39話 マジックバトル・オンライン 12
39-1「ひょんとした出会い」
俺とルカの二人だけのパーティーは現在58階層の町に停泊しているところだった。
そこでは毎日がお祭り騒ぎで、なんとも騒がしいが愉快な町だった。
俺達は宿屋で適当に休んでいたが、暇なので俺は出かけることにした。
なお宿代を節約するために俺とルカは同室だった。
別に宿代が特別高いと言うわけではないのだが、ルカが一緒の部屋がいいと言い出したので一緒の部屋に泊まることにした。
もちろん、俺は変な気を起こす気はないぞ。
相手は一応女の子だし、ここは紳士的に振る舞わないといけないからな。
ましてや一緒の部屋をいいことに着替えを覗いたり、風呂を覗いたりなんて間違ってもしないからな。
もちろん絶対しないからな。ラッキースケベとかあるわけない。
俺は自分に言い訳しながらこの状況に少しドキドキしながらも内心、女の子と同じ部屋? 俺は耐えきれるのだろうか? などの不安要素もあるが、実際慣れてみれば楽なもんだった。
着替えは基本着替える時は壁のほうを見て目を瞑り、絶対にこっちを見ないでねと念押しされたルカに。
俺が着替える場合も同様だ。
ルカは俺を背にして壁のほうを見て目を瞑り、じいーと動ないでいた。
なお着替えるとは普通の冒険者服だとなんかあれなので、町とかで行動するときはお洒落な格好で行動することにしている。
ちょっとしたお遊び感覚なのかもしれない。
いわゆる着せ替えというオンラインゲームの遊びの要素を取り入れているんだろう。
寝るときはパジャマにも着替えられる。
俺は上はストイックな水色のポロシャツで、下はカジュアルな長めのパンツだ。
ルカはと言うと、これはヤバい。
上はピンクを主体としたふわふわに見える薄手のシャツで、どうも下着を外しているのか胸が……シャツにぴったりとくっついているように見える。
柔らかそうな乳房がなんか浮き出ているように見えるのは気のせいだろうか。
そして下はこれまたピンクが主体のショートパンツだった。
ルカのスラリとした綺麗な色白の足が窺える。
これまた色々とヤバい、ついうっかり手を伸ばして触りたくなるような美しい足だった。例えるならベルサイユ宮殿の柱のような長々とした立派なものに見えた。
俺達はそれぞれの自分のベッドに入り就寝する。
その際なんかルカが時折ごそごそといつもふとんの中でうごめいているが何をしているんだろ? 俺はそんな疑問が出るが、すぐにどうでもよくなり寝ることにした。
そして次の日。俺は徐に一人でルカに黙って早朝外に出た。
時刻は午前5時。まだ朝日が出て間もないとこだった。
俺は町の端っこにある、喫茶店を訪れた。
ここは毎日5時から開いているのでいつも早く来る。
俺は朝のコーヒーを頼む。なぜ俺はわざわざこんな町はずれの喫茶店に来たかと言うと、ここのコーヒーが宿屋で出るコーヒーよりよっぽどと言うかかなりいや今まで飲んだことない美味さだった。
ゲームの世界でも店によって味の差があるのだ。
俺は数日前ここの喫茶店にふっと誘われるようによってしまった。
それから毎日通うようになってしまった。
ここのコーヒーは文字で表すのも難しいと思われる。
まず豊潤で、清らかな水でコーヒーを抽出しているだろうと思われるほど透き通った色で、コクがあり、たまらないほど味がしっかしていて、しかしそれほど苦くなく、誰でも喉にすっと入る美味さだ。
俺はこの店のコーヒーに魅了されていた。
そして今日も俺はこの店のコーヒーを飲みに来たのである。
喫茶店の外観は緑を主体とした景観で、ときより造花が店の周りに添えられている。
花はバラとかスミレとかひまわりとかアジサイとかさまざまだ。
それでガラス張りで、中が見えるがお客さんが既にいた。
どうやら女性のようだ。俺は普段通り入るとマスター(NPC)に挨拶する。
「やあマスター、元気にしている? 俺は今日も元気だよ」と言う。
するとマスターはこう返した。「やあタケオ君……今日も朝から元気だね。儂はちょっと気分が優れなくてね。今いつものコーヒーを入れるからね。待っててくれたまえ」と確かにいつもより気が乗らない返事するマスター。
マスターどうしたんだろ? 何か悩み事とかあるのか? 精神的な物だろうか? と俺はなぜかNPCの心配をしてしまう。
