僕の一目惚れした人がGW遊びに誘ってきたんだけど僕はどうしたらいいだろう
待たせたな、みんな! 僕は高倉啓也、今日はみんなに新しいくりちゃん情報をお届けすべくやってきたんだ。いやぁ、にしてもくりちゃん、もう大学生か……美しさにさらに磨きがかかって、僕はどうしていいか分からないよ。でも相変わらず私服はスカートなんだね、可愛らしい容姿にクールな表情、堪らんでしょう! その瞳で睨まれ……いいや見つめられただけで僕の心は震えが止まらないよ。え、そそそんな、恐怖で震えるわけないじゃないかーあははは。
「何やってんの啓也、道の真ん中に突っ立って身体くねらせながらにやにやしたり頭抱えたり……警察より先に精神科行ったほうがいいかもしれないな」
「はっ、その声はくりちゃ神無さん!」
「悪いが私は“くりちかんな”と言う名の人間は知らないんだ。他を当たってくれ」
しまった、あまりに突然のことに驚いてくりちゃんと言いかけたのを誤魔化そうとしたらこのザマだ。
「ああ待って神無さん、せっかく学内で会えたんだ、一緒にランチでも」
「遠慮しておく。私は君と違って暇じゃないんでね」
「じゃあ途中まででいいから一緒に行こう」
くりちゃんは僕を一瞥すると、勝手にしろと呟いて歩き始める。なんと、勝手にしていいと言ってくれた。勝手にする許可が下りたのだ。
「ありがとう神無さん!」
「うわ、やめろ叫ぶな。どうして君はいつも公衆の面前で目立ちたがるんだ。私を巻き込まないでくれ」
照れちゃってーもう、素直じゃないなぁ。でもその本気で嫌そうな表情、どうやら本音みたい!
「だいたい君はいつも誰に向かって話しかけているんだ」
「え、僕の心の声が神無さんには聞こえてるの。さすが、運命の相手」
「その呪われた運命今からでも変えられるだろうか」
くりちゃん、呪いだなんてひどいよ。いや待てよ、昔からなんでも呪いを解いたらハッピーエンドが相場じゃなかったか? ドラ◯エ8でもかの有名な美◯と野獣でも、なんかアニメにもきっとそういう話あるある。つまりこれは、新手のプロポーズ。
「何を勘違いしているか分からないが、啓也はパンドラの箱だから、開けたらいいこと起きないから」
「そんなー、照れるよ神無さん」
「私の話聞いてた? 決して褒めてないんだが」
さりげなくギリシャ神話を話題に出してくる知的なくりちゃん、かっこいいよ。でも何だろう、僕は初めて会った時みたいな、失態を必死に誤魔化す愛らしい姿を見てみたいんだけど、あれ以来そういったところ一度も見たことがないよ。ずっとくりちゃんのことを見つめてるから言えるけど、油断も隙もないよね。そんなとこも堪らないなぁ。
……というか、日に日にツッコミ力あげてるよね、くりちゃん。どこでそんな技術を磨いているんだい。僕は、僕の中に眠るくりちゃんにいじめられたい欲が開花しそうだよ。僕に新たな扉を開かせるなんて、さすがくりちゃんだ!
「見知らぬ誰かに語ってるとこ悪いんだけど、さっさと歩いてくれないかな。君のせいで私まで遅刻とかありえないから」
「ごめん神無さん。今行くから置いていかないでー」
「別に置いていくとは言っていないだろう。そんなことより」
早足で歩き出したかと思えば急に立ち止まって、くりちゃんてばどうしたのかな。忘れ物でも思い出した? 安心して、くりちゃんのためなら僕はなんだって貸してみせるし、なんならいまから買ってくるよ。どうぞご気軽にお申し付けを!
「これ、一緒に行かない。どうせ啓也暇でしょう、ゴールデンウイーク」
振り返ってくりちゃんは何かのチラシを差し出す。そこには『カップル限定・GW限定 イチゴ溢れるホイップパンケーキ!!』の文字が。これってつまり、そういう……。
「君が要らぬ期待をしないうちに言っておくが、カップル限定だから仕方なく君にフリを頼もうというだけだからな」
ですよねーくりちゃん! 僕はいままでの経験から全て察してましたよ。
でも、でもだぞ高倉啓也、落ち込むのはまだ早い。あの誇り高く人気のある神無紅梨様が、恐れ多くもこの僕を誘ってくださったんだ。しかも今回は今までみたいに当日急に決まったわけじゃない、事前にだ! それだけで奇跡ではなかろうか!
