ、すみません。外部の方との予定確認を忘れていました。子会社なので我々の方が立場が上だといっても、社内と同じじゃないですもんね。疑問点があれば質問するようにします。」
続けざまにアグリーさんは流暢な発音で話す。
「NRのエビデンスは大丈夫かな?オーソライズしてもらえた?コミニュケーションは取れてる?今日はオンスケで行けばいいけれど、OEMのMTGだから長引くかもしれないんだよ。」
MTGと聞くと、カードゲームが趣味の僕は世界最古のトレーディングカードゲームのことを考えてしまう。よくない癖だ。
僕はおもむろにメールを開きその質問に答え始める。
「出先からそのまま帰れるかの確認ですよね。仕様設計会議の後は、社長の方から会社に一度戻ってきてほしい、となっています。」
「そういうオリエンね、アグリーした旨、社長にコミニュケーションしといて。コミニュケーションは大事だから。」
まずはコミュニケーションの英語の読み方を大事にしてほしいものだ。
すると言葉を言い残したアグリーさんは外部の方との会議に行ってしまった。
僕はおもむろにメールアプリを開き社長への返信を記入する。
「帰社の方向性はお伝えしました。」
夕方、アグリーさんが帰ってきた。
今は6月。ボーナスの時期だ。
この会社では社長がボーナスを手渡しする文化があるらしく、今日はそのためにアグリーさんは帰ってきたのだ。
僕とアグリーさんは一緒に社長室に入り受け取りを待つ。
社長の声が聞こえてくる。
「Nくん、30万円だ。横の君は10万円。」
アグリーさんのボーナスに対する今にも噴火でもしそうな怒りの表情。
顔を見なくても伝わってくる。
いや、ここではコミュニケーションを取らずともわかる、というべきか。
社長のありがたいお言葉はシンプルだ。
「当社ではコミュニケーションスキルに基づいてボーナスを支給している、N君は短い言葉でよくまとめられているよ。」
Nくんと、アグリーさん。どちらが短い文字数で内容を伝えられているのか。
この小説を読めば、読者の君にも一目瞭然なのであった。
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。