そういう風にプログラムされているだけなのに。俺はなんとも騙されやすい性格なのかもしれん。
それよりもだ、端っこのほうにあるいつも俺が座る席があるのだが、そこに真っ赤な灼熱のように熱そうな髪色の女性が顔を突っ伏して、寝ているのか、気絶しているのかわからないが、ピクリとも動ないでいた。
よく見ると髪を全部ではないが一部後ろに纏めている。いわゆるポニーテールだ。
そんな彼女に俺はとりあえず「大丈夫ですか?」と声をかける。
するとその灼熱の炎のような髪色の女性が「うん…………っ!? 私いつから寝てた!?」と真っ赤に顔を染めて、俺に聞いてきた。
俺はそんなの知らないと答える。
そう言うと、その女性は心底どこか遠くを見ているかのように、ため息をして俺のほうを少しだけ見て、こう言った。「あら、それならもういいけど……じゃあ暇だし私に付き合ってくれる? 飲みなおしましょう。昨日ねワインを三本開けちゃったの」と悪びれないで答える。
そしてその女性はいきなり立ってどこかにいってしまった。と思ったら5分ぐらいして直ぐに戻ってきた。
そして左手にはワインの瓶が抱えられていた。
おい、まさかそれ……そのまさかである。
女性は徐にそれを勢いよくテーブルの上に置き、栓を抜き、どこから取り出したのかワイングラスを二つ出し、赤ワインを注いでいく。
「ほら、飲めよ。私の驕りだ。ちゃんと味わえよ」と言う女性。
俺はそんなこと言われてもと既にマスターが置いてくれたコーヒーを一気に飲み干して、少し迷うふりをしてワインをおそるおそる飲んだ。
その赤ワインは意外にもまったく苦みとかはなく、豊潤で香り高い、高級ワインのような渋みがあった。
この女性なかなか趣味がいいのかもしれない。
そう思い、何回か赤ワインのグラスに口をつけていると、彼女はまだ一口もワインに口をつけていないことがわかった。
そして彼女は口を開いてこう言った。
「私は赤ワインを好きだから飲んでるんじゃない。酔いたいから飲んでるんだよ。変かな? まあ単純に酔って嫌なことを忘れようってことあるだろ? それに赤ワインなら好きではないが何回も口につけて飲めるから飽きないし、それに私には嫌いじゃない」と言う。
それって要するに好きなんじゃと俺は突っ込みたくなったが、あえて言わない。
それでも女性は話し続ける。「私ね……こう見えても夢、なんだと思う? わかるかな? ふふっ教えてあげてもいいよ私にこれっ付き合うなら」とやっとワイングラスを持ち、俺のワイングラスにそっとくっ付けて乾杯する。
そして彼女は赤ワインを一気に飲み干す。
「ぷは~~~、美味い。さてもう一杯。チビチビチビチビ……ゴクンッ……ふうっ……さてもう一杯」と言いまたもグラスに赤ワインを注ぐ。
なんという酒豪。俺は目眩がしそうだった。主に酒のせいだ。
そして俺達はこの後一時間ぐらい飲んでいた。
ようやく飲み終えた。ワインの瓶は空っぽになっていた。
そして女性は完全に出来上がっていた。
俺も酒にはそんなに強くないが、適当に飲んでいたから彼女が殆ど飲んでいたので飲んだ量はそんなにない。
「ねえ~あなたそういえば名前なんて言うの~? 私はね、ヴァルゼンて言うの。本名じゃないわよ。ニックネームに決まってるじゃない。外国人じゃないんだから」と俺に聞いてくる。
俺は自分の名を名乗った。
するとヴァルゼンさんはこう言った。
「そう、タケオって言うの、いい名前じゃない。そんなことより私ね一人じゃ寂しいのよ。今ままでソロプレイだったのずっと。だからね、あなたを私のパーティーに誘いたいのよ。駄目かしら」と色っぽく、大人の妖美な色彩を感じる態度で言う。
俺は一瞬だが、心揺れる。だが、直ぐに正気になり返事をした。
「それは無理な相談ですね。俺には既に仲間がいるんです。すいません」と断る。
だが彼女ヴァルゼンは食い下がる。
「なら私があなたのパーティーに一時的に入る。そして気に行ったら私を仲間にするか私のことを気にいればあんたが私のパーティーに入るとかどうよ? いい案じゃねえかな?」と意地悪してくる子供のようにいたずらに助言するように言う。
俺はこう返す。
「あなたが俺のパーティーに入るのは仲間が了承してくれたら話は別ですけど、俺が抜けるとかそういうのはありえませんよ絶対に」と強く言う。
