54話 アマト対テルネアス
能力ファイトが始まる。
練習試合なのでポイントの増減はない。
時間制5分勝負のようだ。
わたしは勝負の準備をするために自身の能力を使用する。
能力名『踊り革命』。
それの付属の能力、踊りの星を一つだけ使用する。
踊りの星は自身の全ステータスを上昇させる力の結晶のようなものだ。
わたしの能力は踊ることで力が溜まり、踊りのエネルギーが自身の全ステータスを上昇させるパワーアップの元となる。
30分全力で踊ることで、踊りの星が一つ貯まる。
わたしは星を最大100個ためることが出来る。
それらを一度に使う量で力の度合いが変わるのだ。
星一つで15分の間全ステータスを少しだけ上昇させる。
7分半に短縮する代わりに、全ステータスの上昇率を二段階上げることもできる。
一段階の上昇率で全ステータスの値が1.25倍に上昇する。
二段階だと1.5倍。
三段階だと1.75倍。
四段階だと2倍。
五段階だと2.5倍。
六段階だと3倍。
七段階だと4倍。
八段階だと5倍。
九段階だと6.5倍。
十段階だと8倍。
それ以降だと0.5倍ずつ増えていく。
そして星を一つ消費するごとに5分ずつ効果時間が伸びる。
星10個だと60分、1時間だ。
そしてここからが本領発揮だ。
星10個を一度に一気に消費して使用すると……踊り革命となり、自身の全ステータスをなんと20倍に上昇させる。
20個だと40倍つまり×2だ。
100個だと……試したことないからわからない。
わたしは練習試合とはいえテルネアス様に情けないところは見せたくない。
わたしの強さを見せつけてあげるんだから!
そして7分半の上昇率二段階を選んだ。
これにより1.5倍の上昇率だ。
本気はピンチになった時までだ。
テルネアス様は銃を既に構えている。
そのまま微笑むようにこちらを見ている。
さあ試合開始だ。
テルネアスはトールRA0680を抜いた。
そして防壁破壊の効果を付与した弾丸をアマトに撃ち放つ。
刹那アマトは右に低く移動して躱し、そのまま星を一つ消費して自身の全ステータスをさらに二段階上昇させる。
そのまま時速30キロほどで近づいていき、ブレが生じる動きでテルネアスに迫る。
テルネアスは狙いを定めて、かつ冷静に残酷なほど冷淡に冷めた眼でアマトを見ている。
テルネアスは最初これは練習試合と言った。
だが、アマトの動きが尋常じゃないほど素人のものとは思えなかった。
だからテルネアスはそんな彼女に期待した。
この娘は私を奮い立たせてくれるかもしれない。
あの時もこんなことはなかった。
自分より下の人間を見ていると……くだらない。
上の人間を見ていると……あなたは私よりどうして優れているのか?
などと謎の疑問が生じる。
上下は別に学歴とか頭の良さとか腕力のあるなしとかではない。
その人の器、もとい人間の生命としての限界まで努力したかどうか……いやどうなんだろうか……わからないかな。
テルネアスは未だに様々な書物を読み漁ったがまだ真理には到達していない。
いったい何年、何十年、何百年ぐらいだろうか……自分の肉体的年齢から逸脱してしまったのはいつからだろうか……
それは彼女が眠りだしてからだと確信はあった。
起きないと知った時、テルネアスは号泣した。
毎日家で自分の部屋で泣いた。
神に祈った、毎日神社に行き何回も彼女を起こしてくださいと頼みこんだ。
本に彼女を起こす方法がないかを調べてこの世のありとあらゆる本を読んだ。
全て無駄に終わった……
悲しみに暮れたテルネアスはもう諦めようと一度思った。
だがそんなことを……諦めていいのだろうか……嫌だ! そんなの嫌だ! とにかく嫌だ!! テルネアスは諦めなかった。
そして依頼をこなして、お金を貯める毎日。
能力ファイトもこなしてランキングを上げる毎日。
今に至る。
テルネアスの強さは未だに眠る彼女を目覚めさせるための、死ぬ気で救いたいと思う心が実現させたようなものだ。
それもあるがもう大切な存在を失いたくないから……テルネアスは強くなることを決めたのだ。
テルネアスはアマトの尋常ではない動きを見て彼女の力をもっと見たいと思った。
「おもしろい……ならば私もちょっとだけ力を見せてあげるね…………アマトあなたの力を……もっと知りたい!!!」
「!!?」
アマトは寒気を感じた。
なぜならテルネアスの雰囲気いやオーラの質が異常に変化した。
先ほどまでは穏やかだが力強い紫のしなやかなそこに雄大に佇んでいる月のような不思議な天体のようなオーラを放っていたのだが。
今度は一転して闇のような漆黒の瞳に変化して、こちらを不気味な笑顔で見ている悪魔的もしくは紫の宝石に魅せられたミステリアスな魔女のような狂喜の人。
