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メッセージ  作者: 柿崎スズ
16/20

I

昨晩はネットで東京行きの航空券を購入するのに色々あり、三時間弱もかかって疲労困憊したのち、就寝した。格安チケットをネットで買うには、根性と、本当に日本に帰りたいという強いキモチが必要だと知りました。




今日はイタリア最終日。小洒落た雑貨屋で尋太へのお土産にブリキでできた飛行機を買ったり、ウフィツィ美術館から見えたヴェッキオ橋を渡ったり(宝石店ばかりが並んでいた)、リーズナブルな洋服屋でブルー系のチュニックやイタリア語が書かれたTシャツを買ったり、老舗の紙屋さんでお爺ちゃん店主にチャオと挨拶したら、いやそうな顔を露骨にされたり。目上の人にはチャオは使わないのかもしれないとそのとき初めて気づき、このイタリア旅行で誰彼かまわずチャオを連発してきたことを反省し、旅行最終日にしてやっとボナセーラという挨拶を覚えた。


イタリアでの最後のランチは、ボンゴレスパゲティと、ずっと食べたかった本場のティラミスだった。どちらも美味しくて満足。


ホテルでのチェックアウトも済ませ、サンタマリアノヴェッラ駅でフィレンツェ=ペレトラ空港行きのバスに乗った。下調べもあまりできていなかったが、最も目立つバス停の列に並んでいた白人の家族連れにバスの情報を教えてもらい、わたしも後ろに並んで目的の空港まで乗せていってもらうことができた。




夕焼けに包まれるペレトラ空港から、ローマのフィウミチーノ空港へ飛び立つ。一時間弱の短いフライトだ。


飛行機が飛び立つとき、テヨンの『 I (feat. Verbal Jint)』を聴いていた。天まで伸びてゆくようなテヨンの気高く力強いボーカルと、バーバルジントのラップが大好きだ。はじめのうちは曲の雰囲気が好きだったけれど、歌詞を調べてみるとさらにこの曲に惚れこんだ。特にラップの歌詞が、自分のことを応援してくれている気がしてしまう。聴いていると邪念が消えていくこの感じ。




首都ローマには夜7時半に到着した。もうすでに街は真っ暗だ。空港から外に出てはいけないというルールも仕方ないと思える。


フィウミチーノ空港で土産物屋を物色していると、四十代前半くらいの眼鏡をかけた日本人女性に声をかけられた。わたしが日本人だと見た目で見破って声をかけてきたらしい。


彼女は一人旅でシチリア島に行ってきたと言う。のどかで田舎っぽくてゆるい時間が流れていて、よいところだったと。彼女の話を聞いて、今度はシチリア島に行ってみようと思った。


彼女はイタリア語で土産物屋の店員に話しかけ、おすすめのお土産を教えてくれた。乗る便は異なり、福岡空港に行くというのでそこで別れたが、とても気さくで親切な人だった。


年を重ねたら、彼女のようになりたい。イタリア語をマスターして、気軽にイタリア中を一人旅してみたいなあ、と思った。






少々迷ったのち、搭乗ゲートであるG11ゲートに到着した。




しかし、ここからが悪夢の始まりだった。


搭乗手続きがなかなか始まらないためその場にいたグランドスタッフに聞くと、わたしの便は搭乗ゲートが変更されたことを告げられた。


わたしはまたしても搭乗ゲートの変更アナウンスを聞き逃していた。


もしかしたら間に合うかもしれない、と言われ、ダッシュして教えてもらったG13ゲートに行くも時すでに遅し。そこに立っていた男性グランドスタッフに「プリーズ・レット・ミー・イン!プリーズ、プリーズ!」と懇願するも虚しく、断固として入れてもらえなかった。


拒絶されたそのときの絶望感たるや。




仕方なく空港窓口に行って事情を説明すると、じゃあ荷物を返すので取りに行ってくださいと言われる。指定されたベルトコンベアーに向かっていると、自分がつくづく嫌になった。


長い時間待つと、ボロボロの茶色いリュックがひとつだけ吐き出されてきた。それが虚しくベルトコンベアーを回っているのを、自分以外誰もいない閑散としたフロアでしばらく眺めていた。




アリタリア航空の受付窓口では、代替の飛行機は提供できないというニュアンスで言われ、他の受付窓口は閉まっていたため、明日乗る飛行機のあてもないままその日はフィウミチーノ空港に泊まることとなってしまった。


とりあえず人のいるところに行こう。一人じゃ寂しすぎる。不安だし。


レストラン付近に旅客が集まっていた。ギリギリの残金でペットボトルの水だけ買い、レストランのテーブルのうちのひとつで一夜を明かすことにした。


朝の十時にならないと窓口が開かないらしい。それまでの時間が長すぎる。空港にはホテルもあったが、金がない。


クレジットカードなど貴重品を持ってるからスヤスヤとは眠れない。なんとか起きていよう。夜勤で慣れてるはずだ。




あまりに暇なので、これまでの旅行の記録をつけることにした。今までの出来事、出会った人、見たものを忘れないように。


家の鍵に偶然付けていたキーホルダーのボールペンで、価値のなくなった三枚の航空券の裏面にビッシリと記録した(翌朝、グランドスタッフさんに、その何語か分からない文字で黒々とした航空券を見られてしまい、一目で分かるほどに引かれることになる)。


それでも暇なので、「これからすること」と「したいこと」リストを作成することにした。もらったレシートに、考えて書いてゆく。「これからすること」リストには、

・実家で休養を取る

・会社にきちんと辞表を提出する

・キミちゃんに会う

など。


「したいこと」リストには、

・英会話

・ピアノ

・実家の犬の世話

・施設のおばあちゃんたちとお別れの挨拶

・いつか、また介護の仕事

・統合失調症をテーマにした小説を書きたい

など。


自分がこれからしなければいけないこと、またはやりたいことが整理できて、心がスッキリした。




しかし夜中の四時頃になると眠気に勝てなくなり、テーブルに突っ伏して、よだれを垂らしながら眠ってしまった。

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