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A10話 無音の歌劇場

 今日は真歌が自分の新曲を歌うからコンサートホールに来て欲しいと、願い出た。

 竹男は真歌の歌がとても気に入っていた。

 あの歌は人の心を優しくするし、不安にさせるし、ドキドキさせるし、しんみりさせるし、それでいて真歌みたいでとてもいい、それに可愛いし美しいと感じる。

 竹男は真歌の歌が最高の楽しみとなるであろうと感じでいた。

 午後四時無限コンサートホール。人がいる。しかし誰も騒いでいない。いや、いくらなんでも静かすぎる。

 何かあったのかと、思い、竹男はコンサートホールの特設ステージを目指す。

 みないる。だが、おかしい。みな微動だにしない。まったく動かない。まるで人形のように止まっている。


 その無音と化した歌劇場で真歌は確かに存在していた。

 彫刻となってしまったかのように、無機質な表情に変質した可憐な少女の体のあちらこちらを触り、匂いを嗅ぎ、視姦する変態と言えるであろう、変質者がいた。

 竹男はすぐさまにステージ上にあがり、男に向かって右の鉄拳を御見舞した。

 吹っ飛ぶ変質者。だが、痛みを受けた割には大したことがなさそうだ。

「お前……真歌に何してんだ」

 男はやれやれと言った感じで立ち上がり、顔を拭い服をはらい身なりをただす。

「なんだいせっかく楽しんでいたのに……もっと凄いことをやってやろうと思ったのに」

 その男は一見すると優男のように見えるが、よく見ると気持ち悪い性格がにじみ出るように雰囲気がおかしい。

「やれやれだよ…………ぼくの邪魔をするなら君も人形に変えてあげようか」

 目がお互い合う。その時何かの力の塊が竹男のほうに介入してくるような意識を感じた。

 だが、竹男はその自由を奪いとる感覚に抵抗した。

 その抵抗する時に受ける痛みは歯を食いしばるほどだった。だがそれでも抵抗した。耐えて見せた。すると男は呟く。

「ぼくの人形化支配マリオネットコントロールを防いでいるだと……? こんなことは初めてだよ。驚いたよ誰であろうと効かなかった相手はいなかったのに」

 髪が天然の癖毛で微妙に茶色がかった男は竹男に対する評価を変えてやろうと内心思っていた。

 男の名前は夢暁操太むぎょうそうた。年齢16、彼女いない歴16年のやつ。優男だけど、決して別にイケメンではない。それでいて性格は最悪で女を物と考えている。今まで気に行った女を見つけたらストーキングして自宅を特定して家に入ると同時に人形化してその女を余すことなく堪能してすきにして、自分の色に染める。もちろん女は覚えていないがあえて屈辱的な写真を撮りまくり、それをネタに強請り、その女を自分の言うことを聞かせる奴隷とかしてきた。

 操太はそうやって女を自分の物にしてきた。とても痛快だった。しかも主に大抵はかなり年端もいかない少女、具体的に言うと中学低学年から小学高学年までの小さい女の子までだ。