そう言うとヴァルゼンさんはそう来るか……という顔で俺に対抗した。
「じゃあこうするか? 私があんたのパーティで役に立つなら私がお供してやるからよ。いいだろ? それで?」とさばさばと言う。
まるで最初からそう言いたかったのように」
すると彼女はついてこいと言わんばかりに俺の腕を掴み、強引にどこかに連れ出した。「ついてこいよ。私があんたにいいものを見せてやるからよ。こい……こいったら、おら!!」俺は抵抗するがどうやら無駄のようだ。
俺は彼女に無理やり連れて行かれた。
なんだろう、断れない自分が情けない……受け身の俺はこういう女性は苦手だ。
なんなんだよこの状況。俺は困惑しながら彼女について行った。
39-2「煌びやかな情熱の赤のような景色」
俺は今ヴァルゼンさんという灼熱の炎のような髪色で、後ろ手に髪を一つに纏めた、いわゆるポニーテールの髪型の女性と一緒に歩いていた。
なお胸のサイズはと言うと……巨乳である。
まさに巨乳。大きい。俺の顔がそこに挟まったら、窒息しそうなほどの大きさだ。
そんな彼女はと言うと、今俺の肩をがっちりと掴んで離さないで俺をある場所に招待しようとしていた。
「そこはな……なんていうかよ! 真っ赤だけど情熱的なとこで、心が少し温まるいい場所なんだぜ」と大きい声だが静かに丁寧に言う。
彼女はそこに何度も通っていると話す。
だからこの58階層を旅立って、次の階層に行けないとか。
俺はヴァルゼンさんに合わせて、話を相槌を打ちながら聞いた。
目的地には話しながら向かっている。
道中モンスターが普通に出現するが、軽やかな身のこなしで敵を粉砕するヴァルゼンさん。使っている武器は剣で、片手でも持てる、片刃の中ぐらいの長さの剣で、女性でも持てるようにかなり軽量化されたものである。
どちらかというとレイピアに見えるが日本刀に近い印象だ。
そんな彼女だが、かなり剣捌きが慣れているのか、敵のモンスターを倒す場合いつも正面からではなく、死角を狙っている。
実際問題このゲームの中にモンスターの死角なるものが存在するのかわからないが、彼女はいつも敵を欺くかのように正面からではなく、真横とか斜め右後ろとかはたまた上空からとかから攻めていた。
そんでもって俺は彼女が一人で戦うのを横目に見ていた。
おまえの力なんて必要ないぜみたいな雰囲気で俺を放置しながら戦っていた。
そのまま少しずつ少しずつ前に進み、森をぬけて、川にかかる一本橋を渡り、荒野を駆け抜けて、またもや森をぬけたところに大きな広場に出た。
そこは周りが火山地帯のように熱いが花の絨毯がひかれていてその花は赤い、灼熱のように燃える赤だ。
そして花と思っていたそれは落ち葉だった。
正確に言うと落ち葉のような花なのか、花のような落ち葉なのかわ俺にはわからない。ただ一つ拾ってみると、じんわりと熱が残っていた。
「こっちだよ。タケオ……こっちに来てみろよ」と俺を手招きするヴァルゼンさん。
そしてそっちのほう、ちょうど奥の細い道があり、大きな蝋燭でも燃えてるのか、奥の方が火事なのか燃えているそれが。
それは何なのかと言うと、一言で言うと燃えている木というか桜? なのか炎で燃えているかのように情熱的な謎の花の木があった。
メラメラと良く燃えている。
でもそれは人工的に燃やされているのではなく、自然の中で燃えている花の木だ。木の幹は薄緑色だが、花びらは灼熱の炎を想像する真っ赤なまさに灯が灯っている一つ一つの花がだ。
俺は正直感動した。こんな花を見たのは初めてだ。
というか現実には存在しないだろう。
これはまさにゲームの世界の異次元の光景でしかない。
熱も感じる、この花自体が生きている、そう感じとられる。
生命の神秘を見てしまったような感覚に襲われる。
そして俺が感動していると、ヴァルゼンさんが語り始めた。
「私な、この花の木を見て暫くここを離れられなかったんだ。そして全部私のものにしたいとか馬鹿な考えが浮かんだが、やめた。なんてったってこれだぜ!? この美しい見たこともない絶対この世界でしか見れない花だぜこれは。もう写真に撮りまくって永久記録したいなとも思ったが、それもやめた。この花の生きざまを写真に撮るなんて私には到底できないしな。写真よりも記憶の本棚に残しておいたぜ、私は。タケオもしっかり目に焼き付けておくんだな」と言うと、彼女は思いっきり笑い出して、直ぐに一粒の涙を流して、こう言った。