行動がまったく予想できない。
アマトはテルネアスのこの後の行動をまったく予測できないでいた。
いったい何をするのか……不安だけが襲い掛かるほど今の彼女は何故薄ら笑いをしているのか。
「ふっふっふっふふふふふ…………さあ……楽しもうかアマト……これを躱せるかな?」
刹那放たれる奇弾。
それはカーブを描く軌跡でアマトに吸い込まれるような速度で襲い掛かった。
アマトは咄嗟にトンファーで防御した。
カチン! 弾はトンファーに阻まれあらぬ方向に弾け飛ぶ。
そしてそれが地面に落ちた瞬間異変が起きた。
弾が謎の物体に変化した。
それは紫色でふわふわ飛んでいて、かわいい感じでまるで猫のようなでも普通の猫より全体的に丸い。
なおテルネアスはこの丸い猫にふわにゃんと名付けている。
「ふわにゃん……いって…甘噛み攻撃!!」
「にゃにゃ~ん☆」
アマトはなんだこれどういう攻撃なんだろうと内心疑問に満ちていたが、とにかく未知の攻撃はなんとかしないといけないと思い、迫るふわにゃんをトンファーで叩き潰そうとした。
しかしふわにゃんはそれを躱して無事にアマトに甘噛み攻撃が成功する。
「なにこれ!? ……あれ痛くないけど……ちょっとまってなによこれ!?」
なんだがアマトガ股を抑えたり、胸を触ったりしている。
「ふぁ……ん…ん……んんっ!! 駄目なにこれぇ……なんだがおかしいよ……体が火照って凄く気持ちいい……小股がじんじんするよ~胸が敏感になってる~あぁ~~~んんんっ!」
「とまあ冗談はこのくらいでいいとして……」
「冗談かよーーー!!」
「怒っちゃった?」
「流石にわたしでも怒るわよ……」
「じゃあ本気出して?」
「な…に……?」
「だから本気出してよアマト……全然本気出してないじゃないあなた」
「そんなことないよまあまあ出してるわよ」
「嘘だ。そんなことないよ。まだまだだよ。これじゃあ私はあなたの力を測ることもできない」
「ならこれでどう?」
そうしてアマトは星を追加で四つ使った。
これで時間は追加で10分追加し、八段階上昇し、合計十段階の上昇になる。
全ステータスがこれで8倍だ。
さあこれでも本気じゃないと言うのかテルネアスは。
アマトは俊足のスピードでテルネアスに迫る、そして体を縦横無尽に揺れ動かしてだんだんと距離を詰める。
まるで将棋の攻め手のようにぐんぐんと迫るアマト。
そのまま王手かと思われた。
紫の銃姫は微笑んだ。
まるでこの世界の全てを愛するかのように……
月夜に浮かぶ湖畔の湖をバックに月影に妖しく映る姫君のように……
それは美しかった……
その美しい獲物の奇跡のような軌跡を放った弾丸はアマトの右肩と脇腹と左膝を打ち抜いた。
「ぐわっ!?」
アマトはそのまま膝をついた。
そして直ぐに動けないままになり、そのまま転がるように移動して距離をとる。
だがまだ闘志は捨てていなかった。
このままでは負けてしまうと弱音を吐きそうになるが、まだ諦めていなかった。
使うか……踊り革命を。
アマトは踊り革命を使用した。
これは星を合計十個使用するとなる状態だ。
全ステータスを20倍にする。
20倍だとてつもないものだ。
使った。
そして久々の高揚感と共に力が溢れてくる。
アマトは現時点で最強の状態になった。
テルネアスは瞬間的に弾をリロードしてそのまま音速の速さで弾を撃ち出す。
放たれた弾丸は7発。
これを1秒で撃ち出したのだテルネアスは。
この拳銃はフルオートではない、セミオートだ。
それを1秒で7発もの弾丸を放っているのだ。
どう考えても普通ではなかったテルネアスは。
まさに銃の達人と呼ばれても差し支えないものである。
しかしその達人の弾をアマトは躱した全て。
その動きは尋常ではなかった。
20倍の敏捷により行われた極限までの動きだ。
瞬間的回避速度は時速300キロは到達している。
そんな人智を超えた闘いも終わりが来た。
何回もの弾の撃ち合いと回避の連続で、アマトは結局攻めきれずに時間切れになったのだ。
結果テルネアスの勝利である。
これによりアマトは悔しそうにしていたが。
「アマトあなたのことがますます気にしているから。今度は私の家に来てね明日にでも」
「今から行って泊っても良いですかお姉さま!」
「お姉さま?」
「これからはお姉さまとお呼びしても良いですか……?」
「別にいいけどどうして?」
「かっこよかったからです!」
「そう…ならいいよ」
「ありがとうございます!」
アマトとテルネアスはますます仲良しになった。
アマトのステータスランク
腕力:E 守り:D 敏捷:B 器用:B 頭脳:C スタミナ:S PE:A 幸運:D 闘志:B




