51話 怠惰生高校にて 1
四月の入学式から約二週間が経った。
ここは国立帝桜大学付属異能科高等学校だ。
俺はここのしがない学生で高校一年生の本常美理という。
俺の妹の本常美来ただし血は少ししか繋がってない。
正確には俺の遠い親戚だったが、美来の両親が事故で他界したので俺の両親のところに引き取られた。
今から八年も前のことだ。
そのとき美来は今よりだいぶ小さく、かわいかったな。
でも最初は俺のことをあまり信頼してなくて警戒していたが、徐々に慣れていった。
そして今は俺のことを「お兄様」と呼んでくるくらいでかなりのブラコンに育ってしまった。
だが俺はそんな美来を無碍にできず、甘やかしている。
そんな美来と俺がここに入学したのは約二週間前に遡る。
その時の話をしようと思う。
あれから大変なことが起きたな~マジで大変だった。
「お兄様起きて下さい。朝ですよ」
「んっ……もう朝か……」
そこには可愛いらしい我が妹の姿があった。
もうパジャマから高校の制服に着替え終わっている。
「今日は私が当番でしたよね。それでは腕によりをかけて作らせてもらいますね」
そうして朝ごはんがものの十分ぐらいで出来上がる。
なに、そんな難しいものではない。
トーストに、コーンスープ、サラダに目玉焼きだ。
こんな簡単な朝食だが可愛い妹が作ったんだ不味いわけがない。
俺はそれを味わいながらゆっくり食べたいところだが、少しだけ高校の入学式にまだ余裕があるが遅れたら不味いので少しだけ急ぎ足で食べる。
「本当に美味しいな美来の作る料理は」
「ありがとうございますお兄様。でもそんなの愛の力があるからこそですよお兄様!」
少しだけ語尾を強調した我が妹だが、なんだろう視線が少しだけ怖いと感じるな。
だが気のせいだと思い、俺は飯を食べる。
そして制服に着替えて、準備を整えて、靴を履く。
そして一緒に登校する。
高校までの道のりは平たんな物だったが、それを苦にするほど愚かではない。
宇宙一可愛い妹が俺の隣にいるからだ。
そんな可愛い妹が俺の一番の自慢であり、一番大切な存在だ。
あの事件から二年がたつが、未だ妹は夜中に俺の部屋に来て、一緒に寝ても良いかと尋ねるぐらいだ。
そのときの妹の顔は心底世界に絶望しているが、一抹の不満こそはあるが俺のような不甲斐ない兄貴をなんとか頼りにしているような気がする。
もちろん流石に一緒の布団では寝ないがな。
そんなことをしたら理性が持つかどうか。
だから布団を少しだけ離して、両隣になるようにして寝ている。
たまに手を繋いでくることがあるがその時の手は冷たく、やわらかくがあるが寂しそうな感情が感じ取れるような気がする。
妹は寂しがり屋なのかもしれない。
そんな妹のことを色々と考えていると漸く高校についた。
ここが国立帝桜大学付属異能科高等学校。
通称異能高校だ。
その異能高校に春から入学する俺達だが、事前に情報を色々と噂で聞いていたがとんでもないほどここは異常だが、普通の高校に見えた。
ここに入学するには一つだけ最低限に満たさなければいけないことがある。
能力者であることである。
そうなのだ、異能科高等学校と書いてあるようにここに入学するには能力者でなければならない。
どんなに弱くても低くても最低でもレベルは1あればよいのだが、能力者ではない無能力者や否能力者はどんなに頭が良くてもこの高校に入学することは許可されていない。
それがこの高校で生きるために課せられた決まりだ。
そしてそれらが物語ることはまだある。
「そんな……お兄様と離れ離れなんて」
クラス分けである。
我が妹の美来は一年S組で俺は通称地下クラスと呼ばれている一年E組に入ることがどうやら決まっているようだ。
なおS組は天空クラスとも呼ばれているようだ。
クラスは一年から三年まで全てで全部で六クラスある。
S、A、B、C、D、Eの六クラスだ。
そして上から順番に三つのカテゴリに分かれる。
天と海と地だ。
Sが天空、Aが天上、Bが海上、Cが海中、Dが地上、そしてEが地下である。
このように呼び名のように生徒の優劣を大きくだと三つに、細かくだと六つに分けているのであるこの高校は。
カースト制度の復活だなと俺は驚きもせずにこの高校の異常性に感服する。
だが俺はそんな高校に何故入学すると決めたのかと言うと。
この学校では能力者に対する能力の全ての事象を扱えるようにするいわゆる能力者のための高校。
簡単に言うと、能力を効率的に運搬する方法を教えてくれる現在では数少ない高校だ。
本来大学の異能科や能力科に行かないと教えてもらえないことをこの学校は高校の間にそれを叩きこんでくれる。
そんな魅力的な高校に俺は魅了された、長らく自分の能力に限界を見据えてきたが、俺は妹を守るためならプライドさえ捨てる。