 そんな外道の操太は自分でもそろそろ飽きていた。女の体は手に入れても心までは手に入れられないそう感じていた。

 だから、何度でもその非道な行いをやめられないでいた。

 今回もレアな小学生歌手が可愛かったので堪能してやろうと思った。

 だが、護衛のマネージャーらしきやつが隙が無く、とても能力を使用して女を支配することができなかった。

 だが、衆人監視という状況こそが逆にチャンスだった。こういう人ごみのある状況こそが操太の本領発揮だった。

 操太は一瞬の隙をついてマネージャーの眼を盗み、マネージャーを人形化した。

 そしてステージで一人になった真歌をゆっくりと人形化して自分の玩具にした。


 しかしそこで操太の誤算はたった一人の人物を見落としていたことだ。

 竹男がここに向かっていたことが操太の誤算だ。

 竹男はこのクズ男を絶対に許さないだろう。

「真歌から離れろ―――――――!!」

 殴りかかる竹男、操太は咄嗟に引く。竹男は操太に殴りかかる。右手のストレートが決まる。吹っ飛ぶ操太。操太はそれでも立ち上がり、血を口から飛ばす。

 竹男は直ぐに真歌に近寄り、呼びかける。

「真歌! 真歌! しっかりしろよ、どうしたんだよ! 眼を覚ましてくれ!!」

 虚ろな真歌の瞳。まるで何もない荒野のように乾いた眼の色だ。

「真歌……真歌お願いだ、眼を覚ましてくれ。お願いだ……」

 竹男の懇願は届かないのか、真歌はピクリとも動かない。

 操太が発言する。


「馬鹿な奴だな、僕の能力の対象なんだから僕が解除しないかぎり元に戻ることは無いよ」

 心底人間を蔑むような侮辱を込めた眼力で竹男を嘲笑う操太は痺れるような声で竹男を煽る。

 竹男は今にもこいつに飛びかかってボコボコにしたいという衝動にかられたが、今は真歌をなんとかして復活させることが先だと思い、思いとどまった。

 なんども呼びかける。呼びかける。それでも真歌は反応が無い。真歌の内世界は黒に覆われていた。

 真歌の虹色の鮮やかな心世界は操太の能力により汚染されていた。

 黒と茶色の駄色の愚息な力によって。真歌はその世界で眠っていた。

 すやすやとではなく昏睡的な病的なほど体力を抉られている状態で。

 真夏の熱中のコンクリートの上に放り出されたような、鉄板の上で焼かれる魚のように熱く、それでいて極寒のような冷たさを持って心を封じ込められたように心を鷲掴みされた。

 真歌はその内包世界でなんとか目覚めようと蠢いていた。

 ここはどこなの……? あれっ? どうして私はここにいるの?? わからないよ……誰か教えてよ………………誰?? そうだ誰だったんだろう……? 思い出せない。


 闇に侵食される真歌は心を切り裂かれていく。記憶さえも一時的に奪われた。真歌はそれでも何かを思い出そうとする。

 辿り着く、そこまで辿り着ければわかる…………あの人は……力強い眼で私をいつも見てくれて、やさしい声で話しかけてくれる。

 いつも私と一緒にいてくれるし、どこまでも一緒に来てくれると思う。でも今離れていくようなそんな気分だ。

 苦しい、苦しい……嫌だよ、行かないで、行かないでお願い! 待って離れないで○○○!!