「私も何せここを離れないといけないからな。だから、最後にここにもう一度誰かと来たかったんだ。私と一緒に見てくれるやつをな。それがおまえだよ、タケオ。あんたならここの秘密を誰にも言わないと私が確信したからな。おまえみたいな気の弱そうなやつが私との約束を破るなんてこともちろんしないよな?」と俺の眼を覗きこんで念押しするように高飛車な態度で言う。
「もちろん、誰にも言わないし、二人でこのことを見たとも言いません」と俺は本気で言った。
こういう時は嘘をつきたくないと思った。相手が真剣な時に嘘をつくなんて俺には出来なかった。
実際ヴァルゼンさんはこのとき真剣で正直に俺に話しかけてきたからである。そんな彼女に嘘はつけない。
そうしたら彼女はこう言った。
「まあ、そんなに二人だけの秘密に固執することないけどな。おまえが信頼しているやつならここに連れてきてもいいぞ。私もそれは考えてやる。そういえばおまえは今誰かと旅をしているんだったな? それはどんなやつだ……わかった。その眼は、女だな」と言うと、俺はちょっと下を向いて、視線を外してしまった。
「そうだろ、そうだろ。やはりそうか、女か。なあに恥ずかしがることない。私だってこういう話し方だが一応女だ。だから恥ずかしがるなタケオ」といたずらっぽく言う。
彼女は自身の前髪を触り、少し整えて俺の手を握る。そしてこう言った。
「私がおまえの力になるなら手を貸そうじゃないか。今ままでソロだったが、考えが変わった。おまえのパーティーに入れさせてもらうぞ。拒否はさせないからな、絶対……」と真剣な表情で俺の顔を見る。
そしてヴァルゼンさんは俺の頬に口づけをした。俺は何をするんですか!?と驚いて言うと、彼女は「なあに、ただの挨拶だよ。イギリスではそうだろ? 私イギリスに長期間滞在していたからね。だからかな」と当然のように話す。
そして今度は俺の頭を自身の胸に抱き寄せて、俺を抱きしめた。
俺の顔は彼女の大らかな豊満な胸に吸い込まれて、俺は危うく呼吸困難になりそうだった。
「ぷはーーー。だからちょっと、スキンシップはほどほどにしてもらわないと……一応殆ど初対面ですし」と俺は困ったように返す。
それでも彼女は ? みたいな顔をして俺の顔を見ていた。
彼女はもしかしていつも初対面の男性にこういうことをしているのだろうか、などの疑問が出たがそれはないかと結論付けた。
なぜなら彼女は俺のことを気に入っているような素振りだし、なんか友達ができた感覚だった。
そして俺は彼女とともに立ち話しながら、家路についた。
そして事の顛末をもちろんキスされたなどのことは省いて、ルカに説明した。
すると彼女は少しだけ頬を膨らませて、なんか怒っているように見えるが、多分気のせいだろうと思い、俺はルカの言い分を聞いた。
「そ、そ、そうですね。私たちも二人だけの旅はどうかしていると思っていましたし。で、でもこんな綺麗な女の人と、タケオさんが旅をす、するなんて、まま私もいますから、大丈夫だと思いますが……でも、でも……」となんかいつもより悩んでいるかのように話した。
俺はそんなルカをしり目に見ていたが、ここでヴァルゼンさんが切り込んでくるようにルカに話しかけた。
「やあやあ、ルカちゃん。君ならわかってくれると信じていた。実際私も寂しいんだよ、心苦しかった。だからこんな同年代ではないが女の友達が出来るなんて夢にも思わなったよ。仲良くしようぜルカちゃん」とわさわさと流れていく水のように、自然に話した。
ただ、俺が聞いたところだとごく自然ではないように感じた。ルカを納得させるために、仕方なくルカのことを友達とか言ってるように感じた。
つまり話の重要な所はぼかしているように感じた。
「えっえっ、友達? 私が……そうですね。いいですね。わかりました、ヴァルゼンさんと一緒に旅をします。タケオさんじゃあそういうことだから、いいですよね?」と俺に確認してくる。
俺はもちろん良いに決まっていると言う。
そして三人で手をかざして、円陣を組み、俺達は次の階層に向けて旅立つのであった。