だから俺は最低からのスタートですら問題なかった。
そしてこのあと入学式が開かれた。
特にやることはない適当に抜け出して、本でも読むか。
俺は入学式の新入生の祝辞の最中に体育館をこっそり抜け出して木陰で本でも読もうかと思った。
だが、唐突に邪魔が入った。
「ねえ、あなたこんなところで何しているの?」
「読書」
「今は入学式の真っ最中だというのにあなたはそれでも学生なのかしら?」
「そういうあんたは?」
「私は3年S組の洸善文愛と申します。ついでに生徒会長を務めていますね一応」
「一応?」
「殆ど副会長にまかせっきりでね、やることはやってるのよ」
「なんだが、自由な生徒会長だな」
そう言うと文愛は俺に少し近づき、デコピンを放ってきた。
「ちょっいてえな何すんだいきなり」
「バカにしないでくれる。やることはやってると言ったじゃない」
「別に馬鹿にしたわけではないが……」
「そういう眼で私を見たでしょ今」
内心少しだけ俺はこの生徒会長をお子様だと思った。
それは見た目的な意味もあるが、実際身長はうちの妹の美来よりだいぶ低く身長はたぶん140センチ台だろうと思われる。
だが逆に胸はそれなりにあるのかまあまあの膨らみが見られる。
「今どこを見たのかしら?」
「さあな」
俺はあえて視線をそこから直ぐには外さずに、自然に生徒会長の目を見た。
敵意のない目線をを送る。
「そういえばなんであんたはここにいるんだ?」
「見回りよ校内に不審者がいないとも言えないからね」
「不審者そんなのいるのか?」
「この学校は色々と狙われる要素があるからね生徒会長である私が直々にね」
「あんた強いのか?」
「それなりに体術を会得しているし、まあまあ強いわよ? 能力も反則級だと同じ生徒会の仲間に言われるくらいだし」
「何の能力だ?」
「それは秘密ね今は……それより美理君の能力を少し教えて欲しいなと思うんだけど……? 駄目かな?」
「もちろんこっちも秘密だ」
「だと思った。じゃあそれじゃあこの後の自由時間でクラブに入るか生徒会に入るか決めたらうちの生徒会室に来てくれるかしら精巧な贋物さん」
「!??」
俺はいきなり俺の能力名を言われて動揺してしまった。
この文愛とか言う幼女巨乳は何者だ。
俺が内心動揺をしているであろうところに文愛は唐突に声をかけてきた。
「どうしたのもしかして自分の能力名を言い当てられただけで動揺しちゃった? でもこれだけじゃあ何の能力なのかまだわからないわね」
そう言うと同時に俺に近づいてきて、俺の手を握った。
「まさかお前の能力は……」
俺は今気づいた。こいつの能力は触れた相手の情報……たぶん記憶を読み取る能力だな。
「残念おしいわね。記憶と記録と思考とか色々わかるわよ」
「なんだと!?」
「人だけではなく、物の記憶とかも読み取れるのよ古いものの持ち主の情報までね」
「そんなの反則じゃねえか!!」
「あら、あなたの能力もかなり反則じゃないかしら?」
「ってしまった掴まれたままだった。離せ! 生徒会長!」
俺は離そうとしたが、手は関節をきめられているように動かなかった。
何だこの掴み方は!?
「剛牢掴みと呼ばれる神威流合気柔術の技の一つよ」
「俺だって大明理流戦仙武闘術を習ってるからこれくらい外せ……」
外せないだと!? 不味いこのままだと俺の能力やあのこととかがばれる。
「何々………………能力はともかく美理君あなた昨日妹さんが寝静まった後にあらかじめ落としていたエロ動画で抜いたのね……男の子はこれだから……」
いい。これはいいのだ。別に男なんだから何で抜いたとかおかずの選別なんてされても問題ない。
だが、あの事だけは。
俺は仕方ないので能力で脱出することにした。
精巧な贋物発動。
まずは風力系の能力者の能力を俺のスキルフォルダーにコピー。
そして能力を使用して風力系低位異能技『風圧波』で文愛を吹き飛ばした。
文愛は着地を見事に成功させた。
しかし顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「そういうことね……美理君は相手の能力を模倣する……というよりコピーできるのね」
「正確に言うと違うな」
「あらどういうこと?」
「そこは自分で考えろ。俺が答える義務はない」
「そうね。あなたの趣味とか性的思考とかを読むのに夢中で美理君の能力にまで考えが回らなかったわ。まあいいわ。それじゃあ美理君後で生徒会室に来てね歓迎するわ」
そうして俺の前から去っていく文愛先輩。
なんともやっかいそうな先輩に秘密を握られた。
やばい。
美来に俺がおかずで抜いていたことばらさないよな……
嫉妬で俺と口を暫く聞いてくれないとかよりも……竹刀でボコボコにされるかもしれんな。
俺はこの日は気が気でない一日だった。




