白鷺さん
触れられた手が温かくて心地よくて……私の体温も上昇してるかのように顔が熱い。
大きく厚い胸板に抱かれるとそれだけで安心して、いつまでもこのままでいたいと思ってしまうのは私がちょっと酔ってるせいなのだろうか。
涙はもう止まっている。
急に抱きしめられたので驚いて止まってしまった。
高遠さんはお料理も上手ければ女性の涙を止めるのも上手なのね……なんて思いフッと笑う。
首をずらし、高遠さんをチラリと見る。
視線がぶつかる。彼もまた私をみていたのだ。
気まずい雰囲気。なのに、視線を外すことができない。
フイッと視線をはずされた! 何故かショックを受ける私。
だけどすぐ、また高遠さんが視線を戻した為私の視線と絡みあう。
なんだろう。気まずい、ドキドキする、なのに、心地よい。
高遠さんの顔が近づいてくる……キスされる、と思ったが私は抵抗する気にもならない。
やっぱり酔ってるんだ。むしろ、この人とキスしてみたいと思うなんて……。
唇に柔らかい毛が触れ、頬に高遠さんの硬い髭があたる。
やっぱりこの人は獣人なんだなあ、と改めて思う。
高遠さんの長い舌が、私の舌を優しく撫でるように絡めとる。
――は……ぁッ……
熱い吐息。これが私の吐息なのか高遠さんの吐息すらわからない。
ピクリと動くビロードのような触り心地にふと気づく。
私は、何を……してるの!?
しっかりと高遠さんにしがみつき、手は頭を……というより耳を撫でまわし……何してるの! 私は!
ドンッと高遠さんを押しのけると距離をとる。
恥ずかしい……ッ! こんなつもりじゃ……こんな事するつもりじゃなかったのにッ!
驚いたように目を見開く高遠さん、そして……耳が頭にくっついてしまった。お尻尾も力なく垂れさがる。
あれ? 落ち込んでる? そうよね、高遠さんもそんなつもりじゃなかったんだ……私が、私のせいで!
私、この人に嫌われたくない……!
「た、高遠さん、私……あの、ごめんなさい……ッ!」
しょんぼりと頭を垂れ下げる高遠さん、ああ、今は何を言ってもきっとダメなんだ。どうすれば許してもらえるのかわからない。
だけど謝らなければ!
「私、そんなつもりじゃなかったんですッ! こんな……高遠さんを誘惑するような真似……」
ああ、恥ずかしい、恥ずかしすぎて涙がでる。
何度も言われてきたことなのに……『お前がみつめてくるから』『お前が誘惑してくるから』男はいつもそういいながら私に触れてくるのだ、私にそんな気がなくても。
「……は? ……え? ……誘惑?」
高遠さんが頭をあげ、不思議そうに私をみている。何を言ってるんだかわからない、そういった様子で。
私は高遠さんから視線を外す。恥ずかしくて顔がみれない。だって私はきっと。
「きっと、私……高遠さんの事が……好き、なんだわ……」
「はあぁぁ!?」
高遠さんの驚く声、そりゃそうよね。
ただの夕食をご一緒するだけの友達にいきなり『好き』だなんて言われても困ってしまうわよね。
ましてや、善意で誘ってくれてただけなのに。
もう、きっと晩御飯を一緒に食べる事はなくなってしまうだろうと思うと涙があふれる。
こんな時に泣くなんて卑怯だと思うのに。
「白鷺さんは……一体どうしたいんですか? 一体俺にどうして欲しいんですか? 俺は! 今、泣いてる白鷺さんを抱きしめてもいいんですか!?」
――私は。
私は、高遠さんとこれからも晩ごはんを食べたい。
いつもみたいに高遠さんと一緒に楽しい時間を過ごしたい。
高遠さんに
「抱きしめてくださいよぅ……」
抱きしめてほしい……。
――が。 高遠さんは私に触れず、玄関に向かう。
「送ります」
馬鹿な私にもわかるぐらいはっきりとした拒絶。
高遠さんの顔は怖くてみれない。かすれたその声からは感情をくみ取ることもできない。
無言で二人歩きながら私のアパートに向かう。
そして。アパートが見えた時、高遠さんの足がピタリと止まった。
「おやすみなさい、白鷺さん。……明日からは、晩ごはんは違う人と食べてくださいね」
そう言うと振り返る事なく……足早に去っていった。あの獣独特のしなかやさで。
「……おやすみなさい」私の声が聞こえたかどうかはわからない。それは声と言えるほどのものではなく、ただの呟きだったから。
そして。
「さようなら……」
あ、そういえば。
カレー、結局一口しか食べれなかったなあ。
サラダにも、スープにも手をつけてない。あれは生ゴミにされちゃうのかしら。
そんな事を考えながら。
私は自分のアパートにゆっくりと歩きだしたのだった。
今回短く。そして次回も短い。たぶん。方向性が変わってきてるので修正したいところ。