しかもしかも、他の男ではなく、相手役にこの僕を選んでくれたんだ。きっと声をかけられたら喜んでついていく男どもはそこらにごまんといる。そんな中で、この僕を一番に誘ってくれたんだ。あぁ、大学に入って一生懸命くりちゃんを見守り、男を近づかせなかった甲斐があったぞ。
神様仏様くり様、今日まで僕を生かしてくれてありがとうございます。そしてどうかこれからも、愛しきくりちゃんの側にいさせてください。
「……という訳だから、土曜の正午、君の家まで迎えに行く。私の話聞いていたか? まぁいい、私は伝えることは伝えた。だからもう置いていくな」
はぁあ、楽しみだなあゴールデンウイーク。僕にとってはゴールドじゃ足りない、プラチナウィーク、ダイヤモンドウィークだよ。可愛いくりちゃんの隣に立って彼氏のフリができるなんて。欲を言うならフリじゃなくて本当の彼氏に……いやいや、そこは一歩ずつ着実に、だ。焦ったらリスのように可愛いくりちゃんが驚いて逃げてしまう。焦らず、ゆっくり、近寄っていくんだ。
「て、あれ? 神無さん、どこー! 置いていくなんて酷いよぉ」
そうして僕は次の授業に遅刻したわけだが、そんなことはどうだっていい。早速うちに帰ったら服を考えて、念のためお店までの行き方も調べて、それからーーん? そう言えば、いつ行くんだっけな。ま、いっか。いつでも出れるように準備しておけば問題ないな。
玄関のチャイムが鳴る、僕は待ってましたとばかりに扉を開いた。
「うわぁ、君が時間までに準備ができてるなんて、それはそれで気持ち悪い」
「なんていったって水曜日からこうして玄関で待っていたからね! 今日は七時から玄関にいたよ」
「私土曜日正午ってちゃんと伝えたよな。どうせ聞いていないとは思ったけど」
玄関でくりちゃんといつも通りの挨拶を交わしていると、奥から母さんが満足そうに微笑みながら出てきた。
「こんにちはくりちゃん。今日も啓也のことよろしくね。この子、暴走? 妄想? しがちだからしっかり手綱握ってあげてね。一緒にいるのがくりちゃんなら、全く心配はしていないのだけれど、一応ね」
母さん、手綱って……そんなすでに結婚前提のカップルみたいな例えやめてよ、恥ずかしいじゃないか。
「任せてください。啓也は夢見がちな暴れ馬みたいなものなので」
「あらあら、頼りがいあるわあ」
んー、なんか違う気もするけどまぁいいか。二人の仲が円満なのは僕も嬉しいよ。でもどうしてこんなに意気投合してるんだろう。共通の話題でもあったかな?
「では、予約の時間もあるのでそろそろ行きます。啓也、ちゃんと靴履いて、行くよ」
靴履いてって、やだなあ玄関の扉開けたのは僕なんだからすでに靴は履いて……て、あっ。扉を開けることしか頭になかったから、父さんのサンダル履いてた。さすがくりちゃん、よく見てるな。言われなかったら気づかずこのまま外へ出てたよ。
「神無さんは僕のことよく見てるなぁ。さすがだよ」
「啓也が自分を客観視できてないだけだ」
「やだなぁ、僕が一番神無さんのこと知ってるって、僕はよーく分かってるよ!」
くりちゃん、立ち止まってどうしたの。あ、分かった忘れも。
「だーかーら、そういうこと言うのをまずやめろ!」
…………。
そうして僕はくりちゃんとの小粋な会話を楽しみながら、目的のお店に行ってコーヒーとサンドウィッチを頼んだ。『カップル限定・GW限定 イチゴ溢れるホイップパンケーキ!!』は、当然くりちゃんが一人で平らげた。周りのカップルを見て気づいたけど、あれは二人でシェアすること前提のサイズだったんだろう。でもくりちゃんてば美味しそうに食べ切っちゃうんだもん。僕はその様子を真正面から見られただけで満足さ!
ちなみに、僕は奢るつもり満々だったのに、男前なくりちゃんは誘ったのは私だからと素早く伝票を持ち去り、一瞬でお会計を済ませてしまった。借りは作らない、とのことである。むしろ僕が奢られてしまった。くりちゃん可愛いのにかっこよくて素敵、僕の乙女心? がくすぐられちゃうよ。
というわけで、くりちゃんと僕は相変わらずいい距離で仲良くやってるさ。この距離がゼロになるのももう直ぐってもんよ。高校二年のあの日出会ってから今日まで、あっという間だったな。毎日くりちゃんのことを考えているだけで時間が過ぎてくよ。僕のくりちゃん(まだ未来形?)の可愛さをどう語っていくか、これからもっともっと研究しなきゃな。え、もうくりちゃんに惚れられてもいいのかって? ふっふっふー、昔までの僕とは違うんだ、舐めてもらちゃ困るぜ。くりちゃんを他の奴にやすやすと渡すわけないだろう。そのために日々努力してるんだから。僕ってば頑張り屋さん。
じゃあまた、機会があったら、僕とくりちゃんの惚気話を聞かせてやるな。
もう何も言うまい、と言う気分の私です。全ては彼に任せました。
熱い希望があったため『僕の一目惚れした子が〜』シリーズ(?)第三弾です。テーマはGW。なぜならGWに書き始めたから。ただし書き終わるとは言ってない。と言うわけで六月ですね。いー天気だなぁ。
この作品に関して私は何も言うことがないので、楽しんで笑って引いてくだされば十分です。ほんとに、起承転結すらない。
よければ気ままに感想など投げてください。高倉くんが調子に乗ります。
巷では彼がストーカーにならないか心配されているようですが安心してください。すでにアウトですから。ただ、害のないタイプなんです、おそらく。
それでは、また。
2017年6月3日(土曜日) 春風 優華