いかれた妹と兄のふりをした人形
皆さんご存知だとは思うが改めて説明しよう。この世界には俺の妹や幼馴染、彼女が存在する。
しかし、彼女らは決して俺以外に姿を見せることはない。なぜなら、壮絶な人見知りだからである。
それを踏まえた上でこの物語は幕を開ける。断じて俺の妄想なんかではないこれが現実だ、これは現実だ。
「妹がいない!」
目覚ましが鳴り続けていることで俺はその異変に気づいた。
時刻は午前11時。今から学校に行けば、ぎりぎり社会的に許される時間。
だが今の俺にそんなことをする時間的余裕はなかった。妹がいない。
大事なことなので二回言いました。そう、妹がいないのだ。
こういう時は具体的に妹の見た目やら身体的発達くらい説明するべきだが宣告伝えたように妹がいない。
まずは創作が最優先だ。漢字を間違えてた気がするがまあ、いい。
そんなことを気にしている間に俺なら妹の10人や100人位見つけることができる。
しかし、寝不足なので今の俺にはそれが出来ない。
なぜ寝不足なのか。それは俺にもわからない。いや、わかるはずだ。
そうだ昨日の出来事を思い出していけば妹の失踪先がつかめるかもしれない。
寝不足なのに冴えているこの矛盾こそ俺が俺である証拠である。
昨晩、幕の内弁当に梅干しを投入する仕事をしていた俺は妹と些細な喧嘩をした。はずだ。
「お兄ちゃん。またパンツ残したでしょ」
妹の声質はノイズがかかっていてよくわからない。
辛うじて3年前、耳が聞こえなくなったときに会得した読唇術で何を言ってるのか理解できる程度だ。
一応言っておくが今も耳は聞こえる。当時も聞こえた。
「え、なんだって?」
俺は手話で応じる。至極当然、俺は声が出せないからだ。
でも電話で話すことはできる、普通に。
「ごめん。真っ暗でなんて手話か見えないよ」
そう、俺は真っ暗な台所で幕の内弁当の白飯と梅干しを入れ替えていたんだ。