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空から手紙が落ちてきた気がしたんだ。

作者: みくに葉月

空から手紙が落ちてきた気がした。私は君の手を引いてどこまでも走っていたのだけれど、ふと顔を上げると見えたのだ。むろん、気のせいだと思わないわけがない。私は首を振ってまたもう一度走り始めた。電車が行ってしまう前に君はあいつに会わなければならない。君はあいつに裏切られて意地を張っていたけれど、本当は会いたくて仕方がなかったんだ。遠く離れた空を見つめる君を見て私は居ても立っても居られなくて、それでこんなことをしてしまったのだ。あるいは、余計なお世話だと言われるかもしれない。でも、私はこうするしかなかった。

 急がなければ。日中に振った大量の雪に足を取られて上手く進むことが出来ない。除雪された線路に沿って歩いていると、時々自分が今どこにいるのか分からなくなる時がある。星空を見て自分の現在位置を確かめようとしても、あいにく星座には詳しくない。こんなに綺麗な星がたくさん宙に浮かんでいるのにそれについて私は何も説明することができないのだ。分かっていることは私は現在君をあいつの元へ届けるために自宅を飛び出し、君の家から君を引きずり出し、あいつが乗る電車が到着する駅に向かっているということだった。周りを見回しても目印になるようなものは線路しかなく、多分その場で自分がぐるぐる回転したら前か後ろか分からくなるだろうなと思った。頭がパニック状態なのだ。こんな時は深呼吸しなければならない。

 私は目を閉じて深呼吸をした。すると、また空から手紙が落ちてきた気がした。あの手紙は私のためにあるのだろうか。いや、あるいは誰かに届けられるはずが何かの手違いで私の眼前を右往左往しているだけなのかもしれない。それはとにかく一瞬の出来事でまた消えてしまった。

 ようやく駅に着くとあいつはしっかり待合室で座っていた。私は少し恥ずかしくなって君に「ほらっ」と言って押し出してやった。二人は何も言葉を話さずただ何かの暗号を交換するように見つめ合っていた。これだ、突然訳も分からず自宅を飛び出してきたけれど、私はこれが見たかったのだ。これで満足だ。私はそれを確認すると二人に背を向けて歩き始めた。肌寒さは一日中変わらないけれど、今は何だかいつもより少し寒く感じた。これでよかったのだ。私は微笑んで空を見上げた。空から落ちてくる手紙はまだひらひらと落ち続けていた。


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