表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グッバイ、マイサマー  作者: ひろ法師
エピローグ 僕らの居場所
35/35

第35話 そして、また[最終回]

 そして十年の時が流れた。八百の町は相変わらずの田舎だがあの時と変わらぬ風景が、そこにはあった。

 今日は壮大な夏物語の終わりから丸十年目。偶然休日で、仕事はお休みだ。僕は朝から浮き立っていた。


「セイヤ、今日はうきうきしておるのう。どうしたんじゃ」


 朝食をとっているとおじいちゃんが部屋から出てきた。おじいちゃん、百近いのに今も現役バリバリで神社の仕事をこなしていた。やっぱり、おじいちゃんもチカさんの血を引いているから……いや、ビクニさまのご加護のおかげだろう。


「いや、スズミさんが帰ってくるんだよ」

「おう、おまえさんにできた人生初めての女の子の友達かの?」

「そうそう」

「楽しみじゃのう。でも、たまに会ってたんじゃろ?」

「まあね」


 十年経ち、スズミさんは隣の県で働いていた。

 あれからもメールやSNSでたまにスズミさんと近況報告はしている。たまに遊びに行くこともあった。

 もちろん、十年後の約束の確認のためでもあるんだけど。


 朝食が済み、僕はスズミさんと連絡を取ると、最寄りの駅まで迎えに行った。


 駅のロータリーに車を停めると、改札から彼女は現れた。


「セイヤくん!」


 茶色いワンピースとショールに衣服に身を包んだ、黒髪を肩まで伸ばした女性が僕の車を見かけると走ってきた。

 中学の時よりもさらに大人になり、美しくなった彼女に磁石のように顔が吸い寄せられていた。

 でも、すぐに理性で現実に引き戻す。


「スズミさん! 久しぶり!」

「ごめんね、待たせた?」

「大丈夫。とりあえず、神社に行こうよ」

「オッケー! 浮気してないよね」

「してないよ!!」


 いたずらっぽく笑うスズミさんに、僕は顔の中が爆発した。でも、ちょっとでも僕とスズミさんの関係も前進させていきたい。


 車の中で近況を語り合いながらいったん僕の家に向かう。そして、卯花山に足を進めた。

 卯花山は最近登山道が整備され、散歩コースとして人気がある。スズミさんは登山に似合わぬ服装だけど、歩く分には問題ない。

 そして、洞窟の前。


「さあついた! ここも十年ぶりだね」


 スズミさんは卯花神社に初めて訪れた時のように、あたりを見回して昔を懐かしんでいた。


「うん」


 あの時と同じく、洞窟の前に白椿が供えられている。実はこの白椿、僕とスズミさんが初めて見た時と同じものが供えられていた。僕はたまに洞窟に来ていたのだが、これは誰も替えていないというのに枯れていないのだ。


「チカさん、来てくれるかな」

「きっと来るよ。椿枯れてないし」

「そうだね」


 周りには誰もいないけど、誰かの気配は感じていた。これまで洞窟前で気配を感じたことはあったが、それも十年ぶりだ。


 茂みをかき分けて誰かがこっちに近づく。足音が大きくなるにつれ、僕とスズミさんの心も軽やかに跳ねていた。


 そして、


――ふたりとも、おひさー!


 僕とスズミさんは振り返った。あの時と変わらない姿で、あの人はいた。凛とした、優しそうな笑顔で。


――チカさん!!


 僕たちの足は自然と走り出した。手を広げて待つ彼女に。

 そして再会した。居場所を失った僕らに居場所を与えてくれた、恩人に。



 あの壮大な夏から始まった物語は僕を大きく変え、確実に僕の記憶に刻まれた。

 ありがとう、スズミさん、チカさん。


 そして、グッバイ、マイサマー。


        (『グッバイ、マイサマー』 END)

これにて完結です。

応援していただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