 何かが心から抜け落ちた。その何かは名前だ。顔も歪んでいて見えない。でもあの人への感情は抜け落ちないでいた。

 真歌は心の闇を振り払おうとする。心の光を取り戻すために自分の虹色の心力を上昇させる。

 爆発する心の感情と光と意識、色が戻る。

 無限の色が真歌の心に戻っていく。映し出された螺旋のような輝きの光。真歌は虹色の道を夢中に飛び回っていた。

 なんだろう……凄く楽しいな。よかった、よかった思い出せたよ。竹男……


 その時真歌の眼に光が戻る。

「真歌!! よかった眼を覚ましたんだな」

「竹男。おはよう……」

「なんだと、僕の人形化を破っただと自力で!?」

 操太は驚愕だった。なにせ今まで自力で破られたことなどなかったのだ。

 それだけ自分の能力を過信していた。


 竹男は真歌に言う。

「あの野郎を倒さないといけないから真歌は逃げろここから今すぐに」

「嫌」

 即答だった。

 一呼吸おいて真歌は自分の意見を言う。

「私も援護する」

「またあいつに人形にされたらどうするんだ?」

「もうならないよ絶対」

「よし。真歌ならそう言うと思ったよ。じゃああの糞野郎をぶっ倒すか二人で」

「竹男……進化の歌を歌ってあげるからあいつを倒して」

 竹男と真歌は手を繋いで決意を新たにする。


 操太は何をするのかこの後はどうしようかそんなどうでもいいことは考えてない。

 ただあの二人をなんとかしないとここで自分は終わるとだけはわかった。

 やるか、全力を出して障害は排除しないといけないなと操太は考えた。

 操太は人形化したその他の人形を操った。

 竹男達に人形が迫る。

 竹男はそれを払いのけた。

 竹男は駆ける、ぶっきらぼうだがそれなりに様になる走りで迫る敵に。

 そして右手のパンチが炸裂する。

 後ろから真歌は歌う。綺麗な力強い声で竹男に与える力を。

 操太は唐突に奥の手ではないが別の手段を使う。


 電磁波をぶつけた。竹男は少し体が麻痺する。

「ぐっ?? なんだこれ!? 体が痺れやがる!!」

 操太は内心安堵した。やはりこれは効くんだなと。

 操太は電気能力者のレベル3でもある。

 つまり操太はツインスキルブレイカーだ。

 二つの能力を持っているものの俗称だ。

 だがあくまでもレベル3なので強力な電気で攻撃はできない。

 超近接でショックガンのように相手にそこそこ強烈な電気を浴びせることができると攻撃能力は遠距離だと電磁波程度に限られる。

 だが、操太の電気の能力はそこではない。人形化との併用だ。つまり人形化した人だった物に命令を与えるのに本来は口で命令しないといけないところを電磁波を経由して思念波や自動操作などを設定した命令波を送り操れる。

 それが操太の強みだった。だが、その優位性を上手く発揮するには操太の実力不足が足を引っ張るのだった。


竹男は痺れた体を真歌に癒しの歌で直してもらう。

「ありがとう真歌」

「がんばって竹男」

 竹男はありえないスピードとまではいかないが高校生とは思えない尋常な素早さで操太に迫る。

 そして右手を構えて、まっすぐと放つ。

「うぜえ」

 左手を掴んでそのままスタンガンのような電撃を浴びせようとする。

 だが、出ない電撃が……何故だ? と操太が考えるより先に操太は竹男に一発入れられた後だった。


 竹男は何か不思議な感覚だった。そういえば右手がいつもより熱いしなんかこそばゆい。

 それに右手もそうだが左手もなんか溢れてくるような何か力を感じる。


 操太は電磁波を隙をついて飛ばした。咄嗟に左手で受ける竹男。するとなぜか痺れない。

 操太は眼が点になった。何故効かない何故だと操太は疑問に満ちていた。


 竹男も左手で相手の能力による攻撃を受けたのになんともない。竹男もよくわからないでいた。

 しかし左手で受けたら効かないということをなんとなく理解したので相手の攻撃を左手で受けようと考えた。

 そして右手に竹男は力を籠める。右手に力を籠めれば籠めるほどなんだが力が上がっていくようなそんな感覚を覚える。

 そしてありったけのパワーで操太を殴り飛ばした。

「ぐあああああああああああああ!!!」

 操太の体は遥か後方の壁際のほうまで飛んでいきぶつかる。

 そして操太は物凄くダメージを受けたように体を引きずりながら立ち上がそうとするが立ち上がれない。

 ダメージが蓄積してきたようだ。

 そして竹男は操太に近づき、腹に向かって右手を振り下ろす。

「ぐはっ!!」

 腹を抑える操太。竹男は怒りに満ちている。竹男の感情は今怒りだけだ。

 顔面を殴る。

 もう一度殴る。

 おまけに顔をもう一度殴る。

 操太は気を失った。


 これにより人形化した人たちも元に戻った。事情を全て説明してアンチサイキックに連絡して操太はそのまま連行された。

 かくして一人の超能力者が起こした事件は終結した。

 だが、数日後操太の姿はどこにもなかった。

 行方を眩ましてしまった。今はどこにいるのかわからない。

 指名手配された操太の行方を知る者はいない。


